第1話 火種は再び

十数年の時が流れた。


風が気持ちのいい快晴。

この小さな村、ティア村では、何度目かの朝を迎えた。


王国からは少し離れており、農業が盛んなティア村

そんな村の朝は早い。牧場では、家畜のえさやりや馬の放牧がすでに行われている。

朝早くから猟師は村の警備をして、商人は、お店の開店準備をしていた。


「おかーさんおはよう。」

「あら、セラ。早いわね。」

眠い目をこすりながら、少女セラは起きてきた。


「はわぁ~、良い匂い」

先ほどの眠気はどこに行ったのやら、スープのニオイでバッチリ目を覚ました。

「あらあら。今日は肉団子のスープよ。もうすぐできるから、お姉ちゃん呼んできて」

母親は、そんなセラの様子をほほえましく思いながら、セラに朝一番の仕事を与える。

それは、セラにとって姉のような存在のある人物を、朝食に呼ぶこと


「分かった!」

「多分いつもの訓練所にいると思うから」

「行ってきまーす。」


村の訓練所

そこにその女性はいた。

白い着物に、ぴっちり目のライダースパンツをはいており、赤髪が良く映えていた。

座禅を組んで、一定のリズムで呼吸をして、気持ちを落ち着かせている。

赤髪の女性・宮本 焔の朝の日課だ。


ダッダッダと先ほどの静寂を破る足音が響き渡る。

そして、訓練所の扉が開くと

「ほむらお姉ちゃーん!おはよう!ご飯だよ!」

セラは、座禅を組んでいる焔に呼びかける。これがセラの朝のお仕事だ。


そして、その整った顔立ちを見て

「かっこいい」っとぽつりとこぼす。これもお決まりだ。


「おはよう、セラ。お、今日は早いな。」

「うん。早起きしたの!」

「偉いぞ。」

そういい、駆け寄ってきたセラの頭を、少し乱暴にくしゃくしゃ撫でる。


「えへへ。じゃなくて!ご飯だよ。私もうおなかペコペコ」

「そうかもうそんな時間か。」

「今日の朝ご飯は特別だよ!」

焔は、地面に突き刺した刀を抜く。

「そうか。じゃあ、冷めないうちにいただこう。」

二人は訓練所を出て、セラの母親が待つ家に戻った。


セラの家

「ただいま!」

「ただいま、おばさん」

元気のいいセラの声が響く

「ふふ。おかえり、セラ、焔ちゃん。」

セラの母親は二人の仲の良さに思わず笑みがこぼれる。

「今日は焔ちゃんの誕生日だからね。朝から豪華よ。」

「お!ほんとですか。ありがとうございます。」


今日は、宮本焔の誕生日。村は今日特に活気づいており、焔の誕生日を盛大に祝おうとしている。それだけこの村では焔は村人から感謝される存在であった。

そしてもう一つ理由があった。

それは、焔がこの村で過ごす最後の一日になるかもしれなかったからだ。


食事が終わり、しばらく団らんの時間が訪れた。

「焔ちゃんは、20歳になったんだったね。明日出発かい?」

「はい。本当におばさんとセラには感謝してます。」

「あの人に頼まれちゃね。それに、あんたは危なっかしいからね。」

おばさんは、感傷に浸りながら笑う。


セラが、焔の服をちょいちょいと引っ張る。焔がセラの方を見ると、寂しそうな顔をしていた。

「お姉ちゃん、いっちゃうの?」

「セラ。私はどうしても倒さなきゃいけないやつがいる。私の家族の仇なんだ。」

「ついて言っちゃダメ?」

「セラ!焔ちゃんを困らせないの!」

「すごく危険な旅になる。セラを巻き込めない。永遠の別れじゃない。すぐに戻ってくるさ。」


外で大きな爆発音が聞こえた。

「なんだい?」

家の扉が勢いよく開くと、村の猟師が息を切らしながら立っていた。

