番外編 狛田 陽香 親愛と怨嗟の狭間 1/2

前置き : この作品は暴力や性的な描写を伴いますが、暴力行為を助長する物では御座いません。


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〇 狛田 陽香 親愛と怨嗟の狭間



私は不動 陽香、両親は早くに事故で他界して、引き取ってくれた不動の祖父母の居る実家で2歳年下の妹、純香と一緒に育てられた。


不動の家は所謂、田舎の地主の家で決して裕福では無いが、家柄だけが祖父母の自慢だった


私は上手い事、祖父母と付き合っていたが妹の純香は元々が気が強く、良く祖父母と口論になっていた


「純香・・・あんまりお爺ちゃんに対して強く言わないであげてね」


「はぁ?姉さんあんな頭の固い爺に遠慮してんの?」


「でも、ほら・・私ら両親が亡くなってお爺さん達が迎えてくれなきゃ路頭に迷っていたんだよ・・」


「分かってるから、この程度で済ませてるんでしょ!」


純香なりに手加減はしてるらしい・・・祖父母も頭が固くて頑固な所はあるが基本は孫が可愛い普通のお爺ちゃんお祖母ちゃんだから意外と良好な関係のまま私らは育った


私も大学を出て、普通の商社に就職して3年が経つ頃には妹も大学を卒業して就職していた、第一志望の大手出版社からは不採用だったが、そこより規模は落ちるけど何とか希望の出版関係の仕事には付けたようだ


ある日、私は部署の部長から呼ばれ、お見合いの話しを持ち掛けられた


「相手は同じ業界の商社のやり手で、将来有望な青年だしイケメンと社内でも評判らしいよ、社長同士の話しで決まったお見合いだし、会社の為にも一度会うだけでも会ってくれないだろうか」


正直気乗りはしないが、会社の為と言われると弱いので渋々引き受けた


「初めまして、狛田 太一と言います、本日は宜しくお願いします」


「不動 陽香です、此方こそ本日は宜しくお願い致します」


初めて話した感触では狛田さんは紳士的で会話も弾んだ、私も男性とのお付き合いは初めてではないので、会社の面目を保つくらいには対応出来たと思っていたが・・・


「え?私と?」


一応、交換した連絡先に狛田さんから電話があり、私と結婚を前提にお付き合いしたいと正式に申し入れがあった。


お見合いしておいて、無下に断る訳にもいかずその場はお受けする事にした、それから何度か狛田さんと会う内に「この人となら結婚もいいかも」と思う様になり


夜景の見えるレストランで太一さんからのプロポーズを受けた、私も太一さんも自分の仕事を続けながらの新婚生活は慌ただしく、なかなかお互いの時間が作れない中で、私が妊娠してる事が判ると


「ああ、陽香有難う!俺もついに父親か~今からワクワクするな~」


初めて人の親になる事に旦那も私も不安を感じる事も無く、幸せな未来を思い描いていた、

私は旦那と相談し出産の準備と子育てを優先する為、会社を辞めて家庭に入る事を決めた


それから旦那は私と生まれてくる子供の為だと、今で以上に仕事に励みだした


「あなた・・また長期出張なの?・・出張明けからまだ3ヵ月じゃない・・もう少しゆっくりできないの?」


「すまない、陽香!だがここで地方の営業所と人脈を作る事は、俺の出世にきっとつながる!お前と、生まれてくる息子の為にも俺頑張るから、判ってくれ!」


旦那は大きくなった私のお腹を優しくさすると、地方の営業所に長期出向していた


「はぁ~~姉さんさぁもっと旦那さんに強く言わなきゃだめだよ!」


私は久しぶりに純香と食事にきていた、大きいお腹を気にしてくれてテラスのある喫茶店をチョイスした


「でも・・・太一さんも、私とこのお腹の子の為に頑張ってくれてるし・・・」


「私なら絶対に許さないけどね!」


純香も去年結婚していた、旦那さんは不動の家に婿養子できてくれ、祖父母もだいぶ歳をとったので純香達の家で一緒に暮らしている、昔は喧嘩ばかりの純香と祖父だったが今は純香が家長として上手く取り仕切ってるようだ


「ふふふ、純香の旦那さんも大変ね」




それから、すぐに私は男の子を産んだ名前は

【剣一】目鼻立ちは私に似ていて頭の形は太一さんとそっくりだった


「陽香よくがんばったな!君に似て本当に可愛いなぁ~」


太一さんは出張先から飛んで帰ってきて我が子を抱き上げデレデレだった


「ちょっと、太一さんそんな持ち上げたら剣一がビックリするじゃない(笑)」


翌年には純香も出産して私達は姉妹で母親となり、二人で集まれば子供の話ばかりだ、私も純香も本当に幸せだった


そんな中、剣一が3歳、琴音ちゃんが2歳の時に祖父が亡くなり、それから半年も経たず祖母が後を追う様に息を引き取った、二人とも大往生だったので葬儀は湿っぽくならずに皆で昔話で盛り上がった



ある日私は、剣一が学校の運動会で駆けっこで1番になったご褒美に動物園に連れて行く途中で、ちょっと寄り道して純香の家に立ち寄っていた


「あら、姉さんも剣一もよくきたね、今日はどうしたんだい?」


「純香叔母さんこんにちは」


「剣一?私の事は何て呼ぶんだっけ?」


「・・・純香さん、こんにちは・・・」


「うんうん、剣一もこんにちは♪」


「純香・・・アンタは紛れもなく剣一の叔母さんでしょ?何考えて呼ばせてるのよ・・」


「はぁ~姉さん・・私今でも結構モテるんだよ?女なんだから何時までも若く綺麗でいたいじゃん♪」


「・・・旦那さんも苦労するね・・」


「旦那も喜んでるし、私がモテるからって、いつまでも私にベタ惚れだし、あ、お~い、澄恵ぇ~陽香叔母さんと剣一君来てるよぉ~」


「・・・とか言いながら私は叔母さん呼びするのね・・」


「アハハハハ、まぁいいじゃない!て、あの子寝てるのかな?本当にもう」


「まぁ私達が勝手に寄っただけだし、また別で寄るよ、そろそろ行かないと動物園の時間だし」


純香と別れて約束の動物園を剣一を堪能した、剣一より私のほうが年甲斐もなくはしゃいでいたのは内緒だ





それから剣一が小学校にあがり、近所の女の子と仲良くなった、どうやら剣一が野良犬からその子を助けた事で仲良くなったようだ、剣一は不思議な子で、勉強は出来るしスポーツも万能、それに何より力が強い

私でも持ち上げられないタンスを軽々と持ち上げて私を驚かした


しかし、良い事ばかりにその力を使わず自分の思い通りにならないと相手を傷つける事も度々あった私はその都度目を見て叱る


「雫ちゃんを泣かせたらダメでしょ!貴方は雫ちゃんを守る男の子でしょ!」 「剣一!あなたの力は誰かを守る為につかいなさい!」 「思いやりよ!思いやり!」


その代わり、頑張った事は怒った時の何倍も愛情を込めて褒めた


「剣一は凄いね」「剣一頑張ったね」「剣一は何でも出来て偉いね」


旦那は相変わらず出張で家に戻れない、そして悪い事に私は機械音痴でメールやチャットアプリの類は苦手なので剣一の写真を旦那に送ったりも出来ない


こまめに手紙で写真や剣一からの手紙を送ると嬉しそうに電話を掛けてきて長々剣一と話をしてるのを、呆れながらも微笑ましく思っていた



しかし、そんな私の幸せな時間は突然奪われる・・・



「困ります・・金森さん・・・こう何度も何度も連絡されては・・」


『いや私もね、こんな事をお姉さんに相談するのは心苦しいのですが、どうにも純香君は私の事を避けてるのか話も聞いてくれなくてね』


「では、このお電話で純香への困りごとを仰って頂けたら宜しいではないですか・・態々会ってまで話する事ではないと思いますが・・」


『イヤイヤこういうことは膝を付け合わせて顔を見て話ししないと』


「申訳有りませんが、私は旦那も息子もおりますのでいくら妹の会社の方とは言え二人で会うのは非常識と思いますので失礼致します」


以前たまたま買い物に出かけた時に、純香の上司の金森さんに純香の事で相談があると連絡先を交換したが、ほぼ毎日の様に会って話したいと電話が掛かってくる


純香も念願の大手出版社に転職できて、今が頑張り時だろうから私の出来る事であれば協力したいが、金森さんはどこか信用が出来ない



しかし・・・・



「はぁ~~純香ってば何やらかしたのよ・・・」


それは金森さんからの電話だった、そうやら純香は大物小説家の先生を激怒させて、このままだと出版社との契約を打ち切ると言われて金森さんも会社も困ってるようだ


私から純香に謝罪に行くように話しますと言ったが、いまのまま純香さんに行かれては先生の機嫌を余計に損ねるからどうやって純香さんへ話して事を穏便に納めるのか相談したいとの事だった


「分かりました・・・明日水曜に神明ホテルのロビーラウンジに13:00で・・・はい・・・純香がご迷惑おかけして申し訳ありません・・はい・・では明日・・」

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