第23話 ハウスキーパーからのお願い

1週間の療治入院が開け翌週の火曜俺は無事退院することが出来た、まぁ止められても勝手に退院するけどな



「不動先生、無事退院おめでとうございます」


俺の事をお抱えの運転手が丁寧に出迎える、大学病院の入り口には担当していた先生と俺のサイン色紙を抱え顔を赤くした女性看護師が数名見送りに来てくれた

結局俺の体調不良の原因は分からずじまいで、4,5日経つ頃には嘘の様に体力も戻って来た、本当にただのストレス疲れだったのかもしれない


「先生も看護師さん達も、そんな畏まらないで下さい、それより・・」

「皆さん大変お世話になりました(ニコッ)」


そう営業スマイルで挨拶すると、色紙を抱えた数名の女性看護師から「キャ~ァw~~w」と黄色い歓声が上がる


俺は皆に元気よく手を振り返し、営業スマイルを維持しながら車に乗り込む、お抱えの運転手が後部座席のドアを閉めると、素早い動きで運転席に戻り車を発進させる






「平日の昼間というのに、あいかわらず首都高は混んでるな・・・」


俺は車窓から見える灰色の高速道路の遮音壁を無表情で眺める


「で?ある程度の内容はメールで確認したが、ようやくあのクズ共と家族の縁が正式に切れたのは良かったが、池月の動きの件・・・詳細は?」


運転手は外部からの盗撮を警戒して口元が分からないようにマスクを着用すると俺にメールで伝えていた内容の詳細を説明しだした・・

詳細内容を聞き、俺は再び車窓から外を眺めて少し考えると


「なるほど・・まぁ所詮、チンピラと高校生の考える事だ・・俺だけで処理するからな・・根回しだけ頼んだ」


運転手は、前を見ながら頷かずに「かしこまりました」とだけ告げると、以降は黙って運転に専念するのだった


その日は、ゆっくり自宅で休養し、明日の水曜から学校に復帰する予定だ


「とりあえず、3ヵ月分のノルマはクリアしとくか・・・」


俺は書斎にある大画面のPCを起動すると、フランス、イギリス、イタリア、アメリカ、オーストラリアのサーバーをVPNパスワードをタイピングして通過し経由する、すると鍵の掛かったファイルサーバーに到達し、3種類のパスワードを入力してアクセス解除すると、そこには300以上の小説の原稿用紙のファイルが存在していた


「今月渡すのは・・・ああこの続編第一巻でいいか・・」


おれは数有るファイルの内の一つを手早く自身のパソコンに転送すると、俺の小説ストックファイルサーバーは30秒のアクセス許可時間を経過し画面から消えていた

俺は、その自身のPCに転送いしたファイルにパスワードを設定して、純香さんのPCに送る・・



「送信、と、これで次は3ヵ月後か・・・その時状況はどうなっているのやら」



【ピィンポーン】



端末で画面を確認すると定期契約してるハウスキーパーの社名ロゴのシャツを着たスタッフが映っていたが帽子で良く顔が見えない、何時もの人では無さそうだ・・・

俺は念の為、契約時にかわしたパスワードの提示を求める・・・玄関先にある液晶端末には確かに俺が決めたパスワード・・【1244】が一度も間違わずに入力された


(ふぅ~少し入院してから気落ちしすぎか・・?何やら警戒心が強くなってるな・・)俺は自分の警戒心に自笑しながら端末で自動ドア開錠するとスタッフが部屋に入って来て俺の前に軽くお辞儀する


「本日もご利用有難う御座います、それでは何時もと同じく夕飯のご用意と掃除洗濯を致しますので、どうぞご自由にお寛ぎ下さい」


「はい、では自分の部屋で少し仕事をさせて頂きますので何かありましたら呼んで下さい」


「あ、では一つだけ・・・その以前、助けて頂いて有難う御座いました」


「えっ?」


帽子を取り顔を上げると、純香さんの娘の澄恵さんが居た


「どういうことだ?何故ここに居る?」


「何故と申されても、不動先生が弊社のスタッフによるハウスキーパーをご用命くださいましたw」


悪戯っぽく笑いながら俺に説明する澄恵・・


「俺の所は専属のハウスキーパーさんを寄越すように伝えていたはずだが?」


「誠に申し訳ございません、不動先生の担当してるスタッフは流行りの風邪を引いてしまい、来週一杯まで自宅療養となっておりますw」


「もういい!ハウスキーパーの会社に電話する、それに純香さんにも!」


「先生のお手を煩わせません、純香の電話であればすでに此方にw」


そうニコリと笑い俺の前に通話中になったままのスマホを両手に乗せて手渡す・・・俺は自分より年下の娘に良い様に扱われて気分が悪いので乱暴にそのスマホを取ると


「もしもし!純香さん、どういう事ですか!話が違うじゃないですか!!」


「アハハハハ、おいおい怒るな怒るなwまぁ従妹の我儘だ、まぁ戸籍上お前の義妹になるようだが?wお前の意見もちゃんと伝えたが、誰に似たのか・・頑固な上我儘でなぁ・・」


「・・・それまんま純香さんじゃ?」


「はぁ?何か言ったかぁ?」「はぁ~な~にもぉ~」純香さんとのやり取りの間もてテキパキと洗濯機を動かし、夕飯の用意を始める澄恵さんの姿を電話口にみて、小さく溜息を吐き


「まぁもう良いですけど・・今日の所は、澄恵さんに家事をお願いすることにします・・純香さんの顔も立てますよ・・」


電話口で苦笑する純香さんに呆れたが(まぁ、純香さんが来て家事するのも娘が来てするのもあんま変わらないか・・)

不動家では純香さんがボスだ、旦那さんは婿養子だと聞いてる、直接話した事は無いが、まぁあの純香さんと上手く夫婦を続けられるのだから穏やかな人なんだろう




「不動様・・その・・夕飯の仕込みが終わったので、お掃除始めますが・・」


「ああ、うん?何か問題あるのか?」


「いえ・・その出来れば・・二人の時だけでも従兄さん(おにいさん)とお呼びしても・・・(その呼び方、少し抵抗があるな・・)


「いや申し訳ない、純香さん・・お母さんから話は聞いてるだろうけど、確かに戸籍上兄弟になってるが、それは手続き上の話しで俺は不動家の家庭に干渉するつもりも関わるつもりもない、だから・・


悲しそうな表情で俯く澄恵を見てると、何処か喧嘩して帰ってきた時に俺を叱る寂しそうな母親の面影を思い出す・・

俺は軽く頭を振り思い浮かんだ映像をかき消す


「まぁ好きにしたらいい・・今日だけのハウスキーパーだしね・・」


「やった、ありがとう!従兄さん!じゃ掃除早くおわらせるね!」




リビングから別の部屋へ嬉しそうに掃除用具を持って走っていく後ろ姿を見送り俺は自室に施錠して電話を掛ける



「ああ、状況は聞いた、内容は把握している・・・姫野家の事は縁を切った俺には関係ないからな、クズがどうなろうと俺の知ったことではないな・・・手紙?まぁ俺の気まぐれだ結局無駄になったがな」

「ああ、明日予定しておく、お前達も準備をしておけよ」



電話を切り、ソファーにスマホ放り投げて、天井を見上げる




とにかく、純香さんも、その旦那も澄恵さんも、俺の計画には関わらさないけどな・・





明日、池月とはケジメをつける

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