エルフの恋愛事情<後編>
−−翌朝
弘也は宿屋の窓から外をうかがった。路地裏にやはり例の男はいる。目があったせいか男はそそくさと奥に身を隠した。
「へぇ」
弘也は感心した。どうやら一晩中そこから様子を見ていたらしい。警察顔負けの張り込みだ。その根性を他の事に使えばいいのに。
宿屋の一階にある酒場でナスティアラと合流した弘也はそこで朝食を取って再び街に出る事にした。
−−大通り
これだけナスティアラと仲良さそうにしていればストーカーはヤキモチをやいて何かしら行動を起こすだろうと踏んでいるのだが、今の所これといった変化は見られない。ならばいっそと思い、ナスティアラと手をつないでみた。
ストーカーの反応は正直だった。短剣を手に弘也の方に近づいていく。あと五歩、四歩、三歩・・・。
「おっと、そこまでだ」
ストーカーの後ろから首根っこを押さえたのは和司だった。
「ストーカー規制法違反で逮捕する・・・と言いたいところだが、この世界にはお前を取り締まる法律はないんでな」
「お前今までどこ行ってたんだよ?」
弘也とナスティアラは振り向いて和司の元に近寄った。
「こいつをずっと見張ってた」
「ストーカーをストーカーしてったって訳か。一体いつから?」
「昨日の夜からかな。アンパンと牛乳調達するのに苦労したぜ」
「そんな物この世界にある訳ないだろ」
道理で昨日から姿を見せないわけだ。弘也は納得した。
−−酒場・フォンストリート裏の馬屋
テーブルと椅子を用意し、後ろ手に手錠をかけたストーカーを座らせた。向かい合うように和司と弘也が座っていた。少し離れた所にナスティアラも座ってもらっていた。
「最初に言っとくが、カツ丼は出ないからな」
和司はドスの利いた声でストーカーの男の取り調べを始めた。
「どういう流れで彼女を追い回すようになったのか、そこから話してもらおうか」
「あれは雨が降っていた時、慌てて走っていたら思わず転んでしまって足にケガをしたら、通りかかった彼女がケガの手当をしてくれたんです」
ひょろっとした弱そうな男はやはり弱々しい口調で話し始めた。
「だから彼女は俺に気があるんです。きっとそうなんです。だから二人の恋路を邪魔しないでください」
和司と弘也は顔を見合わせて大きく溜め息をついた。
「ただの親切心を気があると勘違いしたわけね」
「そんなはずありません。彼女はきっと僕に・・・」
手錠をガチャガチャ鳴らしながら男はなおも同じ事を繰り返す。
「いい加減にしろ!」
和司は両手でテーブルを叩く。男は思わず黙り込む。
「いいか、ただケガの手当をしただけで気がある訳ないだろ!いい加減目を覚ませ!」
「直接彼女に聞いてみるのもいいかもよ?」
弘也はナスティアラを手招きした。
「う〜ん、そんな事もあったかもだけど、ごめん。覚えてない」
ナスティアラのトドメの一言でストーカーの男はガックリと頭を下げてしまった。
「今回は見逃してやる。だけど今度彼女を追い回すようならただじゃ済まないからな。覚えておけ」
「悪い事は言わないから元いた街に戻るんだな」
二人に言われるまま男は手錠を外され、自分が住んでいた街に戻っていった。
−−街の大門
「ありがとうございました」
ナスティアラはペコリと頭を下げる。
「いや、大した事はしてないよ」
「早く彼氏に追いつけるといいな」
「はい」
ナスティアラはこれまで見せた事のない一番の笑顔だった。
「それじゃあまた」
ナスティアラは再びフードをかぶって道を進んでいった。二人はナスティアラが見えなくなるまで大門の前に立っていた。
「そういえば、お友達紹介してもらうの忘れてたな」
「あぁ!すっかり忘れてた!」
二人はガックリと肩を落としながら街に戻っていった。
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