幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら

第1話 真っ白になる世界

高校の卒業式が終わった、校舎裏。



「ごめんなさい――」



フラれた。


ずっと一緒だった幼馴染。


俺の人生でいつも、すぐ側にいた幼馴染の里佳。


春からは別々の大学に進学する。


なんとなく疎遠そえんになっていくだろうなって思うと、やっぱり今日、想いを伝えるべきなんじゃないかって思ったんだ。


里佳の目には、みるみる涙が……。


驚かせたよな。で見てたなんて、ショックだよな。俺と2人切りのときは、いつも無防備であけっぴろげだったもんな。


フラれるにしても、笑い飛ばしてくれるもんだと勝手に思い込んでたよ。


涙がいっぱいに溜まった大きな瞳に、俺をとがめる気配はなくて、フラれた俺を気遣きづかってくれてるのが分かる。


「勇吾……」


と、里佳は俺の名前を呼んだ切り、涙目のまま続く言葉が出てこない。


あー。穴があったら入りたい。なに、俺一人で盛り上がってたんだよ。誤魔化ごまかそうにも、俺が本気だったって里佳にはお見通しだよ。


でなきゃ、こんなに涙を浮かべて、またたきひとつせずに真っ直ぐ俺を方を見てこないよな。目を逸らすこともできやしない。


頭が真っ白になるっていうのは、こういうことか。


呼吸が浅くなって、視界も狭くなっていく。真上近くの太陽の光が乱反射してるみたいに、どんどん真っ白に狭まっていく。


それでも、里佳の強い視線から目を離せない。


なにか言わないといけないよな。でも、なんて言えばいいんだ? 里佳を傷つけたのは俺の方だぞ? それなのに、俺を気遣きづかわせてしまってる。


真っ白な光にどんどん視界が塞がれていく。


俺、こんなに弱かったんだな。って自嘲じちょうして見せる相手に、思い浮かべるのも里佳だ。もう、里佳の大きくて綺麗な瞳も見えない。目の前が完全に真っ白になって、なにも考えられない。


隣同士の家に生まれて、なにをするにも一緒だった。


今朝も一緒に登校した。


幼稚園から始まって小学校、中学校、高校……。今日が最後の登校だって、ふたりで笑い合った。


あの時、俺は卒業式の後で打ち明けようって決めてた。


「笑わないで聞いてほしいんだけど」


なんて、気取った言い方しなけりゃ良かった。


たまらず、俺は顔を両手でおおった。どんな顔してりゃいいんだよ。どんな顔見せればいいんだよ……。


――あれ?


なにもかも、真っ白な視界の中で、自分の手の平はハッキリ見えてる……。


手を顔から離すと、目の前の全部が真っ白に光ってる。なのに、自分の手の平、腕、脚、身体からだ……、自分は見えてる。


なにこれ?


人間ってショックだと自分しか見えなくなるの?


「……里佳?」


と、目の前に立ってるはずの里佳を呼んでみたけど、返事はない。足下の地面も見えない。というか、俺、浮いてる? 飛んでる? なに、この感じ?


……ひょっとして俺、気絶しそうなの?


うぅわ。


ますます、里佳にみっともないところ見られてしまう。


元々、隠し事のできるような距離にいなかったけど、離れ離れになる最後に、一番みっともないところを見せてしまうことになるとは。


ああ。もう、なんかどうでもいい。


と、全身の力が抜けてく頃、色が戻ってきた視界に最初に飛び込んできたのは、鮮やかな青色だった。


青色の長い髪。


――うわ。ヤンキー?


腰より長く伸びた青い髪をした女子が、髪と同じ鮮やかな青色の下着姿で寝そべってる。


脱ぎ散らかされた服と、巻き物みたいなものが散乱した部屋。


――部屋? えっ? ここどこ?


パニックになる俺の目に入る、青髪女子の豊かな胸の谷間。


思わず顔をそむける。俺の前でいつも無防備な里佳でも、下着姿を見せることはなかった。半裸の女子になんか免疫がない。


……部屋のなかは石造りの壁、板張りの天井。


はりは朱色に塗られて、金色の線で模様が描かれてる。赤色のフサフサした紐がぶら下がってて……。


いや。本当にここ、どこ? フラれたショックで記憶が飛んでる? 夢遊病みたいなヤツ? 白昼夢? これ、夢なのか? フラれたら、俺、こんなことになるの?


フッと、「ごめんなさい――」という里佳の声が耳によみがえる。


思わずギュッと目を閉じて、天を仰ぐ。フラれたんだなぁ、俺。フラれた。フラれたよ。


耳の中で何度もリフレインする、里佳の「ごめんなさい――」を消してしまいたくて、他の音を探すと部屋の外は、なにやら騒がしい。雨音も聞こえる。その狭間はざまで小さな寝息が聞こえる。青髪女子のものだろう。


でも、それより大きく里佳の「ごめんなさい――」が頭の中を占めて、消えてくれない。俺を見詰めて、目にいっぱいの涙を溜めてる里佳の姿が浮かぶ。


耐え切れずに目を開くと、下着姿の青髪女子が視界に飛び込んでくる。


ジロジロ見てたら、後で何を言われるか分からない。けど、何か見てないと里佳の姿の方が頭の中で大きくなってしまう。焦点を合さない感じで、ぼんやりと青髪女子を見詰める。


マンガ雑誌の表紙になってもおかしくないような、スタイルの良さ。いや、それ以上か。


焦点をぼやかす感じにしようとしてるけど、女子の下着姿を生で見るのなんて初めてだ。自分が赤面しているのが分かるのに、心はちっとも浮き立たない。


里佳と同じように大きな胸――、とか、思い浮かぶたびに、涙目の里佳の姿も一緒に浮かんでくる。


いや、顔も似てるな。うり二つと言っていい。今は誰を見ても里佳に見えちゃうのか? 薄暗い部屋で寝そべる青髪女子の顔を、もう一度確認しようとした。


――薄暗い?


部屋にはボンボリかアンドンみたいな明かりがいくつか置かれてる。ハッとして、窓を探すと石壁に小さな穴のような窓があって、外は真っ暗だ。その上に、どしゃ降りに雨が降ってる。


夜? ついさっきまで、卒業式終わりの晴天の正午前だったのに。


どれだけ記憶が飛んでるんだ?


俺の頭の中では、まだまだ里佳の姿と声がハッキリと連続再生されてたけど、さすがに状況が不可解すぎて、逆に落ち着いてきた。


と、その時――、


朱塗りの扉がバンッと大きな音を立てて開き、長い黒髪の女の人が部屋に飛び込んできた。


え? これ……。


下着姿の女子。脱ぎ散らかされた服。散乱した薄暗い部屋。俺、疑われてしまうヤツでは……?


身に覚えはないし、やましいこともないけど、なにも覚えてないし、なにも分からない。


こんなの里佳に知られたら、もっと泣かせてしまうんじゃ――。


勢いよく開いた扉を、急いで閉めた黒髪の女の人がこっちに振り向くと、その瞳が燃えるような紅色をしていた――。

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