第4姓 短絡
「爺や、お屋敷まで。」
「畏まりました。」
車が止まった。
着いたらしい。
扉が開くとパタパタと奥に行ってしまった。
「俺どうしたらいいんだろ。」
「萌菜さま、こちらへ。」
「あ、はい。」
昨日と同じく広間に通されて座って待っているようにと。
少しすると、物音が。
目をやると……、
「じゃーん。」
「ぶっ、めーちゃん!」
自分が渡した体操着姿の冥菜が。
「ほんと、大きいですね。」
「ハーパン落ちてこねぇ?」
「はーぱん?」
「ハーフパンツ、ズボンの方。」
「紐を引っ張りましたけど。」
「合ったは合ったんだな……。」
ストン。
「あ。」
「ん?」
「め、めーちゃん!
ハーパン、ハーパン落ちてる!」
「え?」
視線を落とす冥菜。
「あ。」
「上げて!上げて!」
「シャツが大きいですね、膝近くまで裾があります。」
「問題そこじゃなくてな!?」
「何を慌てているんですか?」
「逆に聞いていい!?
何でそんなに冷静なの!?」
「見えてないから?」
「見えてたらどうすんの!?」
「それって私が?」
「俺のが見えたら割と変態的だよな!?」
「反応が新鮮で面白いです。」
「どういうこと!?」
ゆっくりと冥菜が落ちたハーフパンツを上げる。
「中学、女子校だったの?」
「えぇ。」
「女子同士でも見せなくない?」
「そうですね。」
「めーちゃん読めないねぇ。」
「そうですか?」
「え? 恥ずかしくない感じ?」
「何か恥ずかしいんですか?」
「下着見えちゃったら恥ずかしくない?」
「……?」
不思議そうな顔をする冥菜。
「マジかー……。」
「す、すみません。
女性しかいない環境で育ったので
何か足りない部分があるかもしれないとは思っていたのですが。」
「あ、いや、珍しいとは思ったんだけどなくはないぜ。
空想くらいでしか聞いたことなくてな。
ちょっと驚いただけ。」
「今の口ぶりですと
下着が見えたら嬉しいんですか?」
「い、いや、待って。
本当に掴めねぇ。
なんだ、見せてって言ったら見せてくれそうで怖いわ。」
「はい、どうぞ?」
「ぶはっ!」
本当に恥ずかしくないのか体操着をたくし上げる冥菜。
ここまで来たら本物なんだよなぁ。
「すみません、小さくて。
誇れるものでもないので粗末なものですが。」
「大きいからいいってものでもないんだけどな。
あ、いや、しまってくれ。」
「やっぱり見苦しいですよね……。」
「そうじゃねぇ、そうじゃねぇ。
何かやらされてるってことない?」
「何をですか?」
「俺が悪かった。
コーフンするからしまってくれ。」
「あ。本当に嬉しいんですね!?
やったぁ!」
嬉しいのかその場でぴょんぴょん跳ねる滅菜。
ストン。
だからもっと頑張れよハーパン。
「ひゃっ!」
跳ねていたせいで落ちたハーパンに気付かず踏んずけて滑り転ぶ滅菜。
大体想像つくだろう。
もう丸出しだ。
「あいたたた……。」
「あ、うん。
理性飛びそうだね。
でも良くねぇな。」
席を立ち、転んでいる冥菜に手を差し伸べる。
「すみません、おっちょこちょいで。」
手を引かれながら立ち上がる冥菜。
「可愛いと思うわ。
めーちゃん、結構モテるんじゃない?」
「はて、そうだったかしら……?」
「下着を人前に出すのはやめような?
下心で見たそうな雰囲気を出した俺もいるくらいだし。
もっと悪い人いたら乱暴されちゃうからさ。」
「あ、いっけない。
お母様に注意されてたんだった。
そっか、萌菜さんは私に乱暴したいんですか?」
「うへ。
一方的なのは好きじゃないかな。
お付き合いして正当な手順踏んでから、とか。
いや、何言ってるんだ俺。」
「あの、萌菜さん……?」
「わりぃ、調子乗った。」
「まぁ、萌菜さんだからというのはあるんですけど。」
「どういう意味!?」
「ふふ。
体操着ありがとうございますね。
着替えてきます。」
「あ、おぅ。」
ハーパンを拾って部屋を出て行った。
思春期の男子には刺激が強いねぇ。
でも、素なんだろうなぁ。
あぁいう子って貴重。
少しして帰ってきた冥菜。
「ただいま戻りました。」
「おかえりー。」
並ぶように椅子に座る冥菜が難しそうな顔をしている。
「めーちゃん?」
「萌菜さんだからお聞きするんですが。」
「おう。」
「私、羞恥心がないんですか?」
「恥ずかしくないなら、少ない方じゃないかな。
でも中学んとき女子には見せなかったなら羞恥心はあるんじゃないか?」
「特に理由があったわけじゃないので見せなかっただけで
恥ずかしいわけではなかったんです。」
「え? フリじゃないことを前提に聞いてほしんだけど。」
「ふり?」
「やってって意味じゃなくて、ね?」
「はい。」
「下着で外歩くのって抵抗ある?」
「寒そうですね。」
「あ、そっちなんだ。
恥ずかしいとかは?」
「うーん。
恥ずかしいというよりは
誰もしてないのでおかしいかな、くらいで。」
「いや、羞恥心なくないか。
教室でいきなり脱いだりしないでね。」
「それは抵抗がありますね。」
「そうなんだ。」
「……おかしい、とは言わないんですね。」
「え? どうして?
めーちゃんの話だよ。
俺の主観いらなくない?」
「あー、もう。
優しいなぁ。」
指いじりをする冥菜。
本当に可愛くないか、この子。
「萌菜さんこそモテてませんでしたか?」
「全然?
俺女の子でこんなに話したのってめーちゃんが初めてだよ。」
「女の子兄弟もいらっしゃらないとおっしゃってましたね。」
「兄貴がいるかな。」
「兄弟がいらっしゃるんですね。
いいなぁ。」
「めーちゃん一人っ子?」
「厳密にはいるそうなんですが、会ったことはないですね。」
「難しい関係なんだなー。
お嬢さんだしまぁ色々あるんだろう。
そっちのほうで手伝えることはなさそうだなぁ。」
「こうして。」
「うん?」
「こうしてお話ししてくださると助かります。
凄く満たされる感覚があるので。
私、人との距離感がおかしいらしくて
割と人が離れるんです。
萌菜さんが変わってるだけだったりして、ふふ。」
「まぁ俺も変わってるとはよく言われる。」
「ふふ。
……どうしようかな、うーん。」
「どうしたー?
何かできるかー?」
「なんか気持ちがほこほこします。
わがまま言っちゃってもいいですか?」
「何でもー。」
「ゆ、勇気を出します。」
「おう。」
「頭を、撫でてほしいんです。」
「それは俺でいいのか?
両親とか恋人に頼んだらどうだろう。」
「も、萌菜さんだからお願いしてるんです。」
「ふむ。
髪が乱れるとかは気にしないの?」
「気にしないから撫でてくださいよー。」
背中を丸めたり伸ばしたりして頭を出してくる。
小動物みたいだな、この子……。
くしゃりと頭を撫でる。
「ふああああ……。」
「ど、どうした。」
「中学時代にこれがいいって聞いてたのですが、
想像以上でした。」
「もうよろし?」
「も、もうちょっと……。」
数分で終わらないんだよなぁ……。
「はっ!辺りが暗い!」
「めーちゃん甘えん坊なんだな。
可愛いぜ。」
「甘えたことないんだもん……。」
「やめなよ、勘違いするだろ。」
「あら、私ってそんなに魅力あります?」
「あるって……。
あれ? こんなことしといて言うのもなんだけど
恋人とか許嫁とかいないの?」
「いませんね。
性格が破綻していると言われていますので
