第39話 最終章 不動 剣一 復讐の種火

〇 不動 剣一  復讐の種火



「お母さん!ただいま!!」「叔母さんお邪魔しま~す」


「剣一お帰り~雫ちゃんもいらっしゃ~い、二人とも泥だらけねえ、今日も沢山遊んできたのね」


俺の母、狛田 陽香(ようか)は専業主婦だ、父の狛田 太一とは前に勤めていた会社関係でお見合いを進められ、一目見て気に入った父からの猛アピールで、そのままトントン拍子に話が進み結婚した


営業職で長期出張や地方出向でほとんど家に居ない父なので、母は俺を授かったのを切掛けに職場を退職、専業主婦として家庭に入る事を決めた。



「ほら、剣一、雫ちゃんも今日は、駅前の有名な店のプリンあるからね~」


「やった!雫、俺んち遊びに来て良かっただろ?」


「うん!でもお礼を言うのはケンちゃんじゃないよね?ありがと叔母さん!!」


「ちぇ~何だよ~」


「フフフ、ほらほら喧嘩しない!早く手を洗っておいで」


母は気丈で優しく、いつも自分より俺や幼馴染みを優先してくれていた、俺はそんな母が大好きだった


そんな母は俺の書いた絵や作文をいつも褒めてくれた


「剣一は凄いね!」そう頭を優しく撫でてくれる母は俺の誇りだ、しかしたまに雫達と喧嘩して帰ってくると


「雫ちゃんを泣かせたらダメでしょ!貴方は雫ちゃんを守る男の子でしょ!」

「剣一!あなたの力は誰かを守る為につかいなさい!」

「思いやりよ!思いやり!」


悲しい顔をして俺を真っ直ぐに見つめ語り掛けて来る母の言葉はいつも俺の心に響く


母の様に真っ直ぐ優しく思いやりのある人間になりたいといつも思っていた


そんなある日、雫遊んでて公園で別れて家に帰ると、母がリビングで机にもたれ掛かり酷い汗をかいて倒れてる所を目撃する


「お、お母さん!!」


俺は駆け寄り母を揺すってみるが意識が無い、119に電話をして容体を説明すると

救急車両が到着するまで待ってられないと母を背中に担いで玄関先まで運び母の頭を自分の膝に乗せ何時もしてもらう様に頭を撫でる


程なく救急隊が到着し母をストレッチャーに乗せると素早く応急の処置をして病院に搬送した


「お母さん、どう具合は・・・」


「剣一・・そう・・私倒れたのね・・・ありがと剣一・・」


【ガラガラ】


「姉さん!どうしちゃったの!?」


病院からの連絡で母さんの妹の純香さんが病院に駆けつけてくれた、父は東北へ出張中で直ぐに帰って来れないとの事だった


「ああ、純香も・・ゴメンね仕事、入社したばかりで大変だって聞いてたのに・・」


「いいのよ!仕事の事は、それよりも姉さんどうしたの!?あんな元気だったじゃない・・」


「・・・・・・」


入院した母は日を追うごとに衰弱していった、父は最初の頃は休みになると顔を出していたが

2ヵ月目以降は忙しいからと月に一度顔を見せるか見せないか程度とになった


「お母さん、僕、5年生でも勉強で一番になったよ!」


「そう、偉いのね剣一、こっちにおいで・・」


俺は母の枕元に顔を寄せると、布団の隙間からゆっくりと手を出し震えながら伸ばす母の手をそっと手にとり自分の頭に乗せる


「剣一は凄いね~偉い偉い・・」母の腕は骨と皮だけになってしまい、顔も頬がこけ、大きく美しかった瞳も窪んでしまい、髪の毛も手入れできてないのでバサバサだった


「お母さんに撫でてもうの嬉しいよ」心配かけないように精一杯笑顔で答える


それから1週間もしない内に母は口を聞く事も出来ない状態になったが、俺が病室に顔をだすと笑顔で迎えてくれて相変わらず俺の頭を撫でてくれた


鎮痛剤が効いたのか母が眠りにつくと、純香さんの忘れ物だろうカバンが病室の台に置きっぱなしになっていた


(純香さん、相変わらずそそっかしいな・・ん?)

カバンから覗く【診断結果】と書かれたA4の紙を見つけそっと手に取る


診断結果は母の物だった・・・俺は持てる記憶力をフル回転させ診断結果の文字と内容を一字一句頭に叩き込む・・完全記憶力、俺の生まれ持った才能だ習ってない文字でも形として完璧に記憶できる






家に帰り記憶した内容を紙に書き出す【多臓器不全】【薬物による拒否反応】【薬物中毒】【臓器疾患】書いてある文字についてパソコンで調べると





母は定期的に摂取していた薬物が母の体質に合わず、薬物アレルギーとして拒否反応を起こし内蔵疾患を引き起こした結果、腎臓、肝臓。膵臓の機能不全に陥り現在の【多臓器不全】の状態になったと書かれていた様だ。


パソコンで調べられる内容は全部印字し、その内容はを一字一句全て記憶する



お母さんが薬物依存・・・馬鹿な・・・あり得ない・・


日を追うごとに、やつれていく母がいよいよ危篤となった


「お母さん・・・」「姉さん・・・」そっと二人で手を重ねる様に握り静に眠る顔を眺める俺と純香さん・・・父にも伝えたがどんなに急いでも4時間は掛かるとの事だ


医者が母の骨と皮だけになったもう片方の細い腕をつまみ、時計を確認していると純香さんの後ろの波形が横一文字に変わる・・


「18:41・・永眠です、ご冥福をお祈ります・・」そういうと母の細腕を布団の中に戻しそっと頭を下げ看護師らと医療機材を母の体から綺麗に取り外すと病室の外からもう一度一礼して去って行った


「お母さん・・・頑張ったね・・偉い偉い・・うっっうっ」

泣きながら母の頭をそっと撫でて自分がいつもしてもらった様に優しく声をかける


「姉さん・・姉さんは凄いよ・・よく頑張りました、くっっ・・」

純香さんは母の頬をそっと撫で片手で口元の嗚咽を押えているが、あふれる涙がその手を伝い母の胸元に落ちる






父が到着したのは、母が亡くなった翌日だった






・・・・この時すでに俺は父を家族とは認識出来なくなっていたのかもしれない・・





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