「魔獣が出た!今、村のもんと王国騎士が対応してる!家から出ちゃダメです。」

母親はとっさにセラを抱き寄せる。

「魔獣だって?!この村には一度も!」

「おばさん。私に任せて。最後の恩返しかもしれない。」

焔は刀を装備して、家を出ようとする。


「おねぇちゃん!」

振り返るとセラがおびえた表情で見つめてきた。

「行ってくる!」

にっこり笑って、親指を立てる。

勇ましく外に出る。

その背中は、セラにとってとても大きかった。


村のはずれ。森から一番近い場所に、熊の魔獣がいた。

この村には、王国から派遣されている騎士数人と猟師そして焔が村の戦力だ。

しかし、ティア村には、これまで一度も魔獣が出たことはなく、王国騎士も魔獣用の装備などなかった。


王国騎士が盾を展開し、その盾の後ろに猟師も隠れて、協力して対応していた。

この戦いで指揮を執っていたのは、猟師のドンであるガマラという男だった。

「あれが魔獣か?!まったく弾が通じねぇ!」

「ドン・ガマラ、魔獣に普通の弾は通じません。」

「なんでだよ!」

「魔獣は、獣に負のエネルギーが蓄積して生まれた怪物。負のエレルギーに耐えて魔獣になった獣には魔術の付与がかかった武器しか効かないのです!」

「おめぇら王国騎士はその退魔獣用の武器は持ってねぇのか?!」

「ティア村に魔獣が出た報告は一度もなかったため、王国からも支給されていません!」

「なら、焔の嬢ちゃんしか魔獣はたおせねぇ!嬢ちゃんが来るまで全員耐えろ。」


魔獣には弾は通じておらず、血すら流さずゆっくりと二足歩行で歩みを進める。

その全長は四メートルもあり、通常のクマの倍の大きさだった。

頭には紫の角が生えており、体毛も紫色に変色していた。

「いくら魔獣でも、熊は熊だ!野郎ども!大きな音を出すんだ!」


「その必要はないよ。」


凛々しい声が響く。

「やっと来たか、焔!」

「お待たせ!あとは任せて。」

優雅に赤髪を揺らしながら歩いてきた。身長も180cmしかなく魔獣にとっては何倍も小さいはずだが、魔獣はその姿に一瞬ひるんでしまう。

そのすきにドン・ガマラは指示を出す。

「全員後ろに下がれ!背中は見せるなよ!ゆっくりだ!」


全員が後ろに下がり、魔獣から十分な距離を取ると焔が前に出る。


私はもう何もできなかった私じゃない。やっと見つけた私の居場所。

今度こそ守って見せる!


焔専用の武器である刀を抜き、魔獣に向かって構える。

その刀は、刀身は長く、鍔部分にちかいみねの部分にバイクのマフラーのようなものが3つついていた。

息を整え、気持ちを落ち着かせる。

脇を閉め、刀を立てて、構える。

猟師たちが大きな声を出していたが、焔には何も聞こえていなかった。


瞬間、魔獣が向かってきた。それを合図に焔も歩みを進める。

魔獣が腕を振り上げ、焔めがけて振り下ろしてきた。

誰もが、焔に攻撃が当たると思った瞬間。焔は天高く跳んだ。


体をねじり、刀を掲げる。

「最後の恩返しだ!いくよ、神威式型エンジン剣!」

取っ手の部分を捻じる。すると刀から大きなエンジン音が鳴り響き、マフラーの一つから炎が噴き出す。そしてエンジン剣から声が聞こえる。

フェーズワン!


刀身が火に包まれ、振りかざす。

魔獣の首はあっけなく吹っ飛んだ。

焔は音もなく着地し、高ぶった気持ちを再び落ち着かせ、深呼吸をした。


「よくやったぞ!焔!俺らの勝ちだ。」

村人からは歓声が沸き上がった。

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