夢のマイ・プラネット生活

ちびまるフォイ

理想の生活に他人はいらない

「どうだ! ここが夢のマイプラネットだぞ!」


200年ローンをしてついに夢の自分惑星を手に入れた。


「すごーーい。本当に私達だけなの?」

「パパすごーーい」


「もちろんさ。まあ、そりゃ地球よりは小さいけど。

 でもこれくらいこじんまりしたほうがアクセスしやすいだろう」


「パパ、この惑星にはどんなものがあるの?」


「なんでもあるさ。ちょっと車を走らせれば自然。

 それにあっちには砂漠、こっちにはマングローブ。

 電車を使えば氷河だって見れちゃう」


「すっごーーい!!」


「小さいぶん、惑星旅行も日帰りでいけちゃうぞ」


「あなた。いつまでもはしゃいでないで荷物を入れましょう」


「あ、ああ。そうだったな」


念願だった自分の惑星での生活がはじまる。

自分の惑星なので貨幣もルールも自分で決められる。

まさにやりたい放題。


「ねえあなた。この惑星の法律で全裸が制服とかにしないでよ」


「あのな……。そんなことするわけないだろ……」


なんでもできるとはいえ、なんでもするわけではなかった。

どうせ家族しかいないのでルールなどの制定も特にしていなかった。


自分の惑星移住から1年後。

それは娘からふと求められたことだった。


「え? 誕生日プレゼントに……友達がほしい??」


「うん……。私、衛星テレビで見たの。

 他の惑星の子は、友達や学校で楽しく過ごしてるって」


「お前はこの惑星しか知らないから憧れるだけだ。

 他人なんてのは制御できないし、迷惑だってかけるんだぞ」


「でもほしいんだもん!!」


「ええ……?」


デカいトラブルを抱えてしまった。

自分の惑星を買うに至ったのも、他人に関わりたくなかったからだ。


その一方で娘を喜ばせて上げたいという親心もある。

どうしたものかーー。


誕生日の当日。

娘は外に出るなり目を輝かせた。


「パパ!! パパ、見て!! 他の人がいる!!」


「ああそうだ。これがパパからのプレゼントだよ」


娘の要求にはあらがえなかった。

高い買い物だったが『ペンシルバニア・ファミリー ~他人botたち~』を購入。


家族以外は無人だった惑星に始めて自分以外の他人が移住した。

娘は大喜びでbotに話しかけていた。


彼らのうなじには『MADE IN EARTH』と印字されているが、

きっと娘は気づかないだろう。


「あなた。あんなもの買ったの?」


「ああ、やっぱり友達がほしい年頃なんだな」


「私の誕生日には花一輪だったのに?」


「君が別にいらないって言ったんじゃないか」


「……ふぅん。で、娘が飽きたらどうするの?」


「飽きるもんか。あのbotはもともと別の惑星の本物の人間のクローン。

 人間らしい動きをリアルに再現してくれている。

 本物以上にホンモノだ。半永久的に遊んでくれるはずだよ」


自分の予想通り、娘は他人botに大満足で飽きる様子なんかなかった。

けれど問題は別にあった。


他人を追加してからというもの、ひっきりなしに自分に連絡がくる。


「あっちで犯罪!? ああ、もうまたか!!」


本物を完全再現した他人botだけに悪さも頻発。

しかも法整備もおざなりの惑星だったのでまさに無法地帯。


法律やルールを決められるのは、惑星オーナーである自分なので必然的に情報が集約される。


「えーーっと、あの法律を決めて、罰則はこれ。

 ああもう次から次へと……」


連日連夜徹夜ばかり。

とにかく快適で安定し平和な惑星にするために今がふんばりどころ。


家族とろくに顔も合わせずとにかく惑星の安定化を進めていった。


「ただいま……ん?」


ある日、惑星にある自分の第3の自宅に帰ったとき。

そこには書き置きだけが残されていた。



『母星に帰らせていただきます。  妻より』



「ええ!?」


慌てて娘と妻を探したが、すでにこの惑星にはいなかった。

やっと惑星の内情が安定したと思ったら今度は家族トラブル。


「もう勘弁してくれよ……。なんで誰もいたわってくれないんだ……」


がっくりとうなだれてしまった。

数日はそんな調子だった。


ある日、惑星間エレベーターでご近所惑星の人がやってきた。


「こんにちは、最近隣の衛星軌道に惑星を構えたものです。

 これからご迷惑おかけするかもしれませんが……。

 

 あの、失礼ですがおひとりで住まわれてるんですか?」


「いえ……実は、妻が母星に帰ってしまって……」


botに相談するわけにもいかず、ただ塞ぎ込んでいたが

ご近所さんが来たことで初めて生身の人間に相談できた。


「なるほど……。実は私も同じような経験があるんですよ」


「本当ですか!? どうやって呼び戻したんですか!?」


「特別なことはしてません。

 どれだけ自分が相手を大事に思っているかを伝えて、

 これからどんな生活をしていきたいかを相手に伝える。

 そうすれば戻ってきますよ」


「なんですかそのこっぱずかしいことは……」


「書き置きが残されている以上、

 あなたに振り向いてほしいんですよ。改善してほしいんですよ」


「そういう……もんなんですか?」


「承認に飢えてるんです。どうかご自分の気持ちを伝えてみてください」


「ありがとうございます、頑張ります!!!」


やっぱり生身の人間は違う。

ちゃんと前向きなアドバイスをしてくれる。


このまま離婚なんてことになったら娘にも悪影響が出る。

なんとしても妻と娘に戻ってもらわなくちゃならない。


「自分の気持ちを……ちゃんと伝える……!」


普段、好きとか愛してるとかも言えない自分だが

ここは恥をしのんでとにかく相手が求める言葉を伝えよう。


覚悟を決めて、惑星電話をつなげた。


「もしもし?」


『なに?』


「実は……伝えたい事があるんだ」


その言葉で妻の表情がゆるむ。

きっとこの展開を期待していたんだろう。


「僕には君に戻ってきてほしい」


『どうして? 私はこの母星で快適に暮らしてるわ。

 なんで戻らなくちゃならないの?』


「それはーー」


一緒に家事をしてくれる君が好きだ。

君が作ってくれたご飯を食べる団らんが好きなんだ。

君と一緒に娘の成長を近くで見守っていたい。


そのような言葉が頭に浮かんで口から変換される。


「君に家事をし、ご飯を作ってほしいんだ。

 それに娘も目の届く範囲においておきたい!

 それが君と娘に戻ってきてほしい理由だ!」



『……そう』


衛星電話はそれで終わった。

手ごたえはあった。


これまでちゃんと言葉で伝えられていなかった自分が、

より一歩踏み出してちゃんと言葉にできたという自負がある。


「これなら妻もきっと考え直してくれるはずだ!!」


そして、自分の予想通り妻は離婚せずに戻ってきてくれた。


「パパーー!」

「あなた。戻ってきたわ」


「ああ……おかえり……!」


ふたたび惑星には平和と家族の安寧がもたらされた。

衛星電話の効果があったのか、妻も娘も前より懐いてくれている。


自分が描いた理想の家族像がここにあった。


「これが自分の願っていた夢のマイプラネット生活だ……!!」


「パパ、なんで泣いてるの?」

「あなた。泣いてないでお風呂入りましょう」


「ああそうだな。今日は家族みんなで大きなお風呂に入ろう」


家族みんなでお風呂に入られるなんていつぶりか。

それを妻から言い出してくれることが嬉しかった。


そして、みんながひとつの湯船に入ったとき。



妻と子どものうなじに目が止まった。



『MADE IN EARTH』



その印字はけして見なかったことにした。

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