第26話 KUZU file2 姫野 雫 剣一の手紙




●時間は遡り、剣一が入院して3日目が過ぎた辺りのクズSIDE


KUZU file2 姫野 雫 剣一の手紙



ケンちゃんが、今まで受けた仕打ちに対して全面的に仕返しすると宣言して数日が経った、

流星達は毎日ケンちゃんに怯え、なんとか休憩時間に出くわさない様に授業終了前になると決まってお腹が痛いとトイレに逃げ、次の授業ギリギリまで戻って来ないというルーティーンを取っていた

当のケンちゃんは気にする事も無く、自分の席で本を読んだりスマホを弄ったりして、教室での立場が逆転しても相変わらず孤立している。


私はと言うと、学校の教室内で流星と性行為をしていたという話が学校中に広まってしまい

今までの真面目で誠実なクラス委員長のイメージは失墜した。

加えて幼馴染をイジメてる相手と恋人関係になって、その事実を秘密にしていたという事も、ビッチ、卑怯者、クズ、というレッテルに拍車をかけしまっている

何人も居た友達も、ほとんど私から離れてしまい、

1,2人残った友人?も、3人で集まると常に私をネタにイジッて、笑いのネタにしていた。

そんな居心地の悪い関係でも、誰も相手にされないよりマシだと思い、我慢して愛想笑いでやり過ごす日々、

まだ1週間程度だけど本当に辛くてノイローゼになりそうだ、

そのせいで勉強にも集中出来てない・・先週あった小テストの結果は散々だった、

ちなみに先生の手伝いで荷物を運んだ時にチラッと見えた結果一覧ではケンちゃんが全て満点で1番だった



そんな流星達と立場が逆転し、私と絶縁して狛田の家とも家族の縁を切ったケンちゃんは、

その野暮ったい髪型を今時の清潔感のある髪型にイメージチェンジしてクラス内外から噂になっていた

そして、どうやらケンちゃんが2年前位から噂になっていた超人気作家の不動 けんいち 本人だと言う・・・


確かにケンちゃんは小説や本が好きで自分でも小説を趣味で書いているとは聞いた事が有ったが、まさか本当にデビューして大成功してるとは知らなかった。

まぁそれだけ彼と疎遠になっていたという事なのだろう、そして今後、彼との関係が元に戻る事も良くなる事も無いのだろう・・・



流星との関係は挨拶はするも少しギクシャクしていた先週の一件から私への連絡はパッタリと止み、色々知ってしまた私の方からも連絡を取って無かった

流星が私をネタにケンちゃんを脅していたという事実を知り、流星の事を信じられない自分が居る。

ケンちゃんからしたら私は薄汚い裏切り者なのだろう、知らなかったからと言い訳しても、イジメを受けていた側からすれは「それじゃ仕方なかったね」で済む話ではない、そもそも流星と付き合いだした時に、せめてケンちゃんにだけでも打ち明けていれば・・・


後悔しても遅い、私の今の現状は自分の仕出かした事に対する結果なのだから・・


ケンちやんは朝のホームルームで不動姓に変わった事、自身が小説家である事を公にしクラスをザワつかせ、そのまま校長に呼ばれ出て行った、

暫くすると流星達も学年主任から呼ばれて出て行ったが、流星達は帰ってきたのにケンちゃんはその日、教室に戻って来なかった


確認しようにも、連絡先はブロックされてて住んでる場所も知らない、琴音ちゃんも琴音ちゃんのお母さんも、どうやら連絡は取れないらしい


次の日のホームルームで、ケンちゃんが短期入院する事になったと、どこか嬉しそうな表情の担任に告げられた。

そして恐らくクラスの大半が同じ思いなのだろう・・正直私も今のケンちゃんとの距離感わからなくて怖かった、だからケンちゃんが暫く同じ空間に居ないと判って、安心して少し嬉しかった。

ケンちゃんが入院して2日目の放課後に流星がクラスの皆に、全員で協力しケンちゃんを学校から排除しようと持ち掛けたが、

クラスに賛同者は居なかった、私は流星の元取り巻きの子を見たが、何やら二人でブツブツ相談してるみたいだった。


家でもケンちゃんに絶縁されてから私へ両親の見る目も変わってきた様に感じ、家に居てもどこか居心地が悪かった。


一人で部屋の中で考え事してると本当にノイローゼになりそうなので、捌け口を求めSNSで自分と特定出来ない様にして呟く事が増えた、いわゆる裏垢ってやつだ


「そもそも、幼馴染と付き合ってた訳じゃないのに、彼氏とエッチしてたからって恨まれる筋合いないよね・・彼氏から脅されてとかも、私にそう言えば良かったんだし・・何回も話聞くって聞いてあげたのに言わなかったのは幼馴染の勝手だよね!」


