友情

 若い女性二人がカフェで話している。

「ねえ」

「ん?」

「カビの生えたパンを食べたらどうなるかな?」

「え? カビの生えたパンを食べたの?」

「食べてないよ。例えばの話」

「……死ぬんじゃない?」

「え! ほんとに?」

「ほら。食べたんじゃん」

「食べてないって」

「わかるよ。ちょっとだし、食べ物を捨てるのは善くないと思ったんでしょ? 偉いね」

「だから、食べてないって」

「チッ。引っかからなかったか」

「なんか言った?」

「ううん」

「ネットで調べようかな」

「でもネットの情報は間違ってる場合があるから、病院へ行って訊いたほうがいいよ」

「え? 食べてないのに?」

「くそ。また引っかからなかった」

「なーに?」

「何でもない。ねえ、私たち友達だよね? 本当のこと言ってよ。食べたんでしょ?」

「だから、何度も言うけど、食べてないって」

 十年後、病院で——。

「知美、顔色悪いんじゃない?」

「もうすぐで、緊張しちゃって」

「大丈夫だよ、生死がかかった手術じゃないんだから」

「わかってるけど、私、手術初めてでさ。入院だって初体験なんだもん」

「そう……実はね知美、私、十年前、カビの生えたパン、食べたんだ」

「え? なんでこんなタイミングで?」

「知美が元気になればと思って。私たち友達じゃん」

「千佳、ありがとう……って、それで元気になるかい!」

「カビたパン食べても、私、ピンピンしてるんだから、知美も大丈夫だって」

「そうだね千佳、私、勇気づけられたよ……って、ならないっつーの」

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