どなたか此処を
これは私の夢によく出てくる風景、場所を記したものである。みなさまの近くに、こういった場所がおありでは無いだろうか。
それはきっと、アパートだかマンションだかの、道路に面した塀であると思われる。
私はいつも歩道側に立ち(何故歩道かというと、時折車の通る音がして、半歩前に出て避けることが多々あるからだ。しかし車が通ったのを見たことは一度もない)、その壁を見つめているところから、夢が始まることが多い。
その壁には、窓もドアもない。これが住居だとすれば、きっと側面と言えるだろう。壁と地面の接する部分には小さな花を植えるスペースがあり、薄緑色の——ちょうど緑のカゲロウの羽のような色をした紫陽花が、その花をこちらに向けるように咲いている。日が当たる向きなのか、薄白い紫陽花は全てつむじを見せるかのように傾いて咲いている。
周りには高い建物が多いのか、ここで陽の光を感じたことはない。いつもじめっとして、夏に見る夢でも冬に見るものでも、土と草木の生い茂る青い香りが湧き立つようだ。
いつも私は、この紫陽花に目を奪われる。
どんな夢の途中でも、この紫陽花の咲く建物に着くと、身を隠したり、何か身体逃げたりするのを忘れて紫陽花をよく見ようと近づいてしまう。紫陽花は可憐な花をいくつも咲かせて、生き生きとして見える。
しかし、近づくと、下の方に咲いた紫陽花の花がいくつか地面に擦れ、ベタリと茶色く溶けているのが見えてしまう。元気に咲いた花との対比に驚いて、粘つく花を急いで持ち上げた時に、ふと気がつく。
この花々は元気に咲き誇っているわけではない。全ての紫陽花が、斬首台に乗せられた頭のように、重さでぐったりと茎を倒し、地面にぶつかるのを待っているだけなのだと。
……ここで毎回、私は夢の中で殺されるか、見つかるか、はたまた夢だと気づいて起きるか、どれかに身を委ねることとなる。
もし、この紫陽花の咲く場所を教えてもらえるのなら知りたいが、辿り着いた暁には夢の中のように命を吸われてしまいそうだ。ああ怖い。
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