第6話
未優からわたし彼氏できたから告白を受けたあと、あたしは茫然自失としていた。
とりあえずその場は愛想笑いで流した。あくまで平静を装っておいた。
けれど思った以上に脳にキていた。
いつかはこんな日が来るであろうことは予想していた。しかしあまりにも急すぎる。なんかその、事前に相談とかも、なんもないのかなって。
などと相手の男ではなく、未優に対して不信感を抱き始めるぐらいには心が乱れていた。
あたしってNTRの才能あるかもしれん。ラレるほうね。
その後、未優は露骨にあたしを避けてきた。というかあたしが避けた。
お昼は基本あたしのほうからやつの席に行くのだけど、今日は行かなかった。
そしたら来なかった。こっそりチラチラしてみたら他の子と食べてやがった。ちくしょう。
あたしは未優以外に友達がいないわけではない。けどクラスにご飯を一緒に食べるような友達はいない。
ん? お前は何を言ってるんだ。
なんていうか話しかけられれば誰とでもしゃべるし、必要とあらば自分からも話しかけるけど、ちょい距離を置かれてる感はある。
なぜならあたしがスーパー美少女だから? かどうかはわからないけど、ちょっとした壁を感じる。
第三者の立場で考えてみよう。
美少女二人がいつも一緒に、仲睦まじくしている。そこに割って入ろうっていう考えにはあんまりならないのかもしれない。
それをやるのはこのクラスでは不沈艦ノンデリオンぐらいか。
しかし、となると。
あたしは一人で飯を食うことになる。
こっそり周りを見渡しても、教室で一人で食べてる女子はいない。
えっ、やだなにこれどうしよう。
もしかしてあたしって、未優がいなかったらぼっちなの?
グループをハブられた女の子は、ひとつ下のグループに入るという。
ふとそんなことが頭をよぎった。
気は進まないけど、ここは莉音に声をかけて……いやそれは危険だ。なんでー? どうしたのー? みゆみゆとなんかあったのー? とノンデリラッシュを食らうこと間違いなし。
どうしよう。こうなったら隣の陰キャっぽい男子と仲良くなろうか。
そのへんの女子より絶対気があいそうだし。あたしが今の姿になってなかったらと思うと、彼にはシンパシーを感じる。
……いや、待った。
ていうかさ。
そもそも俺、男だし。
ハブとか女子グループとか、そういうの関係ねーし。
隣の彼とか、デフォでぼっちよ? ひとりでスマホ眺めながらニタニタしててちょいキモいけど、ある意味カッケーじゃん? 我が道を行くって感じで。
まったく、なんでメスガキどもはこうも群れたがるかね。
あーやだやだ。もう悠々と一人で食ってやるわ。ぼっち飯上等だわ。
あたしはアルミホイルに巻かれたおにぎりを取り出した。昨日余ったご飯で未優が作ってくれたやつ。
未優……。
いや違う違う。そういう方向性じゃない。
こちとらそんななよっちい女の子とかじゃないわけ。だいたいおにぎりとか、このぐらい自分で作れるし?
あたしは豪快にアルミを剥がすと、男らしくワイルドに噛みついた。
がぶり。むっしゃむっしゃ。
……どうしよう。味がしない。ご飯がいつもよりぱさぱさする。
未優と食べているときは気にならなかった周りの会話が耳に入ってくる。
「キャハハハ! それガチ?」
「そうそうそれ! ガチでそれ!」
えっ、もしかしてあたし笑われてる?
あれれ? いつも相方と一緒に食べてるのにどうしたのかな? ケンカ? あっ、もしかして寝取られたのかな? NTRかな?
とかって?
