村を追われ、仲間に裏切られた異端児は世界に名が轟く化け物に成る

外狹内広

プロローグ

第1話

「殺せ!を殺せ!」

「この化け物を殺すんだ!」

「殺せ!」

 

 三本の爪で切り裂かれたような傷と、縦に伸びた瞳孔の左目を持つこの俺に向かって次々と石が投げつけられる。

 13歳の誕生日を迎えた今日までそんなこと一度も無かったのに……。


「死んで!」

「消えろっ!」

「……っ!?」


 昨日まで親しかった隣のおじさんも、一緒に遊んでた友達も、揃って俺に石を投げつけてきた。どうして……?この傷とか何も言ってこなかったじゃないか……!

 疑問が俺の頭の中で浮かんでは消えていく。今まで仲が良かったはずなのに、それが今じゃ─────


「死ねっ……!」

「この村から消えろ!」

に触れたものを許すな!」


 “邪竜の怒り”ってなんだよ……!?そんなの今まで聞いたこと無いぞ!?前までこの目とかとか言われて、ちょっとした自慢だったのに。なのに。

 みんなの目に、“怯え”が見え隠れしている。

 俺を見て、正確には俺の目を、傷を見て、怯えている。

 この傷だってちょっと転んで出来たもので、決して魔物とかにやられてとかでできたわけじゃない。こんなドラゴンの爪で裂かれたようについただけだ。

 みんな……一体どうしちゃったんだ?


「ユウゴ……」

「っ!」


 その時だった。俺の耳に聞こえたのは、唯一この目を見て怖がらなかった幼馴染のハルカだった。彼女は俺の目を見ても話しかけてくれて、そして成人になったら一緒に暮らす約束もしていた。

 ……だから、彼女は大丈夫なはずだ。彼女は、俺の味方のはず。



 そう思って俺は何が起きているのか聞こうとして近づき─────頭に強い衝撃が返ってきた。



「化け物だったんだ……っ─────嘘つき」

「……っ!?」



 ハルカに拒絶された。昨日まで仲が良かった彼女から。その事実に遂に俺の心は折れて、彼女に背を向けて全速力で逃げ出した。


 村の人々から全力で離れる。それでも石は投げつけられ、体の至る所に当たり、血が流れる。さっきから痛いのを我慢して走ってるけど、もう視界が揺らいできている。さっきハルカに投げられた石の当たり所が悪かったのか、額から血も流れてきている。


 このままじゃ、殺され─────


!!」

「っ!」


 その時、俺の耳に入ってきたのはどんな時でも俺を裏切らなかった、唯一信頼できる人の声だった。俺はすぐにその声がした方へと全力で駆ける。


「逃げるぞ!」

「追え!」


 俺を殺さんと後ろから走ってくる気配を感じたと思ったら、足元に後ろから石が転がってきた。やっぱりまだ追ってきているんだ……。

 俺は何もしていない……何も、悪いことはしていないはずだ……!どうしてここまで執拗に追ってくる……!?どうしてこれほど鬼気迫るような表情で、必死に俺を殺そうとするんだ……!?


「はぁ、はぁ……!」


 この村に生まれてからこの目のせいで少しだけ変な目で見られたりしたけど、時間が経てばみんな気にしなくなってたのに。

 いつからおかしくなったんだろう。そう言えばつい最近この村には珍しく遠くの街から宣教師がやってきていた……もしかして。

 いやいやいや、そんな事無いはずだ。宣教師がそんなことするわけがない。


「こっちだ!」

「父さん……!」


 そう思いながら逃げた先には父さんがおり、手招きしている。父さんがいた場所は村の離れにある家屋で、ここに隠れていればきっと逃げるチャンスが生まれるはずだ。


 よかった。父さんと母さんの二人だけは俺の味方だ。


「早くこっちに入れ!」

「うん!」


 急いで父さんがいる家屋へと入り、身を潜む。バクバクと煩く鳴る心臓を何とか押し殺して、近くにいるであろう父さんに潜めた声で話しかける。

 ─────そう言えば、母さんはどうしたんだろう。父さんだけがここにいるのはおかしい。あの二人はいつも一緒に行動するほど仲が良かった。息子の俺から見てもそうなのだから、傍から見たら結構なものだ。


 だから父さんだけがここにいるのはおかしくて─────


「……ごめんな」

「─────え?」


 父さんのその言葉が聞こえた刹那、突き刺すような衝撃が俺の体を襲った。突き刺すような、じゃない。本当に俺の体にナイフが突き刺さっていた。


「っ!?」


 全身に今まで感じたことのない程の痛みが押し寄せ、すぐに刺さったナイフを抜いてどこかに投げるも、


(なんだこの痛みは……!?)


 刺された箇所から刺された時とは別の、内側から臓腑を貪るような痛みが広がっていった。感じたことのない痛みに額から汗が垂れてくる。


 唯一どんな時でも信じれた父さんが俺を攻撃してきたことに対する困惑と、この耐えがたい痛みに俺の中で何かが壊れていく感じがした。



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