第124話 彼女の全身を揉んだ

「……ごめん。ちょっとやりすぎた」


 ヘニャヘニャになっている香奈かなに向かって、たくみは頭を下げた。


「ほ、本当ですよっ……!」


 彼女は肩で息をしていた。頬は真っ赤だった。


「勉強中はもうちょっと控えめにしようか」

「……私が赤点取ったら巧先輩のせいですからね」

「でも、僕と付き合う前から取ってたじゃん」

「う、うるさいですっ」


 香奈がぷくっと頬を膨らませた。


「ごめんごめん」


 巧が頭を撫でると、彼女は徐々に頬を緩ませていった。


「……いつまでもそれで誤魔化せると思わないでくださいね」

「肝にめいじておくよ」


 巧は笑いながら言った。

 くぅ〜、と香奈が悔しそうに地団駄を踏んだ。頭突きをしてきた。


「だからそれはって」


 巧はルビー色の光沢を放っている頭を両手で押さえた。

 懐かしいですね、と香奈が笑った。


「一ヶ月くらい前ですかね?」

「そうだね。いやぁ、あのときはまさか香奈と付き合うなんて思わなかったよ」

「この一ヶ月半でだいぶ変わりましたよね、私たち」

「たしかに」


 体感的に関係の構築速度はスローペースに感じられるが、それは毎日のように会える環境だったからだろう。


「香奈も自分から授業の復習するようになったし」

「巧先輩が褒めてくれなくなったらやめますからね」

「じゃあ、今から勉強再開したらもっと褒め——」

「先輩何やってるんですか今は勉強の時間ですよ」


 香奈が猛ダッシュで机に向かった。

 扱いやすいな僕の彼女は、と巧は頬を緩めた。




「終わったー……」


 巧は大きく伸びをした。

 入浴も昼寝もしたが、試合の疲れがまだ抜けきっていない状態で勉強をしたのだ。肩や首も凝るというものだろう。


「お疲れ様でーす」


 香奈が鼻にかかった声を出した。巧の背後に回り、肩を揉んだ。


「あー、気持ちいいー……」

「おっさんですか」


 香奈がクスクス笑った。


「他にどこかやってほしいところあります?」

「腰もやってくれる?」

「了解でござる……ちょっとやりにくいですね。ソファーに寝っ転がってもらっていいですか?」

「うん」


 巧がソファーにうつ伏せになると、その上に香奈が乗っかった。

 指でくいくいと腰を押す。


「痛くないですか?」

「うん、めっちゃいい……」

「それはよかった」


 五分ほど経つと、だいぶ疲労感が軽減された。

 巧はお礼に自分もやると申し出た。


 攻守交代。

 ソファーに仰向けになった香奈の肩から腰にかけてを揉んでいく。


「結構凝ってるね」

「やっぱりどうしても肩は凝っちゃいますね……あっ……ん……」


 巧が力を強めると、香奈がなまめかしい声を上げた。

 肩でも腰でも、それは同様だった。


「ん……はっ……」

「……誘ってる?」

「さ、誘ってません! 先輩の力加減がちょうどいいから声が漏れちゃうだけですっ」


 香奈が頬を真っ赤に染めて叫んだ。どうやら本当にわざとではないらしい。

 しかし、すっかりそういう気分になっていた巧には、彼女が意図的であったかどうかは関係なかった。


 肩から脇をたどり、側面から胸に手を這わせていく。

 ソファーに押しつぶされて横にはみ出しているその塊を優しく揉みしだきながら、徐々に中心部に近づいていく。


「ダメ……あんっ」


 巧の指がいよいよ尖った頂点に触れると、香奈が嬌声を上げた。

 口ではダメと言っていても、それが本心でないのは確認するまでもなかった。

 巧は香奈に覆い被さるように上体を倒し、


「可愛い声出すね」

「あっ……!」


 耳元でささやかれ、香奈はゾクっとなった。

 まるで「もう感じちゃってるんだ」と言葉責めを受けたような気がした。下の部分はすでに濡れ出していた。


「ふっ……ああっ……」


 乳頭を弄られて喘ぎつつ、香奈は自身の背後に手を伸ばした。

 ズボン越しに硬い感触がある。ギュッと握った。


「あっ……」

「巧先輩こそ可愛い声出しますね」


 香奈はニヤリと笑い、巧のズボンの隙間から手を差し入れた。


 ——それから二人は、サッカーではほとんど使うことのない手と口を駆使して、まるで今日の桐海高校との首位攻防戦のような激しい戦いを繰り広げた。

 香奈が最終ラインを低めに設定していたこともあり、巧がオフサイドになることはなかった。




 巧がダイニングテーブルで何やらパソコンをいじっている間、香奈は携帯をダラダラといじっていた。

 同じ空間にいることは多くても、四六時中会話をしているわけではない。


 どれだけ波長の合う恋人でも、いや、だからこそお互いの時間は大切だ。

 あまり頻度は高くないが、一人になりたいと思ったときはお互いに自室に篭るときもある。必ず声掛けはするが。


 香奈はふと携帯から顔を上げた。巧の横顔を盗み見る。

 穏やかな表情だ。心身ともに充実していることが伝わってきた。


 真の怪我の影響があったとはいえ、スタメンになって結果も残した彼は、最近は以前にもまして楽しそうにプレーをしている。

 真と内村うちむら広川ひろかわの弱みを握っているというのも心理面で大きく影響しているだろう。


 充実感を味わっているのは香奈も同じだった。

 一軍のマネージャーとしての動き方もようやく板についてきて、最近はますます部活が楽しくなっていた。


 相変わらず真親衛隊からは睨まれているが、何か仕掛けてくる様子はないため、そこのストレスが減っているのも大きかった。

 冬美ふゆみやマネージャー長の愛美まなみ、それに後二人のマネも常々香奈のことは気にかけてくれていた。


 それに何より、彼女たちは集団いじめ——それも暴行を加えようとしている——の動画という真たちよりも大きな弱みを握られている状態だ。

 退学や停学の可能性がチラついていれば、さすがに動けないだろう。


 最近では真との絡みがなくなったこと、そして巧がメキメキと頭角を表していることも影響しているのか、彼と香奈が仲良くしていることに対するアンチの声も少なくなっていた。

 というより、もはやカップルのように扱われることもあった。いずれ交際を発表しても、大半の者はあっさり受け入れてくれそうな雰囲気さえあった。


 これまでは障害も多かったが、ようやくすべてが順調にすべり出している。あとは自分が恐れずに一歩ずつ踏み出していくだけだ——。


 このときの香奈は、そう思っていた。

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