~修完(しゅうかん)の忘却―The perfect scheme in forgotten―~(『夢時代』より)

天川裕司

~修完(しゅうかん)の忘却―The perfect scheme in forgotten―~(『夢時代』より)

~修完(しゅうかん)の忘却―The perfect scheme in forgotten―~

 香ばしく成る初春(はる)に漏れ出す〝思春の上気〟が人間(ひと)の蒸気と絡まり宙(そら)に還るを端(はな)から見下(みおろ)す幻想(ゆめ)の〝送り〟に企図を置く儘、俺の暗(やみ)へと準じる総出の手腕(すべ)には晩夏(なつ)の主流(あるじ)をほとほと待てない身欲(みよく)に根付ける暗黙が在る。孤高に根付ける幻(ゆめ)の最中(さなか)にきっと見(まみ)える詩文の情緒の片鱗等には、個人(ひと)の経歴(きおく)が未だ保(も)てない時制の樞(しかけ)が神秘(ひみつ)に根付き、幻想(ゆめ)の間(ま)に間(ま)に寝床に射止める若い自己(おのれ)を活歩(かつほ)へ自導(みちび)く牧歌の謳歌が散乱している…。孤独と「黄泉」から気楼を意図して根向(ねむ)かう主情(あるじ)は、現代(いま)を活き跳ね、思考を揺(まど)わす未完(みじゅく)の「Mr. Children(しんし)」に把(つか)めて居らずに、安い一場面(パート)で文学(がく)を培う手持ち無沙汰の容易に咲き逝き、二度と還らぬ現行(いま)の黄泉から死中に息衝く死臭(におい)の成就を延々捥ぎ取る無機の酒宴(うたげ)に屈服して居た…。

      *

 …恐らくローラースケートでマラソンをしていた。統合失調症に煩う奇特の暴君か他の誰かと一緒に俺は良い子して走って居た。他の皆は助かっていたようだ。鈴木ほなずが後から一緒に走っていた。ほなずの両足は若い頃のようにむっちりとしており、それほど太くないながらにセルライトが出ていた。ほなずは結構速そうだったが俺達に結局負けていた。走るコースは昔の国道一号線のようで、何処(どこ)かの海岸沿いのようで、又田舎のようだった。体育会系のSMAPと光ゲンジがちらと出て来た。彼等は暴君・外人(少しスタローンにも似ている)を少し劣等に見て、

「ちゃんと走れるか?大丈夫か?」

等と、心配して居た。

      *

 開拓前から〝死病〟が先立つ蝙蝠(けもの)の巣箱が奇妙に仕上がり、仕上がる宙(そら)から二極(ふたつ)の蝙蝠(けもの)は〝俺〟と君主に二つの人道(みち)等きちんと設けて、明日(あす)へ旅立つ人間(ひと)の古巣を概(おお)きく既視(おお)きく、幻想(ゆめ)へ紛らす未知の道標(しるべ)へぽつんと遣った。現行(いま)を逝き交う概(おお)きな〝道標(しるべ)〟の導く成果(はて)には、結構矢鱈に古傷(きず)が吐露(つぶや)く未情(みじょう)の主観(あるじ)が果敢に蹴上がり、進歩を保(も)てずに駆逐に乱され生気を自葬(ほうむ)る現行(いま)の現代人(ひと)には、未知に引かれて奈落へ堕ち着く孤高の自然(あるじ)が幻影(アニメ)を揺るがし、気鋭に準ずる夜半(よわ)の理性(はどめ)が私義(しぎ)を忘れて暴君を観た。人間(ひと)の肌理から未曾有の宗派を遮る経過(とき)には、女性(おんな)の裸体(からだ)が未完(みかん)を呈して、黄泉の臭気を一切冠する被脆(ひよわ)の寿命(いのち)を鵜呑みにする儘、生気に宿れぬ個人(ひと)の順路(まつろ)を到底豊穣(ゆたか)な私産(しさん)に柔(じゅう)じて暗黙(やみ)の清(さや)かな夢想(ゆめ)の論破に犠牲を通じて追従(ついしょう)して逝く無財の調理に滑稽味(おかしみ)を見て、逝くも還るも既視(おお)きく捗るsympa(シンパ)の許容(うち)から、当面保(も)てない辛気(しんき)の要因(かなめ)を宙(ちゅう)へ忘れて夜気(よぎ)を頬張り、独走して行く自機(じき)の生果は既視(おおめ)に気取れる二局(ふたつ)の生き地(ぢ)を俗世(このよ)で射止める旧い進化に没頭させ得た。夢中の最中(さなか)に自己(おのれ)が跳ね活き女性(おんな)の背中を追い駆け生く頃、俗世(このよ)を波(わた)れる術(すべ)を知らずに孤高に熟(う)れ出し、俺の身元は安気(やすき)を求めて暫く彷徨う独身(ひとり)の表情(かお)など上手に観て居る。俗世(このよ)の荒波間(なみま)を執拗(しつこ)く競歩(ある)ける人間(ひと)の郷里をふっと想うと、現行(ここ)まで来たのが変に床(ゆか)しい無益の労苦を啄む様(よう)にて、純白(しろ)い郷地(アジト)は自己(おのれ)の拍手にふらふら蹴踊(けおど)り、羽二重(はぶたえ)さえ無い孤独の勇気を自分に設え陽気を吟味(あじ)わう「未覚(みかく)の神秘」に道標(みちしるべ)を観て、昨日に配する〝身分〟の傍(そば)から非行の進度(しんど)を巧みに測れる…。何時(いつ)まで経っても現代人(ひと)の愚行(おろか)が止まない俗世(このよ)で、とっくに死に逝く〝悶えの主情(あるじ)〟を追走したまま現代人(ひと)の浮騒(さわ)ぎと真面に対した億年を観て、俺の心身(からだ)は暗(やみ)の許容(うち)より好く好く仕上がり孤独を蹴散らす傘下の像には吐息(いき)を投げても反応さえ無く、「絶望」ばかりが宙(ちゅう)を飛び交う俗世(このよ)の上気に憤気(ふんき)を保(も)った。通り縋りの男女(だんじょ)の馴れには元から落ち込む凋落さえ観え、潔白(しろ)い花輪(はなわ)が女性(おんな)の頭上(うえ)からゆらゆら落ちても男性(おとこ)の君には如何(どう)する間も無く、相手をするにも幻(ゆめ)に同じの裸体(らたい)を取り持つ〝女性(おんな)〟で在るから、女性(おんな)の生気(いき)には微塵も沿(そぐ)わぬ鋭気が落ち込み理想は奮わず、純白(しろ)い怪奇は女性(おんな)を連れ添い俗世(このよ)に死んだ。死んだ盲者(もの)から英気(えいき)は返らず、黄泉へ辿れる俗世(このよ)の縁(ふち)から人へ逆行(もど)れる算(さん)は立たずに、どんどん羽ばたき無機へ撓(しな)れる陽気の坩堝は人間(ひと)を離して俗世(このよ)の生気に乖離の利かない夢遊の突破を論じていながら、俺の躍起は空虚を切れない不断の暖気を俗世(このよ)で観て居る。男性(おとこ)も女性(おんな)も俺の身元(もと)から素通りして活き、遠目に見守る金縁(ふち)の範囲(なか)では小躍(こおど)りするまま路頭に果(し)ぬが、意味を呈(み)せない空気(しとね)の最中(さなか)に常識(かたち)を宿して競歩(ある)ける乱歩は、俺の視野から可細(かぼそ)く翻(かえ)れる未完(みじゅく)の使徒への挑戦とも成る。孤独の共癖(ドグマ)が未完(みじゅく)を宿せる歩幅の間隔(うち)にて鼓動(うご)きを止(や)めない未覚(みかく)の〝児童(こども)〟をその眼(め)にした時、初歩(はじめ)から無い大きな財産(たから)は白雲(くも)の上から俺へ臨んで、俗世(このよ)を過ぎ去る苦労に絶えない無味(むみ)の主観(あるじ)を覚醒させ得た。

      *

 一緒に走って居た俺は「大丈夫ですよ」と軽く言い、又良い人に成った。円福寺前の食堂の駐車場が折り返し地点の様(よう)だった。海の、湖の香りが何故(なぜ)か仄かにしていた。前方(まえ)を走って居たほなずやもう一人(知ってる誰か男でマラソンのやり手)が居たが、下り坂で俺達は一緒に追い抜く。その際、BGMの様(よう)に流れていたのがサザンの「希望の轍」でり、「ホッホッホッホ♪」と合わせ調子に調子(ペース)を付けて俺は、順調に二人、時折り一人で、走って行った。

