コワモテ無双
琥珀 大和
第1話 イケメンすぎる冒険者は苦悩する①
「え、高くないっ!?」
「そうは言ってもね、需要がないものを特注するとなるとそれなりにするんだよ。しかも、あんたが欲しがっているのは前代未聞のものなんだし。」
いやいや、それはわかるが⋯白金貨はないだろう。
「言ってる意味はわかるが、その値段だと王都の貴族街に豪邸が建つだろう。いくら何でも高過ぎる。」
「わたしも暇じゃないんでね。さっきも言ったように、需要がある物をどんどん作らなきゃならん。あんたのために長期で時間を取られるわけにはいかんのだよ。」
ああ、要するに断り文句という訳か。
実現が難しい魔道具ともあって腕の確かな職人に声をかけてみたが、やりたくないってのが本音なんだな。
「わかった。他をあたる。」
「まあ、がんばんな。あんたのことだから、どこに行ってもいい返事はもらえないだろうがな。」
踵を返しかけて止まった。
「どういう意味だ?」
「本当かどうかは知らんが、あんたはあまり良い噂を聞かんからな。」
やはりか。
何ヵ所かの町で職人に声をかけているが、どこもいい顔をされなかった。
製作が難しい魔道具というだけじゃない。
俺の悪い噂が職人たちにも出回っているんだな。
「そうか。ほとんどが誤解なんだがな。」
「そうかもしれんね。だけどよ、あんたのために他の冒険者の仕事を断るようになったら、俺たちの商売もあがったりだ。悪いことは言わねぇ。体の一部位の色を変えるだけの魔道具なんざ難易度が高いだけで量産もできねぇし、まず売れねぇよ。そんなもんに手間暇かけるような奴は、白金貨でももらわなきゃ採算に見合わねぇってこった。」
確かにそうだ。
魔道具職人は時間や労力だけじゃなく、非凡な才能と技術や術式構築など独特な勉学を修めている。そのため、魔道具の値段はそれなりに高く、量産ができて売れ行きのいい物を作りたがるのだ。
俺が望む魔道具など、異常創作物に魅せられた一部の変態職人でしか受け入れられないだろう。
いや、その道具に面白みがなければ、土台無理な話か。
「そうだな。悪かった。」
俺は断られはしたものの、親切心で言ってくれているであろう魔道具職人に礼を言ってその場を後にした。
う~ん、別のアプローチを探してみるべきか。
俺は前髪をかきあげた。
近くを通っている若い女性ふたりが頬を赤らめる。
ちらちらと俺の顔を見てくるので、笑顔で軽く会釈しておく。女性たちはさらに顔を赤く染め、「きゃっ!?」などと小さく悲鳴をあげた。
ああ、またやってしまった。
条件反射のようにこんなことをするから、いろいろと嫌な思いをするのだ。
俺が生まれ育った家庭はそれなりに厳格だった。
挨拶や礼儀の大切さ、人とのつながりの重要さなどは物心着く前から当たり前のごとく説かれたものだ。
そのおかげか社交的な性格となったのはいいが、この顔のせいでいろいろと問題が多発した。
まず、他意はないのに女性と普通に話しているだけで周囲の野郎どもが嫉妬する。まあ、それなりに話術や話題には長けているからかもしれないが、俺のそういった行為が手当たり次第に女性を口説いていると誤解を生む。
実際にそういった感情を抱く女性もいるのだが、個人的に外見や一時の会話だけで好きになられても困る。
それほど派手な恋愛経験はなかったが、表面的なものだけを好かれても長続きしなかった。こちらにとってはいい迷惑でしかないのである。
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