第三幕 答え合わせ
第24話 推理
「聞いてくれ。たった今、一連の殺人事件の犯人がわかった」
オレがそう言うと、ユウキとヌスットは困惑したように顔を見合わせた。
「……おいケン、それってマジで言ってんのか?」
ヌスットが顔を
「こんなときに冗談を言う趣味はない。兎に角、今はオレの推理を聞いて欲しい」
「それはマジカ捜索を中断してでも聞くべき情報か?」
今度はユウキがメガネを押さえながら、冷静に尋ねてくる。
「ああ。殺人犯の特定は何をおいても優先すべき最重要事項だろう。違うか?」
「……わかった。ただし、少しでもお前の推理に
「いいだろう。望むところだ」
オレは推理を語る前に一度、大きく深呼吸をした。
「最初に不思議だったのは、犯人は何故死体のある部屋の中を密室にしていくのかということだった。自殺や事故死に見せかけるわけでもないのに、犯人は何故か
まず考えられるのは、誰が犯人なのかをミスリードする為だ。部屋が密室であることで疑われるのは、必然的に氷を操れるマジカになる。マジカに疑いを向けさせることで、犯人はある程度自由に行動することができるようになる。次に考えられるのは時間を稼ぐ為だ。犯人の目的は、オレたちパーティーの全滅だ。一人ずつ殺して全滅を目指すには、すぐに誰が犯人なのかがバレてはいけない。
――では、犯人は実際にどうやって密室を作ったのか?
オレたちパーティーメンバーにはそれぞれにできることが違う。たとえばユウキは触れた仲間の攻撃力を引き上げる『強化』の魔法が使えるし、マジカは『氷』と『炎』を操る魔法が使える。ナマグサは『蘇生』と『回復』の魔法が使えて、ヌスットはどんな鍵でも開けることができる『開錠』の魔法が使える。チュウチュウは無生物限定で、触れたものを解析する『鑑定』の魔法が使える。ノーキンはオーク以上の怪力を、オレにはユウキの魔法ありきではあるが鉄をも切り裂く剣術の腕がある」
「……さっきからわかりきったことをつらつら喋ってんじゃねーぞ。結局、マジカの魔法以外に密室を作ることなんて不可能じゃねーか」
ヌスットが苛ついた様子で野次を飛ばす。
「その通りだ。『強化』の魔法で仲間の攻撃力を上げても密室を作ることはできないし、『回復』や『蘇生』、『開錠』や『鑑定』の魔法にしてもそれは同じことだ。ましてや単に力が強かったり剣で鉄を切れても、密室殺人に役立ちそうもない」
「話が堂々巡りになってるぞ」
「ならば、前提が間違っていると考える他ない。犯人はオレたちに嘘をついている。つまり、犯人は自己申告した魔法とは何か別の効果の魔法を使って密室を作り上げたのだと」
「……嘘をついている? そんなわけはねーだろよ。アタシもユウキも、アンタの目の前で一度は魔法を使っている筈だ。実はアンタが『風』の魔法が使えて、部屋の中に竜巻を発生させて錠をスライドさせたというのなら話は別だがな」
「ヌスット、お前が『開錠』の魔法でノーキンの部屋のドアの鍵を開けたとき、不自然な出来事があったのを覚えているか?」
ヌスットは思い当たる節がないようでキョトンとしている。
「……何とのことだ? 不自然なことなんて何もなかっただろがよ」
「ならば質問を変えよう。ドアが開かずお前が『開錠』の魔法を使おうとしたとき、ユウキが魔法を使うのを止めて質問をしたときのことを覚えているか?」
あのとき、ユウキはヌスットにこう質問した。
(部屋に入る前に一つ確認なんだが、ノーキンがボクたちの中の誰かに殺された可能性はどれくらいあるんだ?)
そんな質問に何の意味があるのか、オレは少々訝しんだ。そして、その後の展開からマジカにノーキンを殺すことが不可能であることを説明する材料を集める為だったということで納得した。
――しかし、ユウキの質問に本当は意味などなかったしたらどうだ?
「不自然なことはつい先刻もあった。やはりヌスットがチュウチュウの部屋の扉に『開錠』の魔法をかけようとした直前のタイミングで、ユウキが一度ヌスットの魔法をを止めている」
そのときは『開錠』を使う前に、本当にドアが開かないのか確認することを要求していた。ノーキンの部屋のときはドアが開かないことを確認したのはヌスットだけだったので、この要求はすんなり通った。
「……どっちもそこまで気にする程不自然だったとは思えねーが?」
「まァ、ユウキの言い分だけに注目するなら、そこまで変なことは言っていないように見える。だが、このときのユウキの行動をよくよく考えてみると、共通するあることを行っていることに気が付いた」
「……共通するあること?」
「ヌスットが『開錠』の魔法を使う直前に、必ずユウキはヌスットの体に触れている」
ノーキンの部屋の前では肩に手を置き、チュウチュウの部屋の前では手首を掴んでヌスットが魔法を使うのを止めていた。
「それでオレは、ユウキはヌスットが『開錠』の魔法を使う前に、どうしてもヌスットの体に触れる必要があったのではないかと考えた」
「……ユウキが触れる必要があることといえば」
「そう。ユウキはヌスットに気付かれないように、こっそり魔法をかけていたんだよ」
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