第46話 最終話 エピローグ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
〇エピローグ
「大丈夫ですか・・・聞こえますか・・・・」
目の前にはヘルメットを被っり海上保安庁のロゴの入りのライフジャケットを着た男性隊員が俺の胸をマッサージしていた
「こ、ここは・・・・」
「いま海上保安庁の巡視船です、個人保有のクルーザーからの救難信号を受診して駆けつけました」
ふと隊員の腕時計を確認したところ、上手くセットした時間に救難信号を発信した様だ
「失礼ですが、貴方は不動 剣一さんで良かったですか?沈没したクルーザーのオーナーで間違いないですか?」
「!?、たっ助けてください!!殺されてしまいます!助けて!!」
俺は隊員の腕を掴んで狼狽して見せた
「く、詳しくは港に到着次第、警察に説明下さい、我々は他の生存者を捜索に向かいます」
そういうと俺をデッキ横に寝かし、他の隊員と共にヘリでクルーザーが沈んだであろう海上のポイントに飛び立っていった。
全て終わった・・・あとはアイツ等の今までの人生を黒く塗りつぶすだけだ
俺は、港に待機していた救急隊員に応急手当をしてもらい警察に事情を説明した
数ヵ月後、引き上げられた俺のクルーザーから2人の遺体と共に、クルーザーに設置していた監視映像とボイスレコーダーの解析も進んで
超大物小説作家の不正と、それに協力する大手出版社の編集長のやり取りが白日の下に明らかになった
俺も一連の騒動について会見で謝罪し、暫く自身の著書出版を自粛する旨を公表した
しかし世間に公表されたのは、皆川が若い作家の作品を盗作していた事実と、それに協力した金森が沢山の優秀な作家の卵を私欲の為、潰してきたという事実のみだ
俺については皆川から拳銃で脅されていた事に世間は同情的で、俺の会社には連日出版を止めないで欲しい、先生の作品を早く世に出してほしいと応援のメッセージが届いた
公表された事実にはフィルターが掛かっていた、実は俺は船が沈む時間を計算し、救難信号を送る時間を調整しておいた、船が沈み救難信号を発信する間のほんの5,6分で映像とボイスレコーダーの中身を編集し俺にとって都合の悪い箇所を削除しておいたのだ、船が沈むという危機的状況での僅か数分の間にそんな芸当出来るはずも無いので警察は何も疑わなかったようだ
○官邸記者クラブ前
「大臣、以前大臣が電話会談をされた、小説家の不動氏と芥山賞作家の皆川容疑者との事件についてどの様にお考えですか?」
「私は公的な立場なので大臣としての見解は申せませんが、私的な私の感想を言うと不動君は自分の作品を守る為に、皆川容疑者からの不当な要求にも臆する事無く、自分の信念を貫いた若いながらも胆力のあるサムライだと思いました」
「ただ、彼も謝罪会見で打ち明けた様に、自分の用意した会食の席で運転していた男性にアルコールを強要したのはいただけないですね、ましてその結果2名の命を奪う事故になった、映像だけで判断は出来ませんが、彼が助かったのも本当に運が良かっただけなのですから、残念です本当に」
大臣の俺への擁護ともとれるコメントに世論は迎合した
俺の復讐の事も、母の死因の事も、他にも居たであろう女性の被害者の事も、純香さん達に知られる訳にいかないので、世間には伏せて事実は海の上で灰となり闇に葬り去った。
もしかしたら、勇気ある告発者が現れ奴らの性的暴行の事実を明らかにするかも知れないが、其れはもう俺には関係ない話だ
事件発覚以降、皆川の家族や関係者は故人になり代り、世間と被害に遭った人たちへ謝罪をし、皆川の個人資産は全て慈善団体に寄付されることになった
一方で金森の家は、連日の報道陣による押しかけ取材に家族が耐え切れず、奥さんも子供も籍を外し金森姓を捨てて何処か遠くの田舎に引っ越したと噂に聞いた
「母さん・・終わったよ・・・」
そして俺は・・・・
あれから3年が過ぎた、俺は新聞の小さな記事を見ていた
【○○刑務所内にて刑務作業をしていた、服役中の竜崎 紅丸(24)が木材をチップに加工する破砕機に元の仲間である複数人を巻き込み、頭から挟まれると言う事故が発生しました、遺体の損傷が激しく複数が同時に巻き込まれている事はわかっていますが、損傷が激しく事故に巻き込まれた正確な人数は以前不明です、事故発生を受け○○刑務所の所長は会見を開き・・・】
途中まで読んで興味が無くなったので、テーブルに新聞を放り投げる
「ねぇ従兄さん、これで良かったんですか?」
沖縄の離島に居を移していた、貯蓄と印税で誰とも関わらない隠遁生活を望み高校を中退し3年、今年で20才になる
「ん?会社を君の御父さんに譲った事かい?それともこの体の事かい?」
