チビっかすと葛藤

ファンラックス

勤六 進の葛藤

はぁ…

仕事行きたくないなぁ


私は勤六 進 《きんろく すすむ》

望月商事に勤めて40年の還暦間近の人間だ。

最近はおじさんになったせいなのか、めっきりとやる気が起きない

朝起きるのにも、朝食を取るにもとてつもない労力を必要とする


今日も私は自分で弁当を作り、誰もいない家に「行ってきます」と言い

仕事場へと向かおうとするが…あまり体に力が入らない

足を進めるが歩くたびに足が重くなる


ズシン、ズシンと

足を進め、近所の公園にやっとこさとたどり着いた。


…ひとまずベンチで休んでから行こう

と思い、私は公園の中のベンチにドシン!と腰を下ろした


…とりあえず、遅刻する理由を考えなくてはな

と思ったそのときだった。


「おじさん今日はいい天気ですね!!」

とランドセルを背負った少年に声をかけられたのだ。


この時間は小学校に行ってるはずでは?とふと私は思ったので少しキツめに返した。


「君、今日は月曜日だぞ!!学校はどうしたんだ?」


「サボりだよ、おじさんもサボり?」


「サボりなどではない、私は体調が悪くて休んでいるだけなのだ!!」


公園でただサボりにきた人みたいに見られるのは

実に腹立たしいものがある。


それに対し少年は

「ふ〜ん、そうなんだ」


と返した。そして、そのまま続ける

「じゃあさあ、体調が悪いんだったらどうして今日は家でゆっくりしないの?

職場に頼んで休みにしてもらったらいいのに」


お前みたいな、

朝から学校行かずにサボっているちびっ子にはわからないと思うがな

私はコレでも望月商事では40年勤めているエリートなんだぞ!!


「私は会社ではすごい人だから、休むわけには行かないんだよ…」


「おじさんって役職何?もしかして社長さん?!」


「私は会社に勤めていて、会社を立てたわけじゃない!!」


「じゃあ部長?もしくは課長?」


「どっちも私の上司だ!私には役職などというものはない!エリートなんだぞ

私は!」


このガキはいったい何を言っているんだろう…

私は常にの中で常にトップなのだから

役職などあるわけないのだろう


「じゃあ肩書き平社員ってことじゃん…平社員だったら給料もそんなに

他の人と変わらないだろうし…」

少年がつまらなさそうに言うので私は思わずムッときた


「だから私は40年も会社に勤めているベテランで、上司からも後輩からも常に絶大な信頼をおかれているんだぞ!!」

思わず声を張り上げてしまった


「おじさんがその、エリートってやつだったらさ、どうして平社員止まりなの?

基本的に会社で頑張っていれば昇進させてもらえるってお父さんが言ってたけど…

それに40年も勤めていて一回も昇進したことないんでしょ?だったらさ…」


この時私は少年に思わず掴みかかってしまっていた。

「ふざけるのも大概にしろよ!!クソガキ!私は役職など無くても

皆から認められていて、給料が少なくても生活できていて

マ、母さんからも偉いって思われているはずなんだ!!」


「母さん?」

あ、つい言ってしまった。


「おじさん、良かったらそのお母さんのこと教えてくれない?」


こんな生意気な少年に話しても良いのかと思ったのだが、

聞くまでは引いてくれそうにもないし、仕方なく話すことにした。


----


私の母は時に明るく、厳格な人で

小さい時から私のことをで面倒を見てくれていた。

父は私が生まれる前に蒸発し、会ったことは一度もない…


私はそんな母を支えようと、期待に応えようとした。


「お母さん!僕、ママのために頑張るよ!!」

と私がいつものように言うと


「進、ありがとう。貴方は貴方の道に進みなさい」

といつも返してくれるのだった


それから私は母のために努力して、努力して良い高校に入っても

努力して、努力して遂に名門と呼ばれる大学に入ったのだった!!


「母さんやったよ、僕こんなに頑張ったんだ!!」

合格発表の後に奏母さんに告げると母は病室で

何も言わずににっこりと笑ったのだった。

このまま母との幸せが続くと思ったのだが、





母は死んだ…

原因は病気が悪化したためだ




母はいつものようににっこりと

病室で笑っていってながら死んだ…


私は母が死んだ時、子供のように泣きじゃくった。


泣きじゃくって、泣きじゃくって


その後には…




自分が何をしたら良いのか分からなくなってしまった。

母の遺した遺産で大学は続けられるが、気持ちだけが取り残されたままだ。


私はせっかく努力して入った大学をやめ、望月商事へと入社した。


望月商事はとてもいい労働環境とは言えなかったが、私が成功するたびに

先輩や後輩が

「君の資料とても良かったよ!これからもよろしく!!」


「すごいねぇ、若いのにちゃんとしてるねぇ〜」


「先輩、すごいです!尊敬します!!」

と褒めてくれたのだ。



ここのみんなは優しい!仕事が成功すると褒めてくれるし、尊敬してくれる!!