どんどん体が縮こまっていく。
ダンゴムシのように小さく丸まっていると、ちょんちょん、と誰かに肩をつつかれた。
びくっと肩が跳ねる。
一瞬心臓が止まりそうになった。けどすぐさま浮かれた。
みゆたんだ。きっと未優が来てくれた。
一人でかわいそうなアテクシを見かねて。ツンデレだ。
あたしはぱっと顔を上げた。
まつげのパッチリした目と目があった。髪をサイドテールっぽく結んでいる。
女子だけど違った。誰だ。
あたしの勢いに驚いたのか、向こうはちょっとだけあとずさった。話しかけてくる。
「う、うぃっす」
手をピストルの形みたいにしてあげてきた。
変なあいさつ。顔もなんかぎこちない。日にあたった髪の毛はキラキラだった。あたしの基準でいうと不良だ。
「あのさ、けっこう目立ってるよね」
あたしのことらしい。
そういう自分もずいぶん派手派手しい見た目だ。
胸元緩め。袖まくり。スカート短め。茶髪。
あ、ヤバい。
これヤンキーマンガで見たことある。お前調子くれてんじゃねえぞってやつ。体育倉庫の裏とか屋上とかでシメられるやつ。
「えっと、屋上……すか?」
「今日は一人で食べてるんだ? 珍しいね」
「はあ」
シメに来たわけじゃないのか。
じゃあなんなんだ、めんどくさい。
「あの~……いっつも一緒にいる子さ。ケンカでもしたの?」
「だったらなに? 関係ないでしょ」
図星をつかれてつい喧嘩腰になってしまった。
でもこれケンカとかそういう程度の低いことじゃなくてNTRだから。
「……なんか用?」
あたしは低い声できいた。
こうなったらバイオレンス路線で行くのもありだ。
今のあたしはヤンキーマンガの主人公ばりに尖っている。キレたナイフである。
「あ、えっと……」
目が合うと一見ギャルっぽい女は視線を泳がせた。
未優からもあたしには目力があると言われている。じっと見つめると相手はたいてい目をそらす。
彼女はうつむきがちに言った。
「あ、あのさ。メカコ、おもしろいよね……」
「それな」
何を言い出すかと思ったら、あたしが授業中に取り上げられそうになったマンガだ。
気分が落ちていたためあえてギャグマンガを選んだ。でもギャグは授業中に読むのはやめたほうがいいと学習した。
「私も、マンガ好きでさー」
この女、意外に話せるらしい。
不覚にもマンガトークで盛り上がってしまう。
「えー語れる人いてうれしー」
彼女、京野瑠佳(きょうのるか)は普通にクラスメイトだった。
見た目にそぐわずマンガめっちゃ詳しい。お姉ちゃんがマンガを描いていて、自分で同人誌作ったりして、出版社に持ち込みとかもしていて、その影響なんだと。
「前から、話してみたいなって思ってたんだけど。なんか、いっつも隣で怖い顔してるじゃん? 話しかけたらまずいのかな―って」
いつも隣で怖い顔している、というのは未優のことらしい。そうなの?
デフォで怖い顔というか表情が読めない子ではあるけど、そんな周りに圧を発してるなんてことはないでしょう。
「全然そんなことないよ。あたしとか来るもの拒まずだから。もうどんどん来て」
「あ、ほんとー? 私さ、このクラスに友だちいなくてさ。お昼とか、いっつも他のクラス行ってるんだけど、毎回だと悪いかなって思ってて」
「このクラスに友達いないってことないでしょ。だってあたしたちもう、トモダチ、じゃん?」
あえてカタカナっぽく言ってみた。
そのほうがなんとなく雰囲気出るかと思って。
初めてしゃべってから十分ぐらいでトモダチ、って言ってくるやつどう思う?
あたしなら、う〜ん、もうちょっと考えます。
って感じだけど、瑠佳はぱあっと笑顔になった。
「ほんと? うれしい!」
ぐあっ、眩しい。
(暗黒微笑)とかやって悦にいってそうな誰かさんとは人種が違う。
「私んちさ、マンガいっぱいあるから、よかったら今度遊びに来る?」
「うん、いくいくー」
スーパー美少女みさきちゃんはちょろかった。お菓子あげるから遊ぼうよで変なオジサンにもついていっちゃいそうで我ながら将来が心配だ。
その後瑠佳とご飯を食べて、なんとかぼっち飯は回避した。
これで未優が「キーッ、わたし以外の女と!」とかなってくれたらまだ望みが……いやならないかぁ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます