恋を運ぶ花に恋して
彩矢
第1話
焼き上がったクリームボックスをトレーに並べていると、カランカランとドアベルが鳴り高校の担任だった吉川先生が店に入ってきた。
「おぅ」
「先生お久し振りです」
「どうだ調子は?」
「はい、お陰さまでこの通り元気です」
「そうかそれは良かった」
先生は、今、母校である私立秀峰高校で校長をしている。突然教師を辞め、姉夫婦が営むパン屋を手伝い始めた僕を心配し、月に一度は必ず様子を見に来てくれる。
「なぁ、砂金。頼みがあるんだが」
いつも陽気でくだらないオヤジギャグを連発し笑わせてくれる先生が珍しく神妙な面持ちになっていた。
「ここでは他のお客さんの目もありますので」
「それもそうだな」
店内の喫茶コーナーに先生を案内した。
「コーヒーをお持ちします」
「いや大丈夫だ」
ソファーに腰を下ろした先生は、ほとほと困った表情を見せながら言葉を続けた。
「産休代替の先生がなかなか見つからなくてな。なぁ、砂金、三月までの四ヶ月、うちの学校に来ないか?」
「僕にわざわざ頼まなくても、副担や学年主任の先生がいるじゃないですか。不祥事を起こし教師を辞めた僕には無理です。もう二度と教壇には立たないと心に誓いましたから」
「砂金は何も悪い事はしていないだろう。むしろ被害者だ」
先生の言う通りかも知れない。あんな辛い思いは二度としたくない。自分だけなら我慢も出来る。でも家族にまた迷惑は掛けたくない。
「実はな……」
昔から頑固なのは先生も分かってる。
すっかり薄くなった白髪混じりの髪を掻きながら一つ深い溜め息を吐いて本当の事を話し始めた。
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