2章

第45話

 薄暗いベッドの上にいた。

 ぺたんとお尻をついて、前のめりに唇を突き出して。

 生まれたままの姿で、鏡合わせみたいに手を取り合って、指を絡める。


「ちゅ、ちゅ⋯⋯」

 

 唾液を交換する音だけが聞こえていた。

 昂りで目の前が歪んで、なにも見えなくなっていた。いつから、どれだけの間こうしているのか、時間の概念がなくなったようだった。


「未優、もうそろそろ……」


 耐えきれなくなって先に言葉を発したのはあたしだった。声は懇願するような響きを含んでいた。


「うん、いいよ」


 彼女は口づけていた顎を引いて、上目遣いをした。

 熱っぽい瞳がじっと見つめてくる。

 

 あたしは彼女の体を抱いて、優しくベッドの上に倒した。

 ぴっちり閉じた膝を割って、ゆっくりと足を開かせる。


「あんまり、見ないで……」


 消え入りそうな声で言って、彼女は手で目元を覆った。その顔は⋯⋯いや、体全体がほんのり赤く染まっている。  


「きれいだよ未優⋯⋯」


 あたしの声であたしのようでない誰かが言った。

 上から見下ろすように、彼女の体に近づく。そしてあらわになった彼女の中心へ、柔らかい体の中へ、硬く張り詰めたものを……。


 あれ? 

 ない?


 途端に視界が反転した。あたしは天井を仰ぎ見ていた。


「怖くないからね? わたしに任せて?」


 彼女はあたしの耳元でささやいた。あたしは頷いた。 

 優しい声とともに体が覆いかぶさってきた。あたしの膝を割って、滑り込んでくる。


 ……あれ?

 

「ち、ちょっと、まっ……」

「大丈夫だからね」


 異物が体に入ってくる感覚がして、疑問符はどこかに吹き飛ばされた。お腹から押し出されるように吐息が漏れる。


「ん、んぅっ⋯⋯!」

「ちょっと大きかったかな? でもみさきは元男の子だからこれぐらい大丈夫だよね」


 いや大丈夫なんてもんじゃない。やばい。死ぬ。ちぎれる。爆発する。

 トゲ付きの棍棒でも入ってんのかってレベル。てか元男とか関係なくない?


「どう? 気持ちいい?」

「い、痛い⋯⋯」

「気持ちいいでしょ?」

「くっそ痛い」

「気持ちいいって言いなさい」

「き、気持ちいいれすぅ……」


 言わされた。

 でもなぜか彼女には逆らえない。


「よしよし、いい子いい子」


 あたしの頭を撫でながら、頬を緩ませる。

 俗に言うさでぃすてぃっく、な笑みだ。


 ひどい。いじわるだ。

 あたしは涙目になりながら、むっと上目遣いに睨み返す。

 

「んふ、かわいい……」


 伸びてきた腕に頭ごと抱きしめられる。

 柔らかい。いい匂い。

 背筋がぞくぞくして、急に痛みが和らいだ感じがした。もともと痛みなんてなかったかもしれない。


 顔を見られるのが恥ずかしくなって、胸元にうずめて隠した。あたしは背中に手を回して抱きついた。

 体の触れている箇所から、じわじわと心地よさが伝わってくる。きもちいい。全身が幸せに包まれる。


「じゃあ、動くね?」


 これで動かれたらダメだ。

 絶対恥ずかしい声出る。我慢できない。

 あたしはぎゅっと強く目を閉じた。




「あっ……」


 目が覚めると、あたしは自分の部屋のベッドの上にいた。

 カーテンの隙間から差し込んでくる朝チュンの光に顔をしかめる。あたしは事後のように横たわっていた体を起こした。


 未優の姿はどこにもなかった。あたしはちゃんと服(Tシャツショーパンノーブラ)を身に着けていた。

 体のどこにも不具合というか異変はなかった。もちろん貞操も無事だった。

 

 要するに夢だった。

 んもう、夢オチなんてサイテー!


 なんて言ってる場合ではない。

 あんなもん悪夢も悪夢だ。途中までは最高の淫夢(深い意味はない)だったのだが、なぜあたしが凸る側ではなく凸られる側なのか。無意識の願望がそうさせているとでも言うのか。

 

 あらためてムスコ⋯⋯ではなく娘の無事を確認する。

 下腹部は熱を持っていた。なにやらぬるっとして湿っている。いやらしい感じになってしまっている。とんだ淫乱娘だ。


 今日は平日で学校だけども、まだ時間が早い。

 ガラにもなく早起きしてしまったらしい。


 いろいろと溜まっているからおかしな夢を見てしまうのだ。

 しばらくしたら未優もきっと迎えに来るだろうし……。


 その前に、ちょっと一回、すっきりしようかしら。

 う〜ん、早起きってすばらしい。

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