『そうだよw姫ちゃんは悪く無いよ~その陰キャの幼馴染君嫉妬深いね~姫ちゃん気を付けなきゃw』姫ちゃんというのは、私の裏垢のアカウント名だそして今チャットしてるのは黒羊さん、裏垢で愚痴ってる内容に唯一返信してくれてそれ以降は良くこうして私の愚痴を聞いてもらってる


「まぁお母さんの形見は悪い事したとは思うけど、たかが手帳一冊で、私がここまで責められる様な事なの?とか思うのよねぇ」


『その陰キャ幼馴染君、心せっま~っ一人カラオケのボックスより狭いよww』


「www確かにw、猫の額的な?w今風だねぇ黒羊ちゃん」


『そそ、姫ちゃんも気にしちゃぁダメだぞぉ~落ち込まず元気出していこうーーー!!』


「おーーーう!w」


こうして、私の事を知らない相手と心の中のどす黒い感情をさらけ出して好きな事を言い合えるのは、すごくストレス解消になる

黒羊さんとのチャットを一旦終えた頃に、リビングから母親に呼ばれる


【雫~琴音ちゃんが尋ねてきてるわよ~】


琴音ちゃんとも、ケンちゃんに絶縁されれた日に狛田家の前で話したきりメッセージのやり取りを数回した程度で面と向かって会えてなかった


「は~い!いま行く~」


私はとりあえず下だけスキニーを履くと、リビングに向かった


リビングには俯き気味に明らか元気の無い様子の琴音ちゃんが座っていて出されたジュースにも手をつけ無いで座ってた

私は、さっきまでチャットで愚痴を吐き出したのも有り心が軽かったので、出来るだけ明るく琴音ちゃんに話かける


「わぁ~琴音ちゃん久しぶりだねぇ元気してた?」ニコニコと笑顔で琴音ちゃんの前に座ると琴音ちゃんの手を握って俯く彼女の目を見ようと下から覗き込む


「元気無さそうだね、まぁ色々あったからね、そりゃ疲れるよねぇ~」


握った手を軽く上下に揺らせながら、琴音ちゃんとの会話を成立させようと務める


「し、雫ちゃんは、なんか吹っ切れたって感じだね・・」


どういう感情で言っているのか今一理解出来ない抑揚で話すので


「まぁ、いつまでも考えてても仕方ないしねぇ~私達高校生なんだから、まだまだやり直せるよ!」


「・・・・・・・」琴音ちゃんは私の方を見ようとしないで、一通の封筒を私に渡して来た


封筒の表裏を確認してみると「私は中を見てません・・」と怯えた様に告げる琴音ちゃん


「これは?」と受け取った封筒をヒラヒラさせて琴音ちゃんに尋ねると言いにくそうに口を開く


「あ、義兄からの・・雫さんへの・・て、手紙です・・」


「!?え、え?ケンちゃん琴音ちゃんの家に来たの?帰って来たの!?まだ居るの!?」

慌てて色々聞きすぎたのか明らか困惑している琴音ちゃんは落ち着いてと逆に私の手を掴む


「あ、義兄は、家には来てません、もう戻るつもりも無い・・・だそうです、その手紙は義兄の代理と言う方から預かりました・・」

「表書きにある【雫様へ】の文字は間違えなく義兄の書いた物だと思います・・」


「な、何でわざわざ琴音ちゃんに託けるの!?代理の人が直接私に渡せば良くない?」

首を振る琴音ちゃんは苦しそうに話す

「あ、義兄の真意は分かりません、だけど今は中を見ずに雫ちゃんに手渡すのが良いと思いました・・では私はこれで帰ります・・」



そういうと、出されたジュースも飲まず、私へ振り返る事も無く玄関から出て行った


「あら雫?琴音ちゃんもう帰ったの?」奥の部屋から顔を覗かす母親に頷くだけで答えておいた


私は自分の部屋でベッドに横になり、天井に掲げながらケンちゃんの手紙をクルクル回して表裏を確認していた【雫様へ】しか書かれてない、私は勢い良く上体を起こすと先端の方を手で破り中の便せんを取り出す


三つ折りになっているA4サイズの便せんを広げると




【池月に気を付けろ】




とだけ書かれてあった・・(流星君に気を付けろって?)

私はさっきの黒羊さんのチャットを思い出す

『そうだよw姫ちゃんは悪く無いよ~その陰キャの幼馴染君嫉妬深いね~姫ちゃん気を付けなきゃw』



気を付けるべきは、私に復讐しようとしてる、ケンちゃん・・不動君の方でしょ・・

私はその便せんを入っていた封筒ごとビリビリに破るとゴミ箱に捨てた



その夜、流星から久しぶりのメッセージが届き私は嬉しくて流星とのチャットに夢中になり、不動君からの手紙の事など頭から消えていた






そして、後に私は死ぬほど後悔する

そして知る、この手紙がケンちゃんのくれた最後の思いやりだった事を・・・・

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