第17話
緑深き山間に囲まれた小さな村、その中心にひっそりと佇む古びた茶屋があった。ここは旅人がたまに立ち寄る静かな場所であり、長年にわたり地元の人々に愛されてきた。その茶屋を営むのは、室井という老人だった。
室井は静かで優しい笑顔を持ち、誰もが彼の話術に聞き入るほどの魅力を感じる人物だった。彼のお茶は村中で評判であり、特にその茶屋の裏手に広がる庭園は訪れる者に癒しと平穏を与えてくれると言われていた。
しかし、村にはある秘密が存在した。それは室井が若い頃に織りなされた物語であり、村人たちの心の奥深くに刻まれていた。
数十年前、室井は若き日の情熱で村の平和を守るため、ある重大な決断を迫られた。そのときの出来事は彼の心に深い傷を残し、彼自身をも変えてしまった。しかし、その過去はほとんどの人々にとって忘れ去られたように見えた。
ある日、村に一人の旅人が訪れた。その旅人は不思議な力を持っているようで、室井の過去について興味を示した。
「室井さん、昔何があったんですか?」旅人は静かに尋ねた。
室井はしばらくの間、深いため息をついた後、ゆっくりと語り始めた。
「それは昔話です。村の秘密であり、私の過ちでもあります。」
旅人は興味津々の表情で聞き入っていた。そして室井は、かつての出来事を語り始めたのだった。
室井は静かに茶を淹れながら、昔の出来事を語り始めた。
「数十年前、この村は豊かな自然に囲まれ、人々は互いに助け合いながら暮らしていました。しかし、その平和はある日突然に崩れ去りました」
室井の声は静かで、記憶の奥底から呼び起こされるかのように慎重に話を進めていく。
「村を守るため、私たちはある取り決めを迫られました。それは、神聖なる山の奥深くに住む霊獣との契約を結ぶことでした。霊獣は我々の平和を守る代わりに、定期的に生贄を求めるというものでした」
旅人は驚きの表情で室井の話を聞いていた。
「そのとき、私は若気の至りで霊獣との契約を受け入れました。最初の生贄は私たちの若者たちの中から選ばれ、山へと差し出されました。しかし、その決断が後に村を混乱させる結果となりました」
室井の目には深い悲しみが宿っていた。
「若者たちを失ったことで村人たちの心に亀裂が生じ、やがては村全体が分断されてしまったのです。私はその責任を感じ、この茶屋を開いて平穏を取り戻そうと努めてきました」
静寂が茶屋に広がり、室井の言葉が空気を震わせた。
「しかし、その過去を忘れたわけではありません。今でも霊獣との契約はこの村を支配し、私の心に深く刻み込まれています」
室井の話が終わると、旅人はしばらく考え込んだ後で、重いため息をついた。
「室井さん、その契約は今も続いているんですか?」旅人が静かに尋ねた。
室井は深く頷きながら答えた。「はい、未だに続いています。それが私たちの宿命なのかもしれません」
茶屋の中には、過去と現在の複雑な空気が漂い、旅人は室井の言葉を胸に刻み込んでいた。
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