転生陰陽師の現代修行録~転生した平安陰陽師は現代日本で妖魔相手に無法する~

高崎あざみ

第1話 平安陰陽師、転生す

 かつて、平安の世。誰もが知る藤原氏の栄華、輝かしき時代のその陰で、人を食らう物の怪、妖魔が罪なき人々を脅かしていた。同時に、そんな妖魔から人々を護るため、陰陽師達も妖魔達を祓い、その威を振るい、平安の時代に陰陽師の名を轟かせる一因となった。


 阿倍晴明、芦屋道満……現在までその伝説が語り継がれる陰陽師が次々と現れた。

 しかし、その中には歴史の土に埋もれ、礎となった陰陽師もいた。たとえ、それが晴明、道満すら凌がんという才覚を持っていた者であろうとも。


 ────明月めいげつ。それが、彼の名である。


 数少ない伝承によれば、明月は農民の生まれで在りながら陰陽師となり、陰陽寮に身を置き、晴明らと共に妖魔から平安京を守護したという。


 さらに明月は並外れた才覚を持ち、成熟した心、正確無比なる技術、晴明に師事し学んだ数多くの陰陽術、平安武者とも互角に渡り合う武芸と、その時代の陰陽師の中でも抜きん出た力があり、その豪腕で多くの妖魔を祓ったとされている。


 しかし、彼もまた、非業の死を迎える。

 彼はある妖魔による怪異事象を追う最中、宮中の勢力争いに巻き込まれ、ある夜、明月を良く思わなかった貴族と内通していた女官に食事に毒を盛られ、それを食した明月は毒によってあえなく死亡した、とある。


 そうして、明月はあまりにもあっけなく散り、その武勇も諸般には知れ渡ることはあまりなく、志を同じくする陰陽師達の間で、その話が細々と語り継がれていき、時を経るなかで陰陽師達の中でも知る人ぞ知る伝承として残った。


 それから千年以上たったある日のこと。

 現代の陰陽師の家の一つである園條えんじょう家の当主の元に、一人の赤子が生まれた。当代の四十万家では初めての男子で次期の当主となることが約束されたその子の名は、築人つきと。そう、何を隠そう彼が、黄泉路から現代へと転生した、明月そのものなのである。


 ────と、いうわけで。


 俺は現代に転生した。


 勿論、転生した時は驚いた。物心ついていくにつれ思い出されていく記憶に対して、この時代の世界はあまりにも衝撃だった。高層ビルに、どこの土地へ行っても一つはかつての京をはるかに凌ぐ都がある。なんでも、この現代は俺の生きた時代より千年以上も先の未来であるという。園條家の書斎にずらりと並べられた歴史書を見た時は正直、面食らったものだ。


 それに、今の時代はほとんどの人が食べ物に困らないときた。それに、街には異国の見たこともないような料理で溢れていて、昔の面影を残す食べ物なんてのは全く無いに等しい。もっとも、俺は今の時代の食べ物の方が好きなんだけど。味も濃いし、食べ応えもある。肉や魚なんてそれこそ宴会にお呼ばれした時しか食べられなかったのに、今は毎日食べられる。なんなら、生まれ変わって一番に感動したのはこの食事面で間違いない。ちなみに、俺のお気に入りはハンバーグとピザだ。この二つを食べると力が沸き上がってくるんだ。


 まあ、豊かになったこの時代でも妖魔が現れ続けてるってのは、ちょっとマイナスだったかな。でも仕方ない。妖魔とは、万物全ての負の情念から現れる物の怪、根絶は出来ないとは分かってるけど、夢は見てしまう。


 しかし、それならば人々のために祓い続けるだけだ。何より陰陽師の家にまた生まれたのは僥倖ぎょうこうだった。一度目の人生じゃあ、俺はまだ不完全燃焼だったから……ほら、恥ずかしい話だが、あんな死に方じゃあ、さすがにな?


 だから、俺は今一度鍛え直すことにした。この明月としての前世から引き継いだ技術と陰陽術、そして伸び代しかないこの身体さえあれば、俺は必ず極みへと至ることができる。


 そうして俺はこの人生でも、陰陽師としての道を歩むこととなったのだった。


 どのような人生にあっても、陰陽師の家の者として生まれたのならやることは一つだ。


 妖魔を祓い、人々の安らかな暮らしを護る。


 それが陰陽師の使命であり、俺の生きる理由なのだから。

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