先輩に退部を命じられて絶望していた僕を励ましてくれたのは、アイドル級美少女の後輩マネージャーだった 〜成り行きで家に上げたら、なぜかその後も入り浸るようになったんだけど〜
第90話 親友の幼馴染に絶対零度の視線を向けられた
第90話 親友の幼馴染に絶対零度の視線を向けられた
「あっ? な、なんだよっ?」
自分の中に生じた恐怖を打ち消すように、正樹が大声を出した。
「あなたは何がしたいのかと聞いているのだけれど。
「はっ? ち、ちげえし! ただ、さすがに朝練でへばるのはやべえだろって話だし、ちょっとしたジョークだろうがっ。ま、マジになんなよ、馬鹿じゃねえの?」
正樹がどもりつつも小馬鹿にするように鼻で笑った。
冬美が眉を吊り上げ、さらに詰め寄った。
「冗談だからといって一生懸命頑張った人を馬鹿にしていいのかしら? そもそも——」
「
彼女は眉をひそめた。
「何かしら。今、彼と話しているのだけれど」
「怒ってくれてありがとう。でも、僕は大丈夫だから。朝練だけでへばるのが情けないのは事実だしね。それを軽々とこなす誠治や正樹はすごいし、僕はもっと頑張る。これでいいんじゃないかな」
「……別にあなたのために怒ったわけじゃないわ」
冬美は不満げな表情を浮かべつつ、自席に戻っていった。
「みんなもごめんね。しばらくは誠治の上から見下ろして登校することになっちゃうかもだけど、許して」
「巧から見下ろされるってのは新鮮だなぁ」
「なんかちょっと鼻につくけど、許してやるか!」
「でもさ、如月君ってイメージより大きいよね」
「わかるー」
巧が場をとりなし、クラスメートが次々と乗っかったことで、その場は収まった。
巧は自席に向かった。隣では、冬美が不機嫌そうに頬杖をついている。
久東さん、とその横顔に声をかけた。
「何かしら?」
「ごめんね。せっかく庇ってくれたのに、あんな対応しちゃって。ああいうふうに言ってくれてすごく嬉しかったよ」
「勘違いしないで。さっきも言ったけど、あなたのためじゃないわ。私がただ許せなかっただけよ」
「……ツンデレ?」
「何を言っているのかしら?」
「ごめん」
冬美に絶対零度の視線を向けられ、巧は本気で謝った。
疲労の影響で自制心が鈍ってるようだ。軽はずみな発言をしないように気をつけようと反省した。
「……そんなに怒ってないわよ」
「えっ、何か言った?」
「何も。疲れすぎて幻聴が聞こえたのではないかしら?」
「かもしれない」
幻聴ではない確信はあったが、疲れていたのは事実だ。
巧は少しでも体力を回復させるため、机に突っ伏した。
だから、冬美が落ち込むようにため息を吐いたことには気づかなかった。
◇ ◇ ◇
巧は全ての授業で起きていなければならないと考える真面目なタイプではない。
それでも、英語の授業は寝ないように気を付けていた。ペアワークが多いからだ。
隣の席、今で言えば冬美に迷惑をかけてしまう。
しかし、運の悪いことに英語は一時間目だった。
朝練で体力を使い果たした巧に、大して楽しくもない授業の中で1秒ごとにゴングが鳴らされる睡魔との戦いに勝ち続けることはできなかった。
体をゆすられて、ぼんやりと目を開ける。
「如月君。ペアワークの時間よ」
「あぁ……ごめん」
「ここよ」
冬美がプリントを指差して教えてくれるが、全然頭回らない。
「はい、終了でーす」
先生がそう言ったとき、冬美がサッと自分と巧のプリントを交換した。
「ちょ、久東さんっ?」
「しっ」
あまりの早業に、巧以外に気付いた者はいなかった。
先生がニヤリと意地の悪い笑みを浮かべて、
「はい、じゃあ如月君。答えてください」
「ええと」
巧は冬美の几帳面な文字を読み上げた。
「……正解です」
先生は苦々しげな表情を浮かべた。
寝ていると思って指した生徒が完璧に答えてみせたのだ。さぞ悔しかっただろう。
(大前提として寝てた僕が悪いんだけど、なかなか性格悪いなぁ)
巧は苦笑いを浮かべた。
冬美の早業に驚いたおかげか、少しだけ目は覚めていた。
「ありがとね、久東さん」
先生が教室から出て行ったのを確認して、巧は冬美に礼を述べた。
プリントの一件だ。
「別に。あの性格の悪い男があなたを指してくるのはわかっていたわ。チラチラ見ていたし。それに、サッカー部がどうのってこっちにまで飛び火したら面倒だもの」
「それでも本当に助かったよ。でも、なら後ろで寝てる幼馴染は放っておいてよかったの?」
巧はチラッと背後に視線を投げた。
誠治がいびきをかいて机に突っ伏している。
彼は先程の授業でも寝ているところを指名され、案の定答えられずに怒られていた。
夏休み前から繰り返されていた日常の光景だ。
「あなたと違って、彼には起きていようという気がなかったもの。さすがに助けようとは思わないわ」
「まあ、確かに……ごめんね、
「い、いえ、大丈夫ですっ」
誠治の隣の席——つまりは冬美の後ろの席だ——の
香奈ですら足元にも及ばないほどの豊かな果実がぶるんぶん——というよりもはやばるんばるん——と揺れる。
予想がついていた巧は、意識して視線を小春の瞳に固定した。
「あ、あのっ、サッカー部の練習って人一倍キツいと思うので、疲れちゃうのも仕方のないことだと思います!」
小春が頬を染めつつ、誠治をフォローする。
少なくとも巧が見ているときは彼女はいつもこんな調子なので、誠治に特別な肩入れをしているというよりは、単純にアガリ症気味なのだろう。
「そうね。でもそいつは部活なくても寝てるわよ」
「た、確かに……」
小春が困ったような笑みを浮かべた。
誠治は
少しでも体力を回復しておこうと、巧も再び机に突っ伏した。
それからも巧と睡魔の死闘は続いたが、六時間目が終わるころにはだいぶ回復していた。
休み時間をしっかり休息に回していたこと、そして部活の時間が近づいてきてテンションが上がっていることも影響しているだろう。
しかし、六時間目とホームルームが終わっても、即部活というわけにはいかなかった。
二週間後に迫った体育祭の準備を始めなければならないからだ。
今日は種目決めで、三十分かからないくらいで終了した。
誠治や冬美と話しながら部活の準備していると、教室にざわめきが広がった。扉付近からだ。
何事かと思っていると、聞き慣れた声が飛び込んできた。
「先輩、冬美先輩、縢先輩も。部活行きましょう!」
教室にひょっこりと顔を覗かせて満面の笑みでブンブンと手を振ったのは、誰あろう
巧も誠治も冬美も、まさか教室に乗り込んでくるとは思っていなかったので、呆気に取られてしばし固まった。
大半の者が三人と同じように困惑するか、はたまた可愛らしい所作に悶絶している中、一人の男子生徒が白い歯を見せて香奈に近づいた。
正樹だった。
「香奈ちゃんだっけ? すごい、噂以上に可愛いね」
「ありがとうございます」
香奈は先程から二つほどトーンダウンした落ち着いた声色でお礼を言うと、一切足を止めずに巧の元へやってきた。
華麗にスルーされた正樹は、ポカンと口を開けて固まっていた。
ブフッと冬美が吹き出した。
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