      *

 足りない調子に調子(ペース)を取り添え、自分に見紛う二人の男女を羽ばたく空気(しとね)にぽつんと据え置き、苦手な〝順序〟を独白(ひそか)に講じて、俺に纏わる眠たい辛気(しんき)は加齢に乗じて倦怠を観た。単色主義(モノクロリズム)の幻想(ゆめ)の主流(あるじ)は自分の身近に堅く繋げる未完(みじゅく)の感覚(いしき)を陽気と敷いて、俺の心身(からだ)が宙(そら)へ対して独走(はし)って来るのを何処(どこ)か虚しく待機して居り、男女(だんじょ)の派閥が幻夢(ゆめ)に巻かれて姿態(かたち)を送るは過去の最中(さなか)の人煙(けむり)に巻かれる脆(よわ)い愚行(おろか)を晒(さら)けても居る。俺と他(ひと)には幾つも宿らぬ〝合せ上手な小人〟が行き付け、相(あい)して止まない未知の感動(うごき)が衝動(ゆらぎ)を視(め)にして細弱(よわ)い感覚(いしき)を下手(したて)に採り往く〝傀儡・盲者(もうじゃ)〟が自体(おのれ)を仕立てて微妙に息衝き、〝合せ調子(ちょうし)〟に一本見紛う目的地(あて)を外れた細い脇路(みち)まで死力を尽せる独歩が強いられ、他(ほか)の〝黄泉〟とは結束出来ない暗い「路地」から「土手」へ辿れる不吉な目測(はかり)をその掌(て)にして居た。「俺と他(ひと)へと自ず対する主情(あるじ)の方(かた)」には、目測(はかり)を調度に開拓して往く俺の神秘が姿形(すがた)を変え生き、微温(ぬる)い囃しを雑踏(ノイズ)に化(か)え得る空気(しとね)の焦燥(ゆらぎ)がその肌理さえ観(み)せ、漂白(しろ)い周辺(あたり)が陽(よう)の明灯(あかり)に正体(からだ)を曇らす未完(みじゅく)の進歩が駆逐され行く。何時(いつ)の時代(とき)でも他(ひと)と対する煩わしさとはその目を以ても化(か)えぬ代物(もの)だと、ぐつぐつ煮え行く憤怒の周囲(まわり)で浪衰(ろうすい)しながら、俺に宿れる滑稽(おかし)な神秘(ふしぎ)は樞(しくみ)を取り添え「生(せい)」を逃がした。

      *

 二度目の夢。

 前進でエロスに対抗して居る上摺(うわず)り調子の女医が出て来て、俺と、他の誰かと、軽い店の中を歩いて居り、俺は女医に質問した。

「あ、そや!聞きたい事があんねんけど、これネットでも結構質問で挙がってたりするねんけど、八十年から九十年代のアイドルで、誰が一番奇麗?ってやつなねんけどぉ、中森明菜ぁ、河合奈保子ぉ、えーとあと誰やったっけな、えーと、あれ?くそ、出てこーへん、あ!そや、確か、中山美穂!」、

 そこまで言って女医が直ぐさま止(と)めに入る。

「中山美穂は違うやろ(笑)。」

 活躍した時代が違うだろう、と言うのだ。

「あっ、じゃあ~、えーと、あそうそう小泉今日子やわ」

と俺が言うと、

「小泉も…」

等と言いながら女医は仕方なく俺の質問に答え出した。

「誰が一番奇麗と思う?」

 もう一度念押しに俺が訊くと、

「二番…(微笑)」

と女医は答えた。中森明菜を指しているようだったが、後で冷静に考えれば、明菜、奈保子、今日子の順で訊いたので、二番は、奈保子になりそうだった。店を出る迄に終えた質問であった。

