エルフの恋愛事情<前編>

−−酒場・フォンストリート


二人は酒場で昼食を取っていた。


「食べ物の味は俺達の世界と変わらないんだな」


「まぁ洋食と割り切ればそうだな」


弘也はモシャモシャとサラダを食べる。


対する和司はカチャカチャとステーキをナイフとフォークで切り分けて大胆に口に入れていた。




ふと酒場の入口の方を見ると、この場には似つかわしくない金の刺繍に白いローブを着た人物が入ってきた。その人物はフードを取ることなく奥のカウンターにいるアルバートに話をしにいく。


話を交わしている内に何やらこっちを指差したらしい。白いフードの人物は二人のいる丸テーブルに寄ってきた。


「あなた達がけーさつの人達ですか?」


「あぁ、そうだけど?」


返事をすると白いローブの人物はフードを取った。瞬間、二人は"おぉ"と感嘆の声を上げた。


美しく整いすぎた顔立ち、尖った耳、さらさらストレートの金髪、たわわに実った胸、くびれた腰、すらっとした脚線美、間違いない、女性のエルフだ。この街にもエルフはいるが、こんなに間近で見ることは初めてだった。間近にいるせいか、いい匂いがする。


「私はナスティアラ・バートニックといいます。お二人が事件を解決してくれるというので相談に来ました」


ナスティアラは神妙な面持ちで二人に話しかけた。


「で、ご相談というのは?」


「酒場の外にいるあの男、見えますか?」


ナスティアラは見えないように酒場の外の路地裏に隠れている男を指差した。二人も気付かれないように外を見る。


「何かひょろっとした弱そうな男だな」


「あの男が何かしたんですか?」


「いいえ、まだ何も。ですが、二つ前の街からずっと私を付けてきてるんです」


ナスティアラはまるで気味の悪い物を触ったかのような表情で身震いしている。


「「ストーカーだ」」


二人は同時に答えた。


「しかしストーカーは俺達の専門分野じゃないんだけどな・・・」


和司の煮え切らない態度に弘也は立ち上がった。


「カズ、ちょっとこっちに来い」


弘也は丸テーブルから壁の方に和司を呼んだ。


「何だよ?」


「本当にいいのかよ。いつまでも追いかけられたんじゃ気持ち悪くてたまらんだろ」


「それがどうしたんだよ?」


「ストーカーがエスカレートして犯罪に走ってみろ。矢面やおもてにさらされるのはいつも警察だろうが。“何やってんだ警察は”って」


「まぁそれもそうだな」


「そ・れ・に。ストーカーを捕まえた暁にはナスティアラちゃんと合コンしようぜ」


「合コンねえ」


「そ、合コン」


「それもいいなぁ〜」


二人ともすっかりエルフの虜になっていた。


「だろ」


二人は晴れ晴れとした表情で丸テーブルに戻った。


「任せてください。あいつは俺達が何とかしてみせます」


「あぁ、ありがとうございます」


今まで震えていたナスティアラが初めて笑顔を見せた。


「ところでナスティアラちゃんはなんで旅してるんだ?見たところ任務クエストの為でもなさそうだし」


「先に旅立った彼を追いかけているんです。うまく追いつけるといいのですが」


「あ、彼氏持ちなのね」


弘也の肩を和司はポンポンと叩いた。


「まだ希望はある。お友達だけでも紹介してもらおう」


弘也はガックリと肩を落とした。




しかし、この世界にストーカーを処罰する法律があるのか調べる必要がある、と和司は爪を噛みながら考え込んだ。


法律に詳しい人物・・・と一つ心当たりがあった。


「ヒロ、ナスティアラちゃんの警護は任せた」


「おい、カズ。どこ行くんだよ?」


「ちょっと調べ事してくる」


和司はジャケットを着て酒場を後にした。




−−大通り


ナスティアラと弘也は街をどこへという訳でもなく歩いた。ナスティアラは足早にこの街を出て彼の後を追いたいだろうが、ここでストーカーと決着を付ける覚悟があるらしい。しばらくはここに滞在してもらう事になった。弘也は時々後ろに注意をはらい、誰かが後を付けてないか確認していた。


散策の途中で旅に必要な物を調達する為に食糧品店や道具屋に立ち寄ったりしたが、やはり男の気配は消えない。




その日は何事もなく、ナスティアラは二人が泊まっている宿の隣の部屋に泊まる事になった。


「カズ、戻ってるか?」


弘也は部屋に戻ったが和司の姿はなかった。


「あいつどこほっつき歩いてるんだよ」


結局その日は和司は戻る事はなかった。

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