第13話 イケメンすぎる冒険者、また被害にあう③
再び殴りかかろうとした相手をかわした。
しかし、もうひとりの男が前を遮って膝蹴りを入れてくる。
股間を狙ってきたため、咄嗟に膝を落として腹で受けとめた。
そして、「うぷっ!?」とリバースする。
薄い琥珀色の液体が、口から勢いよく吐き出された。
どうやら、メガサイズのカルーアミルクとマウンテンホイップクリームが効果を発揮したようだ。
もちろん、相手の体を両手でがっしりとホールドして、下半身にぶちまけることを忘れない。
「うぎゃーっ!?」
想定外だったのか、吐瀉物に塗れた男があわてて体を離そうとする。だが、こんなチャンスを逃すわけがなかった。
ホールドしていた手で相手の重心を揺るがし、もうひとりの男の方へと突き飛ばす。
「うわっ、来るんじゃねぇ!?」
吐瀉物を見て顔を引き攣らせたもうひとりが、逃げようとして足をもつれさせて転んだ。
俺は汚物に塗れた男の背中を蹴り、倒れた男に被さる状態で共倒れにさせる。
ぐるんと残るふたりの女性冒険者の方へと向き直った。
ゆっくりと近づくと身構えようとするので、再び「うぷっ」とリバースのフェイクを入れておく。
ふたりが顔を見合わせながら後退りだしたため、俺はうぷうぷと頬を膨らませながら、そちらへとさらに近づいていく。
顔をひきつらせたふたりはそのまま逃走した。
倒れたふたりに視線をやると、「くせぇ」「てめぇ」と互いに罵りあっている。どうやら、こちらへの敵意どころではなくなったようだ。
俺はそいつらの視界に入らないよう、こっそりとその場を後にした。
離れた位置まで来た俺は、まだ胃の中に残っているカルーアミルクとホイップクリームを吐き出しておく。
大量の甘味に耐性のない俺にとって、今日の摂取量はかなりの負担となったようだ。
さすがというべきだろうか。あれだけの糖分を胸焼けもせずに消化するとは、Sランク冒険者マイク・バルカン恐るべしだ。
とはいえ、そのおかげで窮地を脱することができた。
腕におぼえがないわけではないが、冒険者同士のいざこざは後を引く。
あの場面で相手を屈服させたとしても、遺恨を残した挙句にさらに敵の数を増やして報復されるだろう。
そうなれば、またここの冒険者ギルドから追放になりかねなかった。
他の地域で活動すること事態はかまわないが、あまり追放されたという履歴は残したくない。仮に人相風体を変えたとしても、冒険者本人の認証というものは特殊な魔法で登録される。
二重登録や偽造などの犯罪を防ぐためだというが表面上の理由らしい。実際は国が優秀な人材を確保するためと、冒険者証の商標権を持っている商業ギルドの利権のためというのが本来の目的とも聞く。
冒険者証も魔道具の一種のため、その利益は莫大なものだろう。
俺たち庶民には想像し難い世界である。
吐き気や気分の悪さがおさまってきたため、定宿に向けて歩き出した。そして、その時になってようやく、誰かに見られていることに気づくことになる。
視線がぶつかった瞬間に相手が誰だがわかった。
「ずいぶんと回りくどいことをする。奴らくらいなら、労せずに退ける力があるのではないのか?」
低くずっしりとした声だった。
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