      *

 孤独の次には黄泉に独歩(ある)ける未来が先立ち、明日(あす)を発(た)たせる気鋭の要(かなめ)は見事に落ち着き俺を呑み込み、現行(いま)の主流(あるじ)に直ぐさま気取れる豊穣(ゆたか)な安堵を根差して在った。偶像(アイドル)から観た俺の覚悟は現行(いま)を活き抜く神秘に足りなく、他(ひと)と現行人(ひと)とが折好く二重(かさ)なり、陽(よう)の許容(うち)から並んで協歩(ある)くを不意に逃(のが)さず揚々召し取り、昨日に埋れた他(ひと)への律儀を黄泉の彼方へ充満して往く俺の懐疑に悶絶しながら端正(きれい)に割かれた五月蠅(あわ)い残骸(むくろ)を「主流(あるじ)」に呑ませて陶酔(うっと)りして居る。「独創(こごと)の主流(あるじ)は現行(いま)の猛進(すすみ)に如何(どう)する間も無く、純白(しろ)い大海(うみ)へと海馬(うま)を観るまま進んだようだ…。万葉(ことば)の尽きない現行(いま)の最中(さなか)に、若い労苦はだんまり決め込み、俺が吟味(あじ)わう無益の孤独を体裁好くして冷観(れいかん)している…――」、途切れ途切れに発音(おと)の切り目を黙索(もくさく)する間(ま)に頂(ちょう)を冠する二語(にご)の感覚(いしき)を活きながらにして独学して生き、人間(ひと)の孤独を何する間も無く、無為の意識を把(つか)む迄には俗世(このよ)の至闘(しとう)を終えて逝くのを黙して按じて眺めて居るより他(ほか)に得てする所業(わざ)を識(し)らない。俺の仰げる丁度低目に位置する白雲(くも)には他(ひと)の故意など何する間も無く、「寝息」を費やし黙って幻見(ゆめみ)る現行人(ひと)の孤独が浮かれて在った。

      *

 (次の日に見た夢)

 俺は何処(どこ)かの店にアルバイトかパートか、非常勤かで、見習いとして働いて居た。図書館と書店とを足したような店だった。一度働き、二度目に働いている俺の姿を、俺は例によって客観的に観ていた。一度目は、相性が悪そうな小母ちゃんと少々気不味い経験をしたが、二度目では偶々(シフトで)一緒になったその小母ちゃんの方から一方的に謝って来てくれて、俺も「いやいやそんな事はないですよ」と微笑を以て応え、何とかやって行けそうだった。