御父上には見限られてしまいましたから。」
「なんだよそれ。
結婚の道具とでも思ってるのか。」
「そもそも後継ぎとして男に生まれませんでしたからね。」
「酷くないか。」
「お嬢様なんてそんなものです。」
「なんだかなー……。」
「ただ、何を考えているのかお母様は
あなたの好きにしたらいいとは言ってくださるんですけどね。」
「そっかぁ。」
「……私が勘違いしちゃいそう。」
「なんか言ったか?」
「いえ、お送りします。」
「冥菜、お待ちなさい。」
「お母様。」
「おや?」
「ふふ、いい話を持ってきたわ。」
「何でしょう?」
「あのクソバカ亭主、
財産巻き上げて捨ててやったわ。」
「え?」
「不倫してたのは知ってたから。
一人二人ってレベルじゃなかったし。
慰謝料と財産取って制裁が終わったのよ。
だからあなたはあいつに苦しむ必要はないわ。」
「萌菜さん、ふりん?って何ですか?」
「旦那奥さんがいるのに他の異性に手を出すことだな。」
「あ、普通じゃなかったんですね……。」
「冥菜も知ってたのね。
まぁ、あけっぴろげだったからね。
ということで萌菜さん。」
「はい。」
「あなた、こっちに引っ越してもらえない?」
「はい?」
「冥菜の教育係になって欲しいの。
もちろん対価は支払うわ。
これは内々の話だからアルバイトにもならない。
お小遣いまで規制する校則じゃないからね。」
「お母様困ります!」
「あらどうして?」
「だ、だって萌菜さんは……。」
何か言いたげに指いじりを始める滅菜。
「ふむ、萌菜さんには恋人どころか女性の影すらないわ。
なのにあなたがそういう行動に出るということは、
まぁ私には有難いことなのよ。
あなただって四六時中萌菜さんがいてくれたら嬉しいんじゃない?」
「萌菜さんにご迷惑ですよ。」
「そんなはずないのよ。
ね、萌菜さん?」
「全部知られてるのかぁ。
俺家では居場所ないんだよな。」
「どうして?」
「兄貴には両親に期待されてんだけど
俺、出来が悪いから邪魔者扱いされてるんだよな。」
「お母様!
今すぐにでも引っ越しを!」
「もうしてるわよ。」
「へ?」
「今日からだけど随分前にね。
長男に負けないで。
絶対私たちがあなたをいい男にしてあげる。
女の子を愛でる才能はあるんだからね。」
「そんなもんっすかね……?」
「一つだけ条件があるわ、萌菜さん。」
「何でしょう。」
「これが出来なかったら今すぐにでも引っ越しは中止する。」
「お母様!?」
「だーめ。
これは萌菜さんにとっての試練。
さぁ、受ける気はある?」
「内容によりますが。」
「私をお義母さんと呼べる?」
「はい、お義母さん。」
「ふふ。
可愛い、素直ね。」
「飾っても仕方ないじゃないすか。」
ザザッと何かノイズ音が聞こえる。
「深雪様!」
「なぁに?」
「引っ越し完了しました。
荷ほどきは萌菜様に。」
「結構、こっちも終わったわ。」
「承知。」
「え? 本当に引っ越しするんですか?」
「冥菜、萌菜さんと同じ部屋がいい?」
「流石に萌菜さんが困ってしまうのでは……?」
「あーなーたーは、どうしたいの?」
「一緒がいいです。」
「ぶ。」
「だそうだけど、萌菜さんは?」
「隣の部屋とかになりませんかね。
流石に年頃の男女同じ部屋は……。」
「ふーん、真面目ねぇ。
私としては間違いが起きてほしいんだけど。」
「お義母さん!?」
「冥菜、流石に男の子だし一緒は可哀そうかもね。」
「どうして可哀そうなんですか?」
「それはおいおい萌菜さんに聞きなさいな。」
「はぁ。」
案内された部屋に行くと本当に俺の荷物あるじゃん。
両親にはなんて……。
まぁ追い出せるって聞いたら喜ぶだろうな。
そんなこんなで冗談みたいな状況で
これは先に開けておいた方がいいのはちゃんと纏めててくれてて
特には困らなかった。
今日は緊張しすぎてそのまま寝てしまった。
俺、蘭家次男、萌菜16歳 大餅 おしるこ @Shun-Kisaragi
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