第48話
ごちゃごちゃやっているうちに学校についた。
昇降口で靴をはきかえる。未優が靴を拾おうとかがんだ瞬間、あたしの指がひとりでに未優のお尻をつついた。指先がずにゅっと沈む。振り向きざまに腹パンされた。
電車の件といい、未優は外でベタベタを嫌がる。相変わらずの塩対応。ちょっと手を出すとサマーソルト返してくる。塩だけに。
あたし的にはみんなにバレないように、みたいなそういうのが逆にいいのに。
ちょい機嫌を損ねたらしい未優を追って下駄箱から廊下に出る。そのとき横あいから騒がしい声がした。
「あー! 美少女ちゃんいるぅうう!」
女子生徒の集団が近づいてきて、一気にあたしを取り囲んだ。
どこぞで見覚えのある顔も混じっている。先輩のお姉さま軍団だ。
「ね、かわいいでしょかわいいでしょ?」
お姉さまはあたしを指さしては、一緒にいた新人お姉さまを振り返って熱っぽく語りだす。
「なに? 誰~?」みたいな感じだったお姉さまも、あたしを見てみるみるうちに目を輝かせ始めた。
「ほんとだ、かわいい~!」
「でもおとなしいの。ほら」
腰のあたりに手を触れられて、ぎくっと背筋が伸びる。
体の表面をさわりさわりと撫で回すような触り方をしてくる。
「髪きれ~。わたしも触っていい?」
「しょうがないなぁ、ちょっとだけだよ?」
勝手に許可を出すな勝手に。
しかしちーちゃんだかなんだかしらないけど、あたしも負けず劣らず美少女だということを忘れてもらっては困る。
たまに自分で忘れそうになるけど。まだこういう扱い受けるのいまいち慣れないけど。
「あ~たまんねえ~~~」
そしてまた変態女が混じっていた。
あたしを見かけるやいなや、背後に取り付いて腰を振ってくる。これ恒例のあいさつみたくなったらやだなぁ。
「うっ、イクっ、イクよ!」
「きゃはは、早すぎ」
この学校、数年前まで女子校だったということもあり、学年が上がるにつれ女子の比率が多い。科によっては女子だけのクラスもある。つまりお姉さま比率が高い。そういうノリを引きずっているのかなんなのか。
ちょいヤンチャ系のお姉さまを、風紀委員みたいなお姉さまがとがめる。
「朝からバカなことやってるんじゃないわよ、汚らわしい」
「いやいや冗談でしょ? そんな汚物を見るような目しないでよ」
「岬ちゃんまだライン交換してなかったわよね? 教えて?」
「それこそ目がガチになってるけど」
みんなキャラ濃いなあ。あたしなんてまだまだだ。
周りがこんな感じだから、ボクっ子だのボーイッシュだのがいても不思議ではないのか。
あっという間に囚われの身となったあたしを、少し先で未優がちら、と振り返ってくる。
未優は目立たないムーブしているから目をつけられてないだけで、お姉さまに見つかったら絶対襲われる。うしろからパンパンされる。
未優がどういうリアクションするか見てみたい⋯⋯ではなく、ここはあたしに任せて逃げて。
という意味を込めて視線を送った。いつもの無口キャラみたいなジト目を返して、未優は廊下を歩いていった。伝わったかどうかは謎。
未優といえば、で気になっていたことがあった。
あたしは一つ聞いてみることにした。
「あの、鏡先輩って、どんな人か知ってます?」
あたしがたずねると、お姉さまの群れはいっせいに顔を見合わせた。
「げ、なに? あいつさっそく後輩にも手出してるの?」
「うわ、やってんな~」
いやあんたらもやってるけど。こうやって。
「鏡には気をつけたほうがいいよ? 気を抜くとすぐペロッといかれちゃうから」
「あれは男よりタチ悪いからね。なんかあったらすぐ言ってね?」
なにそれ怖い。女でありながらタチ? そういう意味じゃない?
まあお固い女で通ってるあたしに限ってそんな心配は無用だけど、未優のことが気にかかる。
「あ、あのっ、友達が変なこと言われたら守ってくれますか?」
あたしは目をうるませつつ上目遣いをする。
こうして守ってあげたくなるかわいい後輩に擬態することもできる。根回しをしておくことでいざというときに備えるのだ。
あたしをじっと見つめていた長身のお姉さまがメガネをクイッとあげた。キラリと光る。
「いいけど……岬ちゃん昼休み、部室来れる?」
「美少女ちゃん逃げて逃げて! その前にこいつにヤられるって!」
あたしはさっきから髪を無心にクンカクンカしているお姉さまを振り払って逃げた。背後でぎゃあぎゃあやかましくなる。
「またねーばいばーい」
朝っぱらからお姉様がたにかわいがられた。
けどみんないい匂いするし、なんだかんだで優しいし、案外悪くない。まだちょっとドキドキするけど。
しかしあのお姉様方にも一目置かれているとは、ちーちゃんとはかなりの危険人物のようだ。
未優に危機感がないぶん、あたしが目を光らせておかないと。未優はあたしが守る。
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