善い行い
道端をうろついている若い男性のもとに、同じ年頃の女性が近づいていった。
「ユウジ。何やってんの?」
「ああ、アケミ。ちょっとゴミを拾ってたんだ」
「え? 何かの罰?」
「ちげえよ。よく見ろ、地面。けっこういろいろ落ちてるんだよな。気になっちゃってさ」
「……」
「どうしたんだよ、驚いた顔して」
「だって、あんたがそんな立派な行いをするとは」
「ひでえな、そこまでびっくりするなんて。俺だってそれくらいやるぜ」
「だって、ユリコ、口を開けばあんたのだらしない振る舞いを嘆くんだよ。私、だったら別れちゃえばいいじゃんって言っちゃった」
「おい」
「ごめん」
「しょうがねえな。そうだ、このゴミ拾いのこと、ユリコには言うなよ」
「え? なんで?」
「気恥しいからさ。こういうことって人知れずやるもんだろ」
「ちょっと、ほんとどうしたの? あ、でも、噂をすれば、ユリコー!」
「え」
ユリコと呼ばれた若い女性が二人のところにやってきた。
「なに?」
「ねえ、聞いてよ。ユウジ、足もとを見ながら歩いてると思ったら、ゴミ拾いをしてるんだって。見直しちゃった」
「おい、言うなって」
「いいじゃん」
「……ユウジ、嘘でしょ?」
「どうしたの? ユリコ。そんな真顔になって」
「昨日ね、『今年、現金の落とし物の金額が過去最高になった』っていうニュースの話を私がユウジにしたんだ」
「え? まさか……」
「ち、ちげえよ。俺は本当に落ちてるもんなのか確かめたかっただけだよ」
「あんた、嘘つくなら、ゴミを拾ってるんだっていうのを貫き通しなさいよ。バカ!」
「あ、やべえ。タカシと会う約束があったんだ。じゃあな」
男は走ってその場から去っていった。
「アケミ、ごめん。みっともないとこ見せちゃって」
「いいよ。私こそ呼んだりしなければよかったね」
「あ」
「どうしたの?」
「百円見っけ」
「あらま」
「あいつ、どうせ探すんなら、しっかり見つけろってんだよ! キーッ!」
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