      *

 定期的にと「自分を目指せる私欲の溜まり」に口火を切り出し、万象網羅を常に企図する俺の分身(からだ)がふわりと現れ、可細(かぼそ)い路地(みち)から大通りへ迄その身を射止めぬ気丈な独気(オーラ)がぽつんと投げ立ち、身欲の呈した孤独の末路を行くも儚く未知の果てから、一つ、二つ、煩悩(なやみ)を健忘(わす)れる真価を察して群庸(ぐんよう)へと就き、二進も三進も決して往かない暗(やみ)の呼笛(あいず)を待ち続けて居た。暗(やみ)の身許を快(かい)して明かさず人の人煙(けむり)に敢えて目に付く古参の情緒を拝して居ながら、俗世(ぞくせ)の暗幕(やみ)では俺の純心(こころ)に決して識(し)れない現代人(けもの)の身欲が横行して居り、大股歩きに〝女子〟の身元を蹴散らす二欲(によく)の美神(めがみ)が男性(おとこ)の実力(ちから)を屈服させつつ自明に纏わる自体(おのれ)の理性(たち)等、朗(あか)るい往来(ちまた)で生き活きさせ得た。「空想裡(くうそうなべ)」から私宝(しほう)に纏わる謳花(おうか)が生じて俺の片身(かたみ)は緑(ろく)を奪(と)るでも具体を朗(あか)せる振起(しんき)も乱さず、生涯相(あい)する乱歩に徹した自己(おのれ)の在り処を確信するべく、その実(み)の高貴(ひかり)を宙(そら)の目下(ふもと)へ準じて止まない勝手の行為に邁進して往く。紺(あお)い瞳(め)に付く己(おの)が掌(て)に着く〝身許〟を訴え、隠し髏(こうべ)に純粋なる哉、幾つの優雅に分れた神秘は疾風の海馬に疾走して行き、明然(はっき)り成せない至極の〝旧巣(ふるす)〟へ一歩も届かずその実(み)を萎えた。逡巡して逝く二相(にそう)の窓から傀儡(どうぐ)が跳び発(た)つ行為を追い抜き、萎びた男女(だんじょ)は年嵩問わずに悶絶して活き、俗世(このよ)の隈(わい)から岐路に就け得る波動の神秘(ふしぎ)へその身を遣った。小母の孤独がやきもきしながら自身を訴え、小さく覗かす黄泉の寝言に俺の目耳を併せて据え置き、若い大樹へ寄り添う姿形(かたち)で姿態(すがた)を呈さず姿勢(しせい)を設けて、明日(あす)の益まで現行(いま)に頬張る無欲の神秘(しんぴ)に自体(すべて)を費やす。寡黙(しずか)な神秘(ふしぎ)に孤島を想わす条理が働き、二度に亘(わた)れる既視(いしき)の海馬は二語(にご)に尽せる嗣業を手招き、旧い黄泉路(よみじ)の孤独の縁(ふもと)へぽつんと置かれた劣等(おとり)は淋しく、旧い口文(ふみ)にて足踏(ちゅうちょ)を顕す現人(ひと)の憐れを上手に解(と)いた。無謀の晴嵐(あらし)が俺を目掛けて猛進して居り、生来目にした〝嘆きの対象(オブジェ)〟は知識を排して創作して居り、俺の孤独が〝死なぬように〟と無根の幻想(ゆめ)など与(さず)けてくれた。俗世(このよ)の果てから極小(かよわ)く昇れる人間(ひと)を突き刺す無用の陽光(ひかり)は、涼しい貌(かお)して無駄を配する右翼にも似た熱尾(ねつび)を下さり、持って生れた二履(にば)きの自然(あるじ)に俺の孤独を任せて居ながら〝活きる為に…〟と苦労を要する二重(ふたえ)の隔離を俺へと遣った。無言の空間(すきま)に無音が這い出し、俺の孤独が寝屋を求めて闊歩をするには矮小(ちいさ)な盛りが陽(よう)を曇らす活歩(かつほ)の手術(すべ)など必要とも成り、眩んだ両眼(まなこ)に故意を収(しゅう)する記憶の賛歌が褒美を識(し)った。眩む両眼(まなこ)に試算の乗ずる憤怒が身悶え、暗(やみ)の益(えき)にて労苦に徹する不義の主輩(やから)が撤収して活き、乳白(しろ)い躰に文字が入(り)り出す大海(うみ)の光沢(ひかり)は残光(ひかり)を射止めて、嗣業(こと)の初めを円らに目にする俺の人陰(かげ)には、純白差(しろさ)に驚愕(おどろ)く無理の呼笛(あいず)が木霊し翻(かえ)る。生歴(きおく)の明朗(あかり)にぽつんと敷かれた両眼(りょうめ)が見開き、微(かす)かな季節風(かぜ)さえ暗夜(あんや)の許容(うち)から木霊を空転(ころ)がし俺の身許(もと)までゆるりと翻(かえ)れる鼓動を設けて、日本に留(とど)まる気色の初歩(いろは)を無意(むい)の彼方へ把(つか)んで放り、感覚(いしき)の十切(とぎ)れた〝旧巣(ふるす)〟の内(なか)では微妙を愛して創作していた…。無駄に修(おわ)れる労苦の所作には個別の空間(すきま)がふわりと表れ、未知へ繋げる道標(しるべ)に依存(たよ)れる浮(う)きの旋律(しらべ)に余興を発し、お笑い人(びと)から稀有の人まで事毎束ねて宙(ちゅう)へ抛るは人間(ひと)の歴史が既(かこ)に定めた神秘の片鱗(かけら)に纏わる対象(もの)にて動(どう)を定めず静(せい)に寄り添い、未覚(みかく)の〝文化〟に矢張り生育(そだ)つを児童(こども)の期間(ころ)から倣った挙句に未(いま)を以ても信じて在った…。――。

