囚われ 12階層

優美

第1話

また天井が違う…、12回目…、だな。

…、何回やってもやっぱり寝起きはボーッとする。

いけない!早く前の分とこれまでの分を書き残さないと!


私はいつも通り勢いよく布団、いや、今回はベットから起き上がると何かのプリントがされた紙の裏に勢いよくボールペンで書き残す。


よし、やっぱり起きたすぐは書き出せるくらい覚えている。

最初みたいなミスはもうしない…、顔もぼんやりとだけど思い出せる。必ずもう一度会ってみせるんだから…。


「えぇっと、今の時間は4時半…。朝早い時間は混んでいないから5時半に家を出れば間に合う。よし、シャワーを浴びていつもより早めに施設に行こう。」


彼女は独り言をいうと急いで身支度を整え、家を出た。

部屋を出て周りを見渡すと、彼女が住んでいるのはどう見ても都会ではない、がめちゃくちゃ田舎というわけでもなく、駅が近くにあり、それなりに人通りが多い場所だ。

バタバタとマンションの階段を駆け下り、少し離れた場所にある車に乗り込む。

この車は外車だが、自分の車というわけではない。父親に借りている車だ。

彼女が働いている施設はマンションから車を走らせて10分ちょっとだ。今日はいつもよりも早い時間に車を走らせているため、車は全く混んでいない。


「はぁ、はぁ、よし!早く着いた!」


ガチャ!


「ちょっと希望(のぞみ)ちゃん。ドアは静かに開けなきゃダメよ。利用者さんはまだ寝ているんだから。」

「あぁ、未来(みく)先輩。すみません、ちょっと急いでいたもので…」

「急ぐって、まだ5時30分だよ?結構早めの時間だと思うけど。まぁ、いいや。それに忘れちゃったの?この時間は正面玄関は空いていないわよ?裏から入って打刻をしないと…」

「あぁ、そうでした。すみません、忘れていました。」

「無理もないよ、2回目の早出なんだから。さぁ、行きましょう。」


そんな話をすませると、希美は先輩の未来と一緒に打刻を済ませ、更衣室に向かった。

『鈴村』と書いてあるロッカーに向かい、希美は素早く施設の服に着替え、早々に更衣室を後にしようとする。


「おぉっと希美ちゃん!?何か忘れてない?」

「はい?えぇっと…」

「ちょっとちょっと、名札よ名札。」

「あぁ!そうだった!大変なことをしでかすところでした…」

「確かにそうね、普段の生活ではまず必要にならないものだけど、施設の職員がつけていなかったら一応法律違反だから今後は忘れないようにね。」

「はい!」


希美は名札を首からかけると支援局へ向かう。

パソコンへ向かい、いつも通り日誌を確認する。

日誌には毎日利用者の様子が細かく書かれており、当日いないときや夜の間の利用者の様子も知ることができる。

ただ、希美がメインで見たかったのは日誌ではない。この施設がそもそもどんな施設なのかということだ。


カタカタ…


「えぇっと、美風会 通常者向けサービス・支援組織…。通常者?」

「希美ちゃん、なんでこの施設を検索しているの?」

「あぁ、いえ、せっかくなんでこの施設について聞かれた時にスムーズに答えられるようにと思って…」

「おぉ、えらい!でもこの施設は小規模で支援内容は結構単純だから、私が求人担当になっていた時の資料でよければあげようか?」

「ありがとうございます!お願いします。」


私はそういうと、パソコンを閉じ、業務を始めるために先輩についていった。


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