第2話 ドーム丘


 なんだあれ。小さい山っていうか大きな丘っていうか。東京ドームぐらいか? 実際見たことないけど。感覚的にあれぐらいが東京ドー、おお! 動いた!?


 数キロは先にあると思われる丘が動きこちらに近づいている。吉井は非日常な現象をぼんやりと眺めていると、空から何かが降ってくるのが目に入った。


 徐々に地表に近づいてくるそれは丘の真上に向かって来ており、直撃するなあ、きれいにあたるなあ、と思って見ていると、吉井はそれが飛行機であることに気が付いた。


 おお、あれ飛行機か。おれが乗る予定だったやつだよな。飛行機のことよくわからんが流れ的には。


 数十秒後、飛行機は東京ドーム丘に激突し、轟音と共にあった粉塵交じりの風で、反射的に目を閉じた吉井は吹き飛ばされそうになるのを中腰になってこらえる。


 そしてしばらくして目を開けた吉井は、東京ドーム丘が生物だと理解した。


 東京ドーム丘からは、数本の手のようなものがうごめき、周りの木々をなぎ倒しながら、地面を殴りつけていた。また動いたことにより土が剥がれ落ちて、何とも言えない色、薄緑のような皮膚が空気にさらされており、吉井は、丘から手が出でて暴れている、という感想を持ってその様子を見ていた。


 手がひとしきり暴れた後、地表から丘が少しずつ持ち上がっており、あれだけの質量がありそうなものが立てるわけがない、支えられないし、大体にして2本足なら地面にめり込んでいくだろう。こういうときは冷静にならねば、と吉井は漫画で読んだアニメの検証を思い出していた。


 しかし東京ドーム丘は土を地表に落としながら、4本の足で徐々に立ち上がり始めていた。


 4本足か。それは聞いてないなあ、検証にはなかったなあ。と見ていると、先程と同じように空から何かが降ってくるのが目に入った。


 吉井はその物体を見た瞬間、反対側にある森に向かって走り出した。


 でかい、なんだあれ! さっきの飛行機であの衝撃。今落ちてきてるのは、あんなでかいのが落ちてきたら。走りながら吉井は何度も振り返りながら森に入り、さらに奥に向かう。


 ペースも考えないいきなりの全力疾走により、数十秒で吉井は激しく呼吸が乱れる。しかし吉井はさらに強く足を踏み出し、舗装されていない地面を時折草をかきわけながら進むと再び森の外に出た。


 もう出たのか。なんだったんだここ?

 辺りを見渡すと、数百メートルの幅で木々が先程の草原を囲むように続いている。


 さっきの丘があった場所を中心に、森がドーナツ風に囲ってたのか?と考えていると空が暗くなり東京ドーム丘の方向を見た吉井は、落ちてきている物体が滑走路と建物から空港だと認識した。


 空港って。ちょっと待て、おれはここにいるがあそこには。


 吉井はもう一度走り出した。


 森を抜けた場所は先程と同じような草原が広がっており、吉井は左側に見えた池を目指してできる限りのスピードで駆ける。


 はあ、え、はあはあ。あそこには人がいるのか、というかさっきの飛行機だって。


 吉井が振り返ると空港は地表に迫ってきており、少し迷ったが、吉井はそのままスピードを落とさず池に入り腰までつかれるぐらいになると、水に潜り中心に向かって進む。


 生温いどろどろとした水が体にまとわりついたが、吉井は気にせず進み、ある程度の水深がある場所まで来た時、息を止めて水中に潜っていると、水の中にいた吉井でも、飛行機が落ちたときとは比べものにならない衝撃があった。



 まだだ。あと少し、あと少しと伸ばしたが、2分程度で限界となった吉井は水面から顔を出し、のろのろと池から這い出て辺りを見回したとき、ほおお、と声が漏れた。


 通り抜けてきた森が無くなって完全に平地になっており、またその残骸と思われる木々がそこら中に散らばっており、そんな衝撃あるのか。ああ、でも。吉井はふと思い出した。


 たしか直径1kmの隕石が落ちたら地球がどうにかなるはず。でも今かなりの衝撃はあったが地球はどうにかなってないから。こうあれか、大気圏通って来たわけではなくて。空中にぽん。そしてどん。みたいな感じか。


 行く場所もないので、吉井はふらふらと歩きながら先程いた場所に向かった。



 多分この辺だろうなあ。吉井は直径数百メートルの大きさと思われるクレーターの穴の淵に立っていた。


 こうなるんだ。いくら、ぽん、どん。でも空港が落ちると。穴の深さは数十メートルあるように見え、吉井はしばらくその場で立ち尽くしていたが、本当に空港なのか、と確かめたくなり、穴の中心に滑り降りて行った。


 思ったより勢いがついて焦り、一度斜面に手をついて止まった吉井は、所々に落ちているコンクリート、鉄の破片が目に入り、それが建物の残骸だということが何となくわかったが、人がいたかどうかは判別できなかった。


 そして穴の中心に行くにつれて薄緑色の霧のようなものが濃くなっており、吉井はそれの人体に影響を及ぼす可能性を考えたが、太陽が二個ある時点で、もうどうでもいいんじゃないかと先に進むことにした。


 残骸の中、吉井は人を探したが見る限りでは建物や飛行機のものしかなく、吉井は少し安堵した。空港だぞ、数千人はいるだろう。それなのにこれだけ形跡がないなら大丈夫だ。まあ、何が大丈夫かわからないが。


 穴の中心部は緑色の霧でほとんど視界が無く、周りが見えない恐怖から、太陽が2個あることと、この霧は別物とした方がいいと思う。と考えを変えた吉井は慌ててクレーターの外に出ようと斜面を登り出した瞬間、緑色の霧が吉井を追うように集まり少しずつ吉井の体内に入っていく。


 吉井は、なんか緑色の霧が口や鼻から入っている。と自覚していたが、一気に入ってないから。ちょっとずつ入ってるから大丈夫。これがもしアルコールなら周りの空気で薄めて飲んでいるから大丈夫。っておれは言ってるけどそれどういう理屈なんだろうな。と反論を入れながら自分を納得させ登っていたが、途中からめまいに近い感覚でふっと体の力が抜けながら、様々な映像が感覚的にはまぶたの裏に映る。


 なんだよ、これ。昔の微妙なホラー映画の最初っぽいなあ。いろんな映像がギャ、ギャギャって音と同時に切り替わるこの感じ。


 しかしそれも数秒で終わり、なんだったんだ。やはり霧か?吉井は何度も目を開けたり閉じたりしながら注意深く坂を登った。



 やっぱりここにドーム丘あったよな。もうないけど位置的に。というか、全体的は話をしよう。ドーム丘がどうこうはいいとして、よくはないけどとりあえずいいとして。それ以前にここはどこなんだよ……。


 吉井は再びクレーターの淵に立ち尽くしていた。

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