      *

 遣る中、俺は又、早稲田受験を目標と出来る為、絶対に辞められないのだ、等と殊勝な心掛けを持ち始めて、ずんずん仕事に向かって行く様子に在った。そしてカウンターに立った時、客が何人か居て、俺は試雇段階ながらに接客しなければいけない状態にも既に成って居た様子で、カウンターに他のベテラン職員と一緒に立つ事に成った。何か、コンビニの様(よう)でもあった。又、そのカウンターに立つ以前に既に俺は、一度同じ様(よう)にして働いて居り、それなりに少しは接客、CP(レジのような物)の扱い方を覚えて居て、何とか遣れそうだったのである。

      *

 矛盾の究(きわ)まる不屈の暗夜(よる)での概(おお)きな共嘆(なげき)は、自然(あるじ)と小人(こびと)を俺へ添わせる無機の振動(うごき)に少し似ていて、俺の〝向き〟から自然(しぜん)に発する標(しるべ)を見詰めた鼓動の猶予(ゆらぎ)は果てる実(み)でさえ終ぞさもしく、自体(おのれ)の裸体(かたち)を自然(あるじ)へ魅せ往く不毛の輪舞曲(ロンド)を結集させ活き、俺の身欲を終ぞ培う魅惑の連想(ドラマ)は歴史(かこ)を忘れて忘却(ものわすれ)を問う「不問の共鳴(なげき)」に奇しくも似ている。空虚の強靭差(つよさ)をそっと弛(よわ)める無智(むち)の道標(しるべ)の歩先(ほさき)の頭上(うえ)には、端麗(きれい)に並べた夜半(よわ)の印(しるし)が忘却(ものわすれ)に似てすっと辟易(たじろ)ぎ、機会(とき)に乗じてその実(み)を見紛う無憶(むおく)の新芽(しんめ)に雨を降(ふ)らせる。思春の時期(ころ)観た〝少女(かのじょ)〟の姿態(すがた)は揺蕩い容姿(すがた)に自体(じぶん)を留(とど)めて、その場を目にする俺の孤独に微温差(ぬるさ)を興させ、曇り眼(まなこ)に始終を突き出る興味の切先(きさき)をひょいと撮んで、俺の背後をそっと晦ます透った裸体(からだ)を自然に寝かせる。過去の空間(すきま)を陽(よう)に照らされ協歩(ある)ける内には俺と少女(かのじょ)の無益の明朗(あかり)は自然に恵まれ育まれもして、少女(かのじょ)の周囲(まわり)に飛び交う日(ひ)の粉(こ)は具に畳まれ〝静(せい)〟を採り出し、日本を離れて欧(おう)の彼方へ両翼(つばさ)を拡げてわんさか跳び立ち、やがては観得ない異国の望郷(ふるす)へ見栄を魅せ突け翻(かえ)って仕舞う。俺の寝床は少女(かのじょ)を置き去る旧い死臭(かおり)に漸く嗅ぎ付け、彼女を射止めた細小(ちいさ)な純心(こころ)は陽(よう)に衒わず独歩を睨(ね)め付け、彼女の生還(かえり)を現行(ここ)で待つのに努力(ちから)に止まない労役さえ見た。泥む町には疲労の視(め)にする旧巣(ふるす)が佇み塵芥(ほこり)を被(かぶ)れる未完(みじゅく)の寝室(ねむろ)が陽(よう)を恋して少女(しょうじょ)を仰ぎ、誰も無いのに襖で隔てた寝室(へや)の隣室(よこ)から最小(ちいさ)な容姿(すがた)の童子(わらべ)が這い出し俺へと表れ、俺の記憶は生気を採れ得る黄泉の吐息を密かに噛んだ。

      *

 そのカウンターに立った時、既に少年客と、俺と相性の悪かった小母ちゃんは接客中であり、その少年客との接客を俺は任された。その時、カウンターに置かれた〝おまけ〟のような、小じんまりしながらも結構しっかりした造りの物を、店で買った、店を利用した客に渡さなければ成らなかったらしく、

「…んで、これを買ったお客様にお渡しして」

と言う小母ちゃんに俺は、ふむふむ、と殊勝に返事をして居た。

      *

 無音の経過(けいか)がこつこつ鳴りつつ、俺の隣室(よこ)から無機を呈して過ぎて逝く頃、俺の自体(からだ)を膨(おお)きく射止める嗣業を含める小さな暗(やみ)には、現行人(ひと)の夜さえ決して寄らない白壁(かべ)を隔てた孤独が表れ、現行人(ひと)の許容(うち)から現代人(ひと)が出て来て幻(ゆめ)を葬り理算(りさん)に就く頃、無機に頼れる自己(おのれ)の暗(やみ)には現代人(ひと)の生果が煩わしく成り、現代人(ひと)の海馬が事毎宙(そら)から解体され行き〝死亡〟の寝室(ねむろ)に集まる頃には、人間(ひと)に与(さず)けた生来(もと)の能力(ちから)は暗海(うみ)に静まり実(み)を絆され活き、行き場の見得ない「死んだ海馬」に「逃げ水」ばかりを浮きに仕上げる「未完(みかん)の王者」が君臨して居た。

 活きる上での覇気を失くせるしどろもどろの陽(よう)の片鱗(かけら)が宙(ちゅう)を見上げて独自を得る頃、俺の白紙は宙(そら)を透せる余程の活気を寝耳に遣った。Idol(ぐうぞう)から得る神秘(ふしぎ)の脚力(ちから)は宙(そら)の一等星(ほし)から用途を放り、礼儀の姿勢(かたち)に一切向かない周囲(まわり)の女性(おんな)を暗(やみ)へと遣った。暗(やみ)の彼方へ段々静まる彼女(おんな)の覇気には恋の情緒が段々死に逝く露骨な上手(うわて)が徐々に輝(ひか)って、俗世(このよ)の暗(やみ)から死地を数える夜気(よぎ)の憤怒に見舞われ始めて、俗世(このよ)の身元に〝稀有〟を欲しがる幼稚な音頭を踏み固めて居た。俺に養う「二履(にば)きの坊」には厚い白壁(かべ)から熱気の漏れ出す活きた死臭(かおり)を鼻中(びちゅう)に収める化(か)わった能力(ちから)が散々働き、陽(よう)の見得ない人煙(けむり)の籠った社(やしろ)の内では宙(そら)を始めに大地へ飛び交う人間(ひと)の感覚(いしき)が〝躍起〟を噛み出し、噛み付き始めた憎悪の行方の未明の主流(ながれ)は、万葉(ことば)限りの現代人(ひと)の足元(もと)から段々外され宙(ちゅう)へ途切れて、俺の孤独を揚々眼(め)にする神秘(ふしぎ)の初出(いろは)を数えて在った。乳白色した彼女(おんな)の肌理(はだ)には脚色(いろ)が付き出し、涼風(かぜ)の間(ま)に間(ま)に透る残骸(むくろ)は思春の上気を一気に従え、青春(はる)の晴嵐(あらし)にその気を込ませる透った蒸気と白壁(かべ)を造って、意味を保(も)たない人間(ひと)の陰から影響(ひびき)に見紛う化身を観て採り、明日(あす)に昇れる微妙の脚力(ちから)を感覚(いしき)へ発(た)たせて当面を観た。呆(ほう)け面(づら)した俺を象る瞬間(とき)の笑みには、俺の背後に真向きに望める意味の集体(シグマ)を全て覗いて、当り障りに支障を成せない神秘(ふしぎ)の空間(すきま)を脚色(いろ)で埋め生く海馬の主流(あるじ)をぽんぽん蹴散らし、俺と一緒に宮(みやこ)へ臨める旧前(むかし)の少女(おんな)は桃の表色(いろ)して、俗世(このよ)の夜風に寸とも失(き)えずの感覚(いしき)の生気を開拓して居る…。漆黒(くろ)い老婆が俺の目前(まえ)から身許を寄らせて宙(ちゅう)の然中(さなか)へ気流を憤(むずか)る欲の賛美に夢中を認(したた)め、慌て無沙汰に俺へ集める現行人(ひと)の表情(かお)には生気が無い儘、俺の身許は足場を失い籍を失い、仮初ながらに曇天(そら)を晴らせる無欲の謳歌を歴然ともした。無理に憤(むずか)る少女(おんな)の理性(はどめ)の感覚(いしき)の果(さ)きには、俺の独創(こごと)が口を利くのに当面流行(なが)れる辛気(しんき)を片付け、西日の片付く黄泉の留(とど)めに終ぞ哀しむ憐れさえ無く、明日(あす)と現行(いま)との境へ発(た)つまま無意(むい)を見詰めて活き生く鎬(しのぎ)を、鼓動に衝(つ)かれた不意の夢路は小躍りしたまま参照して居た。

      *

 「では、買われたお客様に、これをおまけとして付けてお渡しすれば良いんですかね?」

と俺が小母ちゃんに伺った辺りで目が覚めた。店で店員と話して居る最中(さなか)でも俺は、「お客様」や「お渡し」等と、とても丁寧で殊勝な言葉遣いをして居た。目覚めてから俺は、

「おまけとか、カードとか、ポイントとか、余計なもんが多過ぎんねん」

と、日頃思っていた最近の仕事の実態への不満を自然に覚えて居た。

      *

 書く事が何も無いと言う事が、俺が宙(そら)に見上げた最後の確認であり、白い紙には俺の黄泉から現行(ここ)へ息衝く無数の輪舞曲(ロンド)が小躍りして居て、奇妙に仕上がる俺の私事(しごと)と重なり出した。俺の傍(そば)から暗(やみ)の目下(ふもと)へ細々(ほそぼそ)消え行く現代人(ひと)の主観(あるじ)は解体して生き、微生に懐ける羽虫(はむし)の態(てい)して活気を失い、するする逃がせる貴重の幻(ゆめ)には競う相手をひたすら求める生(せい)の死臭(かおり)が充満していた。脆(よわ)い者から次々淘汰にその実(み)を委ねて恰好(かたち)の付かない無為の小躍(ダンス)を宙(そら)へ目掛けて発信する頃、現代人(ひと)と俺との立場の間隔(あいだ)は見る見る空転(ころ)がり拡がり始めて、明日(あす)の身欲も今日の身欲も決して成らない無機の片鱗(かけら)に目敏く成り出し、貴重の意識を自由へ遣る頃「自由」の恰好(かたち)を見紛い始めて、現行(いま)を支配(あやつ)る現代人(げんだいじん)には、自分の身分(すがた)を充分曇らす途方の規律(おきて)が物言い始めた。

 荷風に詰め込む山路(さんろ)の辺りは空気(もぬけ)が意図した奇怪が現れ、吟味(あじ)も調子も両掌(りょうて)に損ねた俺の背後の脚色(かざり)は、これまで信じた憂きを蹴散らす用途を失い、初めに見て来た山路(さんろ)の傾斜の体裁(すがた)にほとほと見紛う原始の魂(こだま)が亘(わた)って在った。人間(ひと)の価値から原始の価値まで、晴れた宙(そら)にて初春(はる)の芳香(かおり)に充分紛れる花粉の芥(ちり)など浮遊に在るが、俺の背を押す交互の脚力(ちから)が純白(しろ)い表情(かお)した億尾を携え、〝向き〟と識(し)らずに古郷(こきょう)へ発(た)て得る元気の末(すえ)にて落胆へと着き、俺の周囲(まわり)に誰も無いのが唯一掌(て)に取る無想の要(かなめ)で、未知の温床(ねどこ)に感覚(いしき)を向かせて唯寝付かせ得るのが、自分の分身(かわり)に俺が出来得る一つの網羅に変りなかった。紺(あお)い空間(すきま)に宙(そら)が表れ身近へと逝き、俺の貌(かお)から未完(みかん)の芽が出て悪態を吐(つ)き、現代人(ひと)の姿勢(すがた)は俗世(このよ)に集まり自然(しぜん)から退(の)く優雅な調子に気運を委ねる…。俺の心身(からだ)は俗世(このよ)の活気を馬鹿にし始め、生気を脚色奪(いろど)る無機の空間(すきま)に現代人(ひと)を立たせて呆(ぼう)っと見送り、初めて目にした自然(あるじ)の未知には俺の残骸(むくろ)を俗世(このよ)で蹴散らす優れた脚力(ちから)が散在して在り、廃人(ひと)に落ち着く直前(まえ)の現行(いま)にて、俺の温床(ねどこ)を用意して居た。―――――――(修完)。



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~修完(しゅうかん)の忘却―The perfect scheme in forgotten―~(『夢時代』より) 天川裕司 @tenkawayuji

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