File.2 縊鬼

1.急用

 その日、俺はサークルの先輩の家に呼ばれていた。

 招待された時間までまだある。早めに訪ねてもいいが、まだ部屋を片付けてる途中だと怒られるのも面倒だ。暇を持て余して街をぶらついていたところ、高校からの同級生と偶然出会した。

「あれっ、首藤シュトウじゃん。丁度いいや、これから先輩ん家でホムパするんだけど、お前も来ねえ? 飛び入りでも酒を土産に持ってけば大丈夫だと思うし」

 ノリの良い悪友はいつもであれば二つ返事で乗ってくる。しかし首藤は意外にも首を横に振った。

「悪い、俺用あるんだわ」

 コイツが誘いを断るなんて珍しいこともあるものだ。好奇心に駆られて、理由を聞いてみた。

「へえ。何の?」

「首括らなきゃ」

「は?」

 聞き間違いだろうか。冗談にしても笑えない。呆気に取られている間に、首藤はさっさと帰ってしまった。俺は唖然としたままその後ろ姿を見送ったのだが、しっかりと引き留めておけばよかった、と後悔した。

 翌日、首藤は部屋で首を吊っている姿で発見された。

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