第32話「16の年、1の月」
蒼依と結ばれればどれほど良いかと憧れるも、気持ちは奥に引っ込める。
悪酔いする滋彦に臆せず、堂々とした様子で滋彦を見据えていた。
「滋彦殿、俺が葉奈を引き止めたんだ。責めるなら俺も一緒にしてもらいたい」
一歩も引かない蒼依に、滋彦はヘラヘラしながらしゃっくりをする。
舐めとるようなねちっこい目をして蒼依を一瞥すると、ゴマすりの顔に変貌させた。
「そんな、望月の坊ちゃんを責めるなんて出来やせんよ。うちの葉名が世話になったようで」
「葉名とは年も同じ。ただ仲良くしているだけです」
「それはありがたいことで。……さぁ、帰るぞ。葉名」
滋彦の内側は怒りで泥まみれだ。
ゴォゴォと激しく燃える業火に、葉名は逆らうことが出来ない。
結局、自己嫌悪の強い葉名は諦めて、にっこりと笑顔を貼りつけて蒼依に振り返った。
「またね、蒼依くん」
「葉名っ――!」
滋彦を追い、おぼつかない足取りで丘をくだる。
後ろ髪を引かれる気持ちに少し振り向いてみれば、蒼依の切ない眼差しと絡み合う。
じゅっと焦げた胸に手をあてて、葉名は首を横に振って目を閉じた。
***
年月が経ち、葉名と蒼依が十五の歳になった時のこと。
銀世界に根をはる番の木が月明かりを浴びて枝を伸ばしていく。
伸びた枝は翌日にはそれぞれが絡み合っていた。
里の者たちが枝の行方を見に集まり、どのような結びつきをしたかと歓声があがる。
「やっぱり! あなたと枝が結びついてるわ!」
「一年前から君の枝に伸びていたけど、ようやく実って嬉しいよ」
里に住む番に結びついた男女が抱きしめあい、その幸せそうな姿を眺めてから自分の枝を見る。
誰とも結び付かない枝をみて、安堵の息を吐いていた。
枝が番と結びつくのは十六の数がすべて満ちる一の月。
十六になった時点で番となる者が年下だった場合は、その者の枝の根に絡みつく。
十六にならずとも相手がわかるパターンとなるが、葉名の枝はまだ誰とも絡み合っていない。
(つまり私が誰かと結ばれるとするならば、同じ年齢か年下か)
蒼依の枝は変化しているだろうか、と自然と近くの枝に視線が移っていく。
「今年も俺の枝は結びつかず、と」
「蒼依くん……!」
隣に立つ蒼依に顔をあげると、ほんのり頬を赤らめた蒼依が葉名をやさしく見つめる。
蒼依の枝を見ると、誰の枝とも絡んでいない。
蒼依と葉名は同じ年齢のため、次の十六の数が巡ってきたときに結びつく可能性がある。
ありえないこと。
だが目の前で可能性が葉名の胸を期待に躍らせた。
「俺の番は葉名だったりして……」
蒼依の軽口に、期待を見透かされた気がして目を反らす。
元々少し赤みを帯びていた蒼依もまた、耳まで面積を広げて照れ隠しをした。
「な、なーんて……」
着物の袖で顔を隠す姿にふと現実が落ちてくる。
葉名は外からやってきた出来損ない。
忍びの里でも末端に位置する身分であり、蒼依と口も聞けぬはずだった。
蒼依がやさしくしてくれるからと調子に乗っていたかもしれない。
「……蒼依くんにはふさわしい相手が結ばれますよ。なんといってもこの里の長のご子息なのですから」
期待しても無駄だ。
だったら自分が傷つかない予防線をはり、皮肉に笑っていた方が楽だ。
「葉名、俺は!!」
葉名の言葉に蒼依はカッなり、葉名の腕をつかむ。
涙をこらえる顔を見られたくないと固く目を閉じれば、それ以上、蒼依は何も言わなかった。
手を離されて、葉名はどんどん重く暗くなっていく胸に手をあてる。
(私って本当に暗い。なんでもマイナスに考えてしまう)
忍びの里の次期長と結ばれるはずもないと、悲観的に考えてしまう葉名の悪い癖だった。
「蒼依様、こちらにおられたのですね」
「穂高(ほだか)……!」
陽の光に照らされると稲穂のように輝く髪。
それを後ろでまとめ髪にした勝気な女性がにっこりと蒼依に微笑みかけた。
穂高は里の副長の娘であり、同じ歳でこの里の女神だと人気を集めていた。
くノ一としても優秀で、お勤めとして里を出ることもある。
今もお勤めから戻ってきたのだろう、忍びの装束をまとう穂高が蒼依の袖をつかんだ。
「わたくしも今年は枝が伸びず。来年まで答えは待つこととなりました」
「そうか、良い縁があるといいな」
蒼依の返答に、穂高はふっと余裕めいた笑みを口に浮かべる。
「順当ならば蒼依様と夫婦になることでしょう。互いの血統を守るために、枝が正しく伸びることが楽しみです」
その言葉に葉名の胸がズキズキと痛みだす。
「蒼依と結ばれるのは私だ」と強気に言えるだけの自信はない。
顔を上げることが出来ず、腕を抱き寄せると鈍い痛みがあり、着物の袖を握った。
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