番外編 不動 純香 眠れる才能と憎悪に触れし者 2/2

あれから、数年経った



「剣一も来年高校生か・・・早いもんだ」


「純香さんは変わりありませんね・・・」


今日は姉の誕生日だ、姉が亡くなってから毎年姉の誕生日の日にこうして甥っ子と食事をしてる


「やっぱり剣一は姉さんに良く似てるな、しかしその髪の毛はなんとかならんのか?もう少し清潔にした方がいいぞ」


苦笑いする甥っ子は、恥ずかしそうに自分が今はまってる事について話だした


「ほう?趣味で小説を?どれw私が品定めしてやろう!こう見えてもプロだ!!」


私は剣一の趣味で書いたと言う小説に驚愕した、とても素人とは思えない出来栄え斬新なアイデアに引き込まれるストーリー魅力的なキャラどれもが超一流だ


「け、剣一?これは?!」


「まぁ趣味だしね・・・恥ずかしいな」


「け、剣一!これを私に預けないか!絶対にこれは世に出すべき作品だ!私が必ず出版してみせる、いや私に任せてくれ!」


甥っ子の作品にほれ込んだ私は、渋る剣一を素性を伏せる事を条件に説得し会社にねじ込んだ


「不動君・・・無名の作家をいきなり書籍化させるとか正気かね・・」


「金森編集長!これは間違いなく売れます!私には自信があります!」そう言うと金森は私の体をジロジロ見てニヤリと笑うと


「まぁ・・ほかならぬ純香君の頼みだ・・私から上層部に推しておこう・・・」


「あ、有難うございます!」




剣一の書籍は私の予想をはるかに超えるヒットを飛ばした、アニメ化、映画化、グッズ化、どれもが社会現象をおこした


「剣一、あんたのお陰で私は編集長に昇進だ!これで禿げ上司と同じポジションになって、やっとセクハラから解放される!!」


剣一に私なりのお礼を告げると、社長とセクハラ親父が剣一と会いたがってる事を告げる

剣一は、合うにあたりいくつか相談、というか口裏合わせを頼まれた


「まず、僕と純香さんの間には血縁関係が無いという事にしてください、これは僕の身を守るのと同時に純香さんの家族を守る為です」


「次に、僕の本名は伏せて下さい、僕が本名を明かす時は僕のタイミングで行います」


「僕が他の出版社からの契約を匂わすと他の出版社に先駆け、僕との出版の契約を交わそうと考えるはずです、その際に僕の為にどこかの居住物件を提示してくると思います。」


「その際は話を純香さんに振るので、僕が未成年で個人契約出来ないので一旦会社の所有物件として僕に年3冊以上出版する条件で貸与する旨を提案してください」


剣一の言う事は理解できたが、相手が2人も居るのにそんな想定した通りに話が進むのか?と疑問に思っていたが稀有だった


打ち合わせは殆ど剣一の想定した内容にて進み何事もなく終了した、私は自分のデスクの仕事を片付ける為に会社に残ると言い残し、タクシーを会社で手配し剣一を送ってもらった






数日後出社すると女性社員の部下が不動先生が顔出しで文部科学大臣とテレビ電話会談をして話題になってると騒いでいた


しかも学校でのイジメの事まで暴露しており、SNSでは剣一の本名の事や学校や実際にイジメていた相手、それに裏切った幼馴染の雫ちゃんの事まで・・・


その上、学校内でのイジメに反発して、逆に今までイジメていた連中を返り討ちにした事も話題になっていた。


私は直ぐに剣一に確認しようとすると


【ピロロロ 澄恵?なんだこんな時に・・・


「もしもし?澄恵?すまないが、後から・・・え?剣一が!?・・・判った今から私が病院に連絡する!すぐにタクシーを呼ぶように!」


どうやら剣一は学校を出て直ぐに倒れた様だ、私は近くの池月病院以外を避けて知り合いのいる大学病院に連絡を入れ剣一を連れていった


「澄恵・・剣一の事ありがとうな・・・」


入院手続きをして家に戻ると澄恵から話があると聞かされた内容に驚いた


どうやら澄恵は以前から剣一の事を知っており好意を持っているらしい、剣一の義妹ともよく遊んでいて最近は無くなったが昔は良く剣一とも遊んでいたそうだ


そして、先日、車とぶつかりそうになったところを偶然剣一に救われたらしい


だから剣一の入院中のお世話や身の回りの事を自分にやらせて欲しいと懇願された



【俺に、家族や友人は不要です】


剣一の言葉が頭の中で木霊する、私は澄恵の肩を叩き軽く首を振った、澄恵の表情は伺えないが俯いて何かブツブツとつぶやいている


しかし、剣一の退院日に澄恵にあることを頼まれた・・・


「はぁ~・・お前のその頑固で自分勝手な所・・誰に似たのか・・・」


澄恵は剣一が使ってるハウスキーパーのバイトに無理やり入り込み不動 剣一と従妹だと私に証明させることで、剣一の専属契約ハウスキーパーに変わって、まんまと居住スペースに侵入を果たした


