隣の席の美少女名探偵にボソッとアドバイスして解決に導いていたらなんだか懐かれ始めてます
新原
第1話 細長い侵入者には気を付けて
「うーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん」
俺こと
昼休みの教室でのことだ。
私立
その窓際最後尾の席には黒髪ロングヘアの美少女が座っている。
「わっからないわー……何よこの事件……」
そうぼやく彼女は世間に名を馳せる美少女探偵だったりする。
どんな事件もまるっと解決、でお馴染みの
「何が分からないんだ?」
お隣のよしみで話しかける。
「実は難解な依頼が来てしまってね……お昼が喉を通らないほど悩ましい謎がもたらされているのよ」
と言いつつ巨大なメロンパンを囓っているのは多分ギャグ。
「どういう依頼なんだ?」
「守秘義務があるから言えないわ」
「なら俺が今から聞くのは川中島さんの独り言だよ、いつも通りに」
ミステリ好きの俺は悩める川中島さんにアドバイスをすることがある。
それが何度か役立ったことがあるから、割と信頼を得ているという経緯だ。
「分かったわ……独り言ね」
頷いた川中島さんは、窓の方を向きながら淡々と呟き始める。
「依頼内容は密室殺人の謎解き。警察からの協力要請よ。多角的な視点で捜査したい、ってことでね」
密室殺人か。
「とある日の日中に単身用マンションの一室で若い女性が遺体で発見されたわ。死因は毒蛇」
「……毒蛇?」
「室内にハブが1匹居たそうでね、深夜の時間帯にそれに噛まれたのが死因だったみたい。で、問題はここからなんだけど、そのハブがどこから入ってきたのか、警察は分かっていないみたい。私が悩んでいるのもそこね」
川中島さんは室内の間取りが表示されたタブレットを眺めている。
人間ぶっ殺しゾーンはなさそう。
「遺体発見当時、窓は全部閉まっていたとのことよ。もちろん玄関も鍵が閉められていた。室内写真を見る限り天井や床に隙間があったりもしない。この間取りを見ても侵入経路になり得る部分はない。そもそもここは本州よ。都内よ。ハブが居るのはおかしいじゃない」
「まぁだから人為的な殺人ってことで捜査されてるんだろ? 容疑者はまだ捕まってないのか? 捕まってるならそいつがハブの侵入経路を知ってると思うが」
※これはあくまで独り言の応酬です。
「容疑者は黙秘を続けているらしいわ。それこそハブの侵入経路を喋ったら自分が犯人であることを認めたも同然だから、犯行を認めないためにまったく喋っていないみたい」
なるほどな……。
「……その容疑者は亡くなった被害者とどういう関係なんだ?」
「2ヶ月前まで交際していたそうよ。でも被害者側が結構尻軽というか、何度か浮気をしていたみたいでね、それが原因で別れたらしいわ」
「ってことは……ハブを解き放ったのは怨恨による復讐かもしれないのか」
まぁ動機は置いといて……。
容疑者と被害者が交際関係にあったというなら、容疑者は被害者の自宅の間取りをよく知っていたはずだ。
間取り図からは分からない侵入経路があったりして、そこからハブを侵入させたんじゃないか?
でもそういうのがあるなら警察が現場検証で気付くか……。
となると、多分特殊な侵入経路はないんだろうな。
……。
ん、待てよ……。
「なあ川中島さん、その容疑者って合い鍵を持っていたりはしないのか?」
交際関係にあったなら充分にあり得ることだ。
もし合い鍵を持っているなら侵入経路もクソもない。
寝静まった深夜帯に鍵で玄関を開けてハブを解き放てばおしまいだ。
「合い鍵は持ってなかったそうよ」
あっさり否定されて悲しい……。
「でも今カレが居て、彼は合い鍵を持っているみたい」
今カレは持ってる……。
……え、じゃあ……。
「……分かったんだけど、事件の全容」
「え、参考までに訊かせてもらえる?」
「結論から言えば、ハブの侵入は今カレと容疑者の共犯しかあり得ないと思うんだけど……」
合い鍵持ちの今カレが協力すればハブによる密室殺人は呆気なく完成する。
今さっき考えたように、寝静まった深夜帯に今カレに鍵を開けてもらう、そしてハブを解き放てばおしまいだ。
多少運要素も絡んでくるが、朝までぐっすり寝ていたと仮定すれば数時間はハブの前で無防備を晒していたことになる。
それなら一度は噛まれるはずだし、噛まれたからこそ被害者は亡くなっている。
「待って田島くん……今カレが協力すれば確かにアッサリ密室殺人が成り立つのはその通りよ。でも今カレが容疑者に協力する理由なんてある?」
「あるさ。容疑者と被害者が別れた理由をもう一度自分で言ってごらんよ」
「……被害者が何度か浮気をしたから、でしょ?」
「そう。被害者は浮気性の人間なんだよ」
浮気性の人間ってそう簡単に改まらない。
裏を返せば飽き性だから、すぐに新しいぬくもりを求めてしまう。
「――あ、もしかして……」
ピンと来たようだ。
「……今カレも浮気され始めていたの?」
「あくまで仮定ではあるけど、その可能性が高いと思うよ」
それならば、今カレが容疑者と手を組む動機が生まれる。
敵の敵は味方理論。
今カレと容疑者にとって、被害者は共通の敵と化したわけだ。
ハブ殺人の話を持ちかけたのは恐らく容疑者。
合い鍵持ちの今カレが今回の犯行に及ぶ場合協力者は要らないしね。
「あとはもう、俺がわざわざ説明するまでもないよな? 2人が手を組めば、密室ハブ殺人のシチュエーションは幾らでも作り出せる」
「た、確かにね……その推理をそのまま使わせてもらってもいい?」
「いいけど、それがもしハズレだったとしても俺は一切責任取らないからな?」
「もちろんよ。……あ、それとちなみにだけど、わざわざハブを犯行に使った理由って何か思い当たったりする?」
「それに関しては……」
俺は少し考えたのち、
「もしかしたら事故死扱いになるかも、っていう淡い期待を込めてのことじゃないか? あとはまぁ、浮気するようなクソ女には滋養強壮を直接くれてやらぁ、ってことなんじゃね? 知らんけど」
※
後日――川中島さん曰く、密室ハブ殺人の全容については、ズバリ俺の推理通りだったらしい。警察も大体そういう目星で動いていたそうだ。
そんなわけで川中島さんからハブ酒をお礼に貰ったんだけど、当たり前だけど俺は飲めないので親父にプレゼントしたら喜んでいた。
「――この川中島さんっておにいの同級生なんでしょ?」
ハブ酒で晩酌する親父を尻目に、俺は中坊の妹とソファーに並んでテレビを眺めている。
とある生放送のバラエティー番組が映し出されていて、そこに川中島さんが出演しているのだ。
美少女高校生探偵はこういうタレント活動もやっている。
『なんかアレなんやろ? こないだもまた変な密室事件を解決したとかなんとか』
司会のお笑い芸人が川中島さんに話を振っている。
川中島さんはどこか得意げに、
『ふふん、私に解けない謎はありませんっ。真実はいつもひとつ! じっちゃんの名にかけて!! QED証明終了!!!』
探偵の名言欲張りセットだ。
『番組をご覧の皆さんっ、もしお困りの謎があれば川中島探偵事務所にぜひご連絡を! 私と優秀な助手がなんでもまるっと解決致します!』
……助手ってまさか俺のことじゃないだろうね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます