先輩に退部を命じられて絶望していた僕を励ましてくれたのは、アイドル級美少女の後輩マネージャーだった 〜成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになったんだけど〜
第221話 彼女に誕生日プレゼントを買ってもらった
第221話 彼女に誕生日プレゼントを買ってもらった
「
「さすがにこれまで通りとはいかなかったですけど、それなりにって感じですね」
学校からの帰り道、
「よかった。香奈も気負いすぎないようにね。多分そのほうが七瀬さんも前を向きやすいと思うから」
「はい……でも、あかりと
「どっちも
「ですね」
香奈が安心したような笑みを浮かべた。
巧も内心でそっと安堵の息を吐いた。
香奈が必要以上に傷つく結果にならなくてよかった。これで
名前呼びに驚いたのは巧も同じだった。
優からアドバイスを求められた際にとにかく積極性を説いたため、別れないかもしれないなとは思っていたが、まさか関係を進展させるとは思わなかった。
もしかしたらあの二人は、お互い自分が思っている以上に相手のことを好きなのかもしれない。
家に荷物を置いて着替えた後、香奈は巧の家にやってきた。
三日後に控える巧の誕生日プレゼントを買いに行くためだ。部活はオフなので、時間はたっぷりあった。
目星はつけていた。時計だ。
五桁もするようなブランド物はいらない。機能性を重視したシンプルなものが欲しかった。
それを伝えると、香奈は「巧先輩らしいですね」と笑った。
「面白みがないってこと?」
「はい」
「えっ——」
「嘘ですよ」
香奈が楽しげに肩を揺らした。
二人きりの空間で、耳元に口を寄せてくる。
「流行とかブランドとかに目をくらませないところ、格好良くて好きです」
「っ……!」
不意打ちの愛の囁きに、巧は平静を保てなかった。
「ふふ、巧先輩って不意打ちに弱いですよねっ」
香奈が弾んだような声を出してニンマリと笑った。
「……今日から数日は僕が主役じゃないの?」
「でも、巧先輩ってサドに見せて意外と攻められるのも好きじゃないですか。ふふふ」
「……へぇ」
巧は目を細めた。
「えっ、ちょ——」
「生意気なことを言うのはこの口かな?」
「んんっ⁉︎」
あっと驚いた香奈の口内に舌を侵入させ、彼女のそれを絡め取っていく。
「ん……んんっ……!」
香奈が鼻から抜けるような嬌声をあげた。
巧が唇を離すころには、彼女は頬を真っ赤に染めつつ息も絶え絶えになっていた。
「ちょ、いきなり激しすぎます……!」
「僕が攻められるの好きって、よく言えたね」
「お、大人げない……!」」
「間違いない」
巧は苦笑しつつうなずいた。
大人げないことはわかっていたが、もうすぐ誕生日なのだ。これくらいは許されるだろう。
「っもう……まあ、完全無欠の完璧美少女香奈ちゃんは寛大ですから許してあげますけど」
香奈は不服そうにそう言った後、正面から抱きついてきた。
何か仕返しをしてくるかと巧は身構えたが、彼女は胸に顔を預けて幸せそうに目を閉じていた。
普通にハグしたくなっただけか——。
巧が気を抜いたその瞬間、
「うっ……!」
半分ほど元気になっていたモノの頭を鷲掴みにされた。
「ふふ、巧先輩。不意打ちとはこういうことを言うのですよ?」
「っ……負けたよ」
認めざるを得なかった。
巧の力技とは違い、確かに香奈の二発はどちらも巧妙だった。
「でも、その代わり——」
巧は香奈の腰に腕を回して、あえて押し付けるように抱きしめた。
彼女はピクッと体を震わせた。
「今日は夜にも一つプレゼントがあるんだよね?」
「っ……!」
メタファーと呼ぶにはあまりにも直接的な巧のお誘いに、香奈は頬を染めつつも嬉しそうにうなずいた。
どちらからともなく口付けを交わした後、慌てて出発の準備を始めた。
このまま家にいてはプレゼントの順番が前後してしまうことは明白だった。
最寄りから駅三つ分のところにある大型ショッピングモールに向かった。
「あ、これ格好いい! 巧先輩の色ですよ」
香奈が一つの時計を指差しながらはしゃいだ声を出した。濃い紫色だった。
「紫ってちょっと珍しいような気もするね」
巧は機能を軽く確認した後、実際に装着した。
腕を掲げて液晶画面を香奈に向けてみせる。
「どう?」
「めちゃくちゃいいと思います! 制服にも合いそうですねっ」
「確かに」
香奈のハイテンションぶりは、お世辞を言っているようには見えなかった。
巧も少しダークな雰囲気に厨二心をくすぐられた。
一応他の製品とも比較検討した結果、その紫色の時計を買ってもらうことにした。
価格も高校生の誕生日プレゼントとして常識の範囲内だった。
「本当にこれでいいんですか?」
香奈が少しだけ不安そうに尋ねてくる。
彼女がイチオシしていただけに、気を遣わせてしまったのではないかと思っているようだ。
巧は「もちろん」と大きくうなずいた。
「これがいいんだよ。シンプルで使い勝手もいいし、ソーラー充電で電池の入れ替え不要なのもありがたいし、色も格好いいからね。それに、やっぱり香奈が一番似合うって言ってくれたものを付けたいからさ」
「っ……も、もうっ、今日は巧先輩のお祝いなのに……!」
ぷいっとそっぽを向いた香奈は耳まで赤くなっていた。
思わず笑ってしまうと脇腹を突かれた。
「まったく、これだから天然のジゴロは……」
何やらぶつぶつと文句を言いつつ会計に向かう香奈の背中を見送り、店の前にあったベンチに腰を下ろした。
少し経ってから店を出てきた。
何食わぬ顔で「ちょっとウィンドウショッピングしません?」と誘ってくる。当然、プレゼントは当日に渡したいのだろう。
「いいね」
巧は笑顔でうなずき、その手を取った。
「ふふっ」
香奈が繋いだ手に力を込めて、にぱっと弾けるような笑みを浮かべた。言葉にこそしていないが、何よりもその笑顔が心の底から楽しんでいることを物語っていた。
巧はキスしそうになる衝動を必死にこらえた。
その後は普通のデートを楽しんだ。香奈はずっとハイテンションだった。
久しぶりの買い物デートかつ巧の誕生日プレゼントを購入したことによる興奮はもちろんあるだろうが、それだけではないだろう。
家に帰ってからもそのテンションは継続していたが、反動が来たのか夕食が終わるころにはこっくりこっくり船を漕ぎ始めていた。
巧は手伝うと言い張る彼女を無理やりソファーに座らせ、一人で洗い物をした。
リビングに戻ると、彼女のまぶたはほとんど閉じかかっていた。
「香奈、大丈夫?」
「はい……」
意思疎通はできているようだが、明らかに燃料切れだった。
「限界そうだし、今日はやめておこっか」
出かける前にあんなスキンシップをしていたためする気満々だったが、とてもそんな状況ではない。
「でも、巧先輩がシたいなら喜んで——ふわぁ……」
香奈は大きなあくびをした。
巧は釣られそうになりながらその頭を撫でた。
「いいよいいよ。今日はもう休みな」
「ごめんなさい……」
「謝ることじゃないよ。おねむな香奈も可愛いから」
巧はその頬にちゅっとキスをした。
「ふふ、ほっぺにキスされちゃいました……」
寝ぼけているのか、とろんとした瞳でそう言ってふにゃふにゃと笑った。
「っ——」
(む、無防備すぎる……!)
この状態の彼女といると危ないと本能的に察知した。
肩を貸しながら可及的速やかに
「僕、眠い彼女を無理やり抱こうとするような男だと思われていたのか……」
自宅に戻り、一人苦笑した。
確かに眠気に負けて幼児退行しかけていた香奈は食べてしまいたいほどに可愛かったが、さすがにそこまで節操なしではない。
「ちょっとシすぎかな……」
巧はしばし真剣に悩んだ。
もっと自分の欲に忠実になってほしいんです——。
以前に香奈に言われた言葉が脳裏に
「うん、大丈夫だね」
巧は満足げにうなずいた。
脳というのは、膨大な記憶の中から都合のいい記憶を引っ張り出すものである。
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