(そこまするのか・・・そんなに剣一の事を好きなのか?・・・)


母親としては歓迎してるが、剣一の置かれてる状況はかなり特殊だ(だからこそ誰か支える必要もあるか・・・)



その後剣一の学校では、半グレの襲撃騒動がありどうやら剣一も騒ぎに一枚かんでるようだったが、どちらかと言うと被害者という立場だったようだ


連日の報道でイジメの問題が浮き彫りになり、学校側が意図的に加害者を擁護していたという報道に学校内外からバッシングが収まらず政府機関により徹底的な調査が行われ加害者の親から不正な金銭を受け取っていたとして校長と教頭が懲戒解雇の上刑事告訴され逮捕となった


それ以外の教職員も関わっていた全員が懲戒解雇もしくは左遷となった




そして剣一はというと・・・


大物作家の皆川と金森と3人だけで、夜の東京湾海上ディナークルーズ中に事件が発生しクルーザーは沈没、奇跡的に浮き輪に捕まって海上を漂っていた剣一だけが救助された


暫く検査入院していた剣一が、退院後に会見を開くとして私に申し入れしてきた


「純香さん、僕は小説家を引退しようと思います」


「え?なに?急に・・」剣一の表情はいたって冷静だし戸惑いも後悔も・・・そして覇気も無い・・


「いきなり、引退と世間に公表すると混乱を招きますので、暫く著書の出版を自粛するというニュアンスで会見します、その後は自然風化して忘れ去られるのが良いと思います」


「そ、それは・・・「それと、僕の著書の管理会社であるエンシェントジャパンは出来たら純香さんの旦那さんに譲りたいと考えてます」


「!?おいおい剣一!良く考えろ、何があったか知らないが作品に罪はない、良く考えて・・・」


剣一の意思は固く、話の続きは会見の後にする事となった。


会見場にきていた皆川と金森の遺族から「人殺し!!」「先生をかえせ!!」「あんたのせいで、旦那が・・うっっっ」と心無い罵声を受けながらも丁寧に謝罪して会見を終えた


会見後、剣一は再び倒れた、前回よりも切迫した状態でそのまま緊急の手術が行われた


結果、脳に血栓が出来ており血栓は取り除かれたが、その頭髪は痛みで白髪となり右手と左足に障害が残り思う様に動かせなくなった


私は剣一に「今度こそ一緒に暮らさないか?」と申し入れたが、沖縄の離島に住居を購入し、すでに姉の御骨もそちらに改葬をしているから此れからの人生姉の墓前でひっそりと過ごすという・・


あまりの手際の良さに少し疑問を抱いたが、その頃丁度ニュースで剣一のクルーザーが引き上げられ室内から皆川と金森の遺体が見つかると、室内のカメラ映像と音声データを解析がすすむ


すると、皆川は拳銃で剣一を脅し未発表の書籍を譲れと脅している映像音声が発見されその一部がメディアで公表された、その過程で金森が皆川に無名な小説家の作品を無断で横流しして、出版社編集長の立場を傘に揉み消していたことも分かった


剣一を非難していた皆川と金森の遺族は一転して、世間から猛バッシングを受ける状況になり皆川の遺族は個人資産を全て手放し皆川の著書は全て出版廃止となり生前の地位も名誉もすべて失った、一方、金森の家族は連日の突撃取材や嫌がらせ等に疲れ、世間の目から逃れる為に夜逃げ同然に何処かに越していったらしい





「お母さん、剣一義兄さんの所に行ってくるねぇw、4泊5日の予定だから♪w」


「はぁ~あんたも一途だねぇ剣一の様子からアンタに脈は無さそうだけどぉ?」


「ふふふ、い~のw私は幸せだからぁ♪」


「本当に、アンタは可愛いよ」


「でしょ~?大学でも毎日毎日、男共から声掛けられて鬱陶しいのよねぇ~私は剣一義兄さんだけ居ればいいんだしぃ♪」


「ハイハイ・・気を付けてな、無駄かもしれんが、私からも剣一にアンタを推しとくよ」


「ありがと♪いってきま~す!」


娘を見送り、自分の書斎の机から姉の診断書を手に取る・・・・


診断書を持って庭に行き火を付けて燃やした


舞い上がる灰を見上げ呟く






「姉さん・・・姉さんの息子は・・・姉さんの死によって、とんでもない才能と・・・」


















「底知れぬ憎悪を呼び覚ましたのかも知れないね・・・・私達は罪な姉妹だよ・・・」

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