第104話 王子様陣営からの反撃①
部活の時間になると、監督の
彼はイメチェンした
「イメチェンでイケメンになってスタメンを取りに来たか、ハッハッハ!」
「……涼しくなったな」
しかし、彼らは京極の親父ギャグに対する飛鳥のツッコミで笑っているわけではなかった。
巧は、彼らの意地の悪そうな笑みの対象が自分であることに気づいていた。
(……何か仕掛けてくるかもしれないな)
巧は警戒心を強めた。
——その嫌な予感は当たっていた。
彼がボールに触る直前、広川がボールをカットした。
そこからの流れで、巧と内村のチームは失点した。
「おい
巧を怒鳴りつけながら、内村は優越感に浸っていた。
(これで如月の評価が下がることは間違いない。俺たちに盾突いたらどうなるのか教えてやるよ)
内村は序列で抜かされたことに加え、今朝の一件でも巧の手のひらの上で転がされていたことが許せなかった。
広川と二人で巧を追い込み、ミスをさせて評価を下げさせようと決めていた。
巧にボールを出すべき場面で出さず、自ら仕掛ける。
内村は真のようにドリブルが得意なタイプではない。
一人も抜くことができずにボールを失うことになったが、彼はニヤリと笑った。
誰もが予想していないロストの仕方だったこともあり、簡単に失点した。
「おい、如月ぃ!」
内村は巧に詰めよった。
「はい?」
「はい? じゃねえだろ! てめえ、さっきから舐めてんのか⁉︎ ボーッとしてボール掻っ攫われたかと思えば、今度はまともにボールを受ける準備もできてねえじゃねーか。ボール受けんの怖がる奴なんて一軍にいらねーんだよ!」
決まった、と内村は思った。
(俺にここまで怒鳴られたら、ビビって声も出せねーだろうな。少しやりすぎちまったか?)
——それは、内村の妄想に過ぎなかった。
得意げに鼻を膨らませる彼に対し、巧は平坦な口調で問いかけた。
「僕はちゃんと準備していました。どのあたりが準備していないように見えたのですか?」
「は、はあ⁉︎」
思わぬ反撃をくらい、内村は動揺した。
「ひ、人に聞くことしかできねえのか⁉︎ 少しは自分で考えろ!」
「いえ、準備はできていたと思っていますから。僕はあのとき、体を開いて逆サイドの
「あぁ」
水田はうなずいた。彼は口数の少ない仕事人タイプだ。
「それに、もし僕が準備できていないように見えたとしても、内村先輩の前には敵が密集していました。あの場面では無理に仕掛けず、後ろの
「なっ、なっ……!」
内村はわなわなと唇を震わせた。
巧を罠に嵌めることに夢中で周りなどちゃんと見ていなかった彼には、反論する材料がなかった。
「その前のインターセプトについてもそうです。僕に広川先輩が詰めてきていて、その背後のスペースはポッカリと空いていました。狙われている僕ではなく、空いたスペースを活用すべきだったと思います」
「っ……い、言い訳か⁉︎ 後からなんとでも言えるだろう!」
内村はやっとの思いでそれだけを口にした。
「いえ、そのときも僕は言ってました」
「あぁ、たしかに如月は言ってたな」
林が援護射撃をした。
「内村、如月の言っていることは言い訳でもなんでもない。単なる事実だ。その二失点はどっちもお前の判断ミスだ。もっと周りを見ろ」
「なっ……!」
内村は言葉を失った。
己の作戦の成功を信じて疑っていなかった彼は、次善策など考えようともしていなかった。
期待したものとは真逆の現実に焦り、その後もミスを連発した。
動揺したのは広川も同じだった。
強引に巧を潰そうとしていなされ、チームメイトから叱られる羽目になっていた。
(……やれやれ)
巧は呆れると同時に落胆を覚えていた。
勝手に真との問題に首を突っ込んできたかと思えば逆恨みで罠に嵌めようとしてきて、それがうまくいかなくて自滅するとは。
仮にも一軍にいられるほどの実力を持っているというのに、もったいないことだ。
(……でも、
油断させたところで何かしてくるかもしれない。
巧は一層警戒を強めた。
——しかし、真が仕掛けようとしている相手は彼ではなかった。
「
「……なんですか?」
練習終わり、真は
露骨に警戒されても気にしなかった。
「足がだるい。マッサージしてくれ」
自分で触れないなら、マッサージと称して香奈から触れさせればいい——。
それが真の作戦だった。
今朝の香奈の拒絶は、所詮は巧の誘導尋問だと睨んでいた。
(多少は警戒してても、俺と触れ合える機会を喜ばない女なんているはずねえからな。多少強引に押せば——)
「すみませんが、できません」
「……あっ?」
予想外のセリフに、真は固まった。
「……てめえ、今なんて言った?」
「マッサージはお断りします」
香奈は再度、はっきりと自分の意思を伝えた。
真親衛隊に睨まれるのは怖い。
(でも、いつまでも逃げてちゃダメだ。巧先輩が私のことを考えていっぱい頑張ってくれたんだから、私もしっかり拒否しないと。これ以上甘えてばかりではいられないし、嫌な思いもさせたくないもん)
ここでしっかりと自分の意思を表明すること。
それが、彼女としての最低限の責任だと香奈は思ったのだ。
——真にとって、ここまではっきりと女子から拒絶をくらうのは初めての経験だった。
そもそも自分から絡みに行くことだって滅多になかった彼に、冷静でいることは不可能だった。我を忘れて怒鳴りつけた。
「てんめえっ……マネージャーのくせに舐めてんのか⁉︎」
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