幼馴染に記憶喪失のふりをしたら「私たちは恋人同士だ」と嘘を吐いてきたのだが、お前にヒロイン面する資格あると思ってる?

ヨルノソラ/朝陽千早

彼のプロローグ

 藤宮結葉ふじみやゆいは

 彼女には、数多ある褒め言葉が彼女には当てはまる。


 容姿端麗、才色兼備、羞花閉月……。


 街に出れば高確率でナンパに遭い、スカウトの目に止まるのも珍しくはない。

 勉強も運動もできる。書道も、ピアノも、ダンスだってできる。彼女にできないことはない。そう思わせるくらいには、彼女はなんだってできる。


 神に愛されて生まれたと言っても過言ではないだろう。


 しかしその代償なのか、彼女は大きな不幸を背負っている。


 それは、『俺』という幼馴染の存在だ。


 俺のせいで、彼女の人生には大きな弊害が生じ、満足に自分の人生を歩めないでいる。


「はぁ。どうしてあたしの幼馴染が和孝かずたかなの……。もっとイケメンじゃなきゃ釣り合わないでしょ」

「ごめん。俺なんかで」

「ホントよね。ま、アンタは私を幼馴染にできたんだから、人生の運を全部使ってるようなものよね」

「そ、そうだね……」


 美少女の結葉の幼馴染が俺があること。それがまず、不幸以外の何者でもない。


「和孝は常にマスクをつけて、この眼鏡をかけて生活しなさい。これで少しはその汚い容姿もマシになるわ」

「でも、俺、眼鏡かけるほど目悪くないけど」

「これ伊達眼鏡だから。和孝の汚い容姿を隠すためなの。わかった?」

「……わかった。毎日つけるよ」


 汚い容姿を持った俺は顔を隠して生きていかないといけない。


「いい? 和孝は、女子と話しちゃダメよ。和孝の声は女子を不快な気持ちにさせるんだからね。まあ、そもそも話しかけてくれる人がいないだろうけど」

「……うん」

「その代わり、仕方なく幼馴染のあたしが和孝の話し相手になってあげる。ホント感謝しなさいよね?」

「あ、ありがとう結葉」


 不快な声を持つ俺は異性に話しかけてはいけない。


「和孝みたいな陰キャラが、クラスで目立つのは御法度よ。だから、常に勉強も運動も最下位になるくらいの気持ちで取り組んで。……大丈夫、高校なんてどこ行ったって変わんないわ。だから最低限の成績を取ればいいの」

「でも、それはさすがに……」

「今まであたしが間違ったことを言ったことある? ないわよね?」

「う、うん、結葉はいつも正しいよ。わかった。結葉の言う通りにする……」


 陰キャラな俺は目立ってはいけない。


「仕方ないから、休日はあたしが一緒にいてあげる。はぁ、あたしの貴重な時間を浪費させてるってこと、自覚しなさいよね」

「俺は別に休日に一人でも問題ないから、一緒にいなくても大丈──」

「あたしが一緒にいてあげるって言ってんの。和孝のくせに余計なこと言わないで」

「ご、ごめん」


 俺に友達がいないから、結葉の時間を奪っている。


「見て和孝。これがあたし宛に届いたラブレターの全部よ。でも、なんであたしが誰とも付き合わないかわかる?」

「結葉と釣り合う人がいなかったから?」

「違う。和孝のせいよ。アンタがいる限り、あたしは自由に恋愛もできないの。だってあたしがいないと、和孝は何もできないでしょう?」

「そ、そうだね。ごめん、結葉の邪魔ばっかして……」


 俺のせいで、結葉は恋愛ができない。


「和孝、あんたって一生カノジョできなそうよね。さっさと、カノジョの一人くらい作って、あたしを安心させて欲しいものね」

「結葉は、俺にカノジョができたら安心するの?」

「え、ええ。安心するわ。ま、和孝には無理だろうけど! うん、絶対無理! 無理なんだから余計なこと考えるんじゃないわよ。あんたに告白なんてされたら、一生モノのトラウマなんだから!」

「そう、なんだ……」


 俺は一体、どうして生まれてきたのだろう。

 結葉にとって、俺はただのお荷物でいらない存在。


 俺が幼馴染になったばっかりに、彼女の人生には障害が生まれている。


 俺のせいで結葉には恋人ができず、貴重な時間がたくさん浪費される。

 俺は結葉に迷惑しかかけていない……。最近、思うんだ。どうして、俺は生まれてきちゃったんだろうって……。


 もう俺は結葉にも、他の人にも迷惑をかけたくない。



 だから──。




「ね。ねえ。なにしてんの⁉︎ 落ち着いて! 戻ってきなさいよ、ねえ⁉︎」




 背後から叫ぶような声で訴えてくる結葉。

 でも、俺はもう腹を決めたんだ。



「生まれてきてごめんね」



 一言。

 最後にそう残すと、俺は学校の屋上から飛び降りた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る