まるで私をよく褒めてくれたのようだ!

こんなに褒められる私はきっとエリートなんだ!!


----

「ガキに何話してんだろうな…俺は……」

俺はこう呟き、少年は聞き返した


「………じゃあ何でサボっているの?」


「…………」


----


つい最近まで私はいつものように仕事をしていたのだが

私の先輩がこんな会話をしているのがふと聞こえたのだ。


「あの進とか言うやつさぁ、おっさんのくせに一向に昇進しないし

ぶっちゃけお荷物だよね」


「そうだな…資料も普通って感じだし、他にこれといった能力もないもんなぁ」


最初私は嫉妬されているのだろうと思ったが

その後も聞こえてくるのだ、陰口が


「あのオッサンマジきめ〜、褒めただけで気持ち悪い笑顔になってやんの」


「自分がエリートとでも思っているんですかねぇ?役立たずのくせに」


「進ってヤツ、そろそろクビにしません?うっとうしいんですよ」


嘘だ、嘘だそんなはずはない!私はエリートのはずなのだ!!

そう言い聞かせたのだが、私は次第に職場に行くのが怖くなってしまった。


----

「酷い職場だね、おじさんもおじさんで頑張っているはずなのにさ」

少年はこう言い、さらに続けた


「でもおじさんもちょっと間違ってるよ…」


「はぁ?いったいどこが間違っているって言うんだ!!」

こんなこと言われるんだったら、こんなガキに話なんてするんじゃなかった

と思ったのだが


「おじさんは、おじさんのママの話をちゃんと聞いていないよ」


「どう言うことだ?!」


「おじさんってさ今の会社楽しい?」


「そりゃあ、変なこと聞く前はみんなから褒められていい気分だなって思ったよ」


「そうじゃ無くてさ…望月商事の仕事内容が楽しいかって聞いているんだよ」

…楽しいさそりゃ、楽しい…、楽しいのか…?


「って思ったでしょ?そこだよ、おじさんは自分がやりたいことを

やってるんじゃ無くて、《《褒められるのが嬉しいから

やってるんじゃないの?》》」


「……それの何が悪い…」


「おじさんのお母さんはおじさんに

って言ったんじゃないの?なのに、どうして他人のためにがんばっているの?」


そうだ、私は常に

行動するのは常に他人のためだった。

後輩のために資料を手伝い、

先輩のために常に飯を奢った


考え直してみると、私はいいように使われていた…

なんだったんだな

「はは…母さんもきっと僕に期待なんてしていなかったんだ…」


「そんなことはないと思いますよ、進さん」

少年は静かに切り出した


ってのは、進さんのお母さんが

あなたに期待していたから、貴方を愛していたからでた言葉なんでしょう。

自分の息子は自分のために精一杯頑張っているんだけれどその頑張りを

である自分では無く、

進さん自身に向けて欲しかった、自分のために努力して夢を掴んで欲しかった。

その想いから来た言葉なんだと僕は思います。

勤六 進は

自分のために


あぁ…ママは僕のために頑張っていたのに僕は、僕は…



「ごめんよ…ママ………」

僕は大粒の涙を出してあのときのように泣きじゃくった。




「進さん…人生100年時代なんですから、まだ遅いってことはないとおもいますよ。人のために頑張った貴方は、これからは

自分の好きなように生きていけばいいんですよ」


「あぁ…」


----



「色々と迷惑をかけてしまったね、私から謝罪させてもらう…

本当に申し訳ない!」

私は深々と少年に対して礼をした。


「イヤイヤ、そこまでのことはしてませんよ〜、

僕はタダ公園でサボっただけですから〜」

少年は照れながらそう言った


「じゃあ、僕は駄菓子屋にお菓子買いに行きたいんでこれで」

少年はそう言い切ると颯爽と去っていった


子供のくせに、随分と大人っぽい少年だったな…

私は最後に少年の背中にこう言った

「それはそうと学校にもちゃんといけよーー!!」


あぁ…私の葛藤は少年により晴天を迎えたのだった






































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