俺は助かったが、謝罪会見の直ぐ後に、以前の様な吐き気と眩暈と激しい頭痛が襲い、そのまま救急搬送されたが激しい頭痛の影響で髪の毛は真っ白になり、脳に損傷を残した為、利き手の右手と左足に障害が残り、杖を使わないと満足に動かせない状態になった
医者はハッキリとは言わなかったが、長年受けてきた暴力による頭部へのダメージと過度なストレスで脳の一部に血栓が出来て【痛み】を感じる脳神経がマヒしていて物理・精神的なダメージを感じない体になったとの事、体や心が壊れる前に抑制する【限界前の痛み】の制御の効かなくなっていたので無茶な事でも平気で出来たのでは無いかと推測していた
ただその許容を超える肉体的、精神的ダメージを受けると蓄積分が纏めて反動で襲ってきて今回と前回の入院騒動になったのだろうと、俺の状態に結論付けていた
俺は後悔もないし、目的は達した今は生きようが死のうが興味もない、だから診断結果を聞いても「それがどうした?」と思うだけだ
そして最近母の墓前にて思う
母の残したあのレポートは、母が俺宛てに残した呪いだったのでは無いかと
『剣一は凄いね』
母の言葉は俺の中で、自分は凄い人間だがら母の無念もきっと晴らせると思い込み
小説家となり、自分にとっての邪魔者を排除出来るだけの権力と力を手にして
最終的に本当にやり遂げ母の怨嗟を晴らした
『剣一は凄いね』
呪いだろうと怨恨だろうと構わない、母の事を恨むつもりも嘆くつもりもない、呪いと怨嗟を受け入れ勝手に実行したのは間違いなく自分の意思だ
しかし、母のレポートを見なければ、母の死因を知らなければ、もしかしたら幼馴染みや義妹との穏やかな日常も送れていたのかも知れない
まぁこぼれたミルクは戻らない、泣いてタダをこねようがな・・・
物思いにふける俺を、悲しそうに心配する顔が、ますます母さんに似てきた澄恵さんに「心配ないよ」と微笑む
「まぁ全く動かせない訳じゃないからね、多少不便だけど、その気になればお手伝いさんでも雇うよ」
「だったら私、大学卒業したら、正式に従兄さんの所に住み込で永久就職します!」
折角誰にも関わらない様に離島に家を買い、不動家の墓を用意し母の御骨も改葬して、残りの人生を母の墓前近くで静かに過ごしたくて移住したのに
連休になるとこうして澄恵さんが不動家の代表だと口実を付け様子伺いと色んな世話をする為に泊まりで遊びに来る。
純香さんも面白半分なのか、澄恵さんを応援しているらしく「娘をよろしくな(笑)」と先ほども電話があった
(まぁ、抜け殻の俺には雛鳥のお尻にへばり付いている位がお似合いなのかもな・・・)
左手の操作に慣れないスマホで純香さんや旦那さんからのメールを確認していてふと横を向くと、澄恵さんが俺の隣でハンモッグに座り誰かとしきりにメッセージを送り合ってる様だった、チラッと横から見えた内容が
姫【今日出てくるみたい】
黒羊【そっか、いよいよだね】
姫【黒羊ちゃん行ってくるね】
黒羊【わかったよ姫ちゃん】
姫【それじゃ、さよなら】
黒羊【さよなら】
覗き込む俺にビックリして驚く澄恵さんはスマホを隠し悪戯っぽく笑うと
「ちょっとぉ~♪女子大生のスマホを覗き込むとか、もう従兄さんには責任とってもらうからぁ~♪」
「澄恵ちゃんて、SNSのアカウント【黒羊】だっけ?」
「うんん違うよこれは、ゲームで使ってるアカウント、でも今日で一緒に遊んでた人も居なくなるから、このアカウントも削除しちゃうの~♪」
・・・・・そう、居なくなるの従兄(おにいちゃん)の周りから
私は一途に想い続けて来たから・・・
好きになった、初めて陽香叔母さんに連れられて家に立ちよった時、玄関先で見かけてから
羨ましくて嫉妬した、剣一さんに琴音(クズ)と言う名の義妹が出来たと知って
剣一さんしか見えなくなった、あの日公園で琴音(クズ)と一緒に助けてもらった日から・・・
剣一さんの一番になりたかった、琴音(クズ)の部屋に遊びに行って、隣の部屋の剣一さんと幼馴染(クズ)の話声が聞こえてきてから
私だけを側に置いて欲しかった、あの日車との追突から助けてもらった日から・・・
だから私は徹底的に排除する・・・
従兄を見下して蔑んでいたクズの元義妹も
従兄ちゃんを苦しめたクズの元幼馴染も
従兄をイジメて尊厳を踏みにじったクズの池月も
そして、私だけの物にする・・・私だけの愛しの剣一お義兄ちゃん♡
「・・・・・・」
●最終章 不動 剣一 編 END
幼馴染みをネタに脅されてイジメを受け入れたが、俺をイジメてた奴と幼馴染みが出来てたと知って思いやりと言う感情を捨てた俺は持てる全てで復讐する
完結
追記:後書きの後、随時主要3キャラsideの番外編を投稿します、もし良ければ読んで頂けると嬉しいです。
ここまで、お付き合い下さりありがとう御座いました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます