打開策
なぜこんなところに、伝説上のドラゴンが現れたのか。
その疑問にはすぐ答えが出た。
イースタン陣営のどこからか、ラッパの音が響いたかと思うと、ワイバーンがサウスティ兵に向かっていったのだ。
それも一頭や二頭じゃない。
数十頭の群れとなって、巨大な獣が軍勢に突っ込み、騎士たちをなぎ倒していく。
「なんなの……なんなのあれ!」
私はディーの袖を引っ張って叫ぶことしかできなかった。
ファンタジー世界といっても、ゲームごとにリアリティラインは違う。女神だとか奇跡の力とか、言ってても、この世界には物理法則を無視して空を飛ぶ巨大怪獣までは存在しなかったはずだ。
コレットの生きた十七年の記憶の中でも、それらはすべておとぎ話の住人だ。
「……奥の手」
ディーはつ、と指を眉間にあてた。
「イースタンの作戦をさんざん妨害したはずなのに、女神の力が思うように増えない、と言っていたでしょう? 彼らの奥の手はこれだったんです。資材がなくても、兵が少なくても関係ない。伝説の生き物を使役できるのだから」
私は戦場を見下ろした。
サウスティ陣営は大混乱だ。
だって、どんな歴戦の騎士でも『ワイバーンと戦う方法』なんて知らないんだから。
私は胸元から虹瑪瑙のペンダントを引っ張り出す。
石は金色に輝いていた。
ここまで温存してきたから、それなりに力は残っているはず。
「ディー、奇跡の力でワイバーンを倒して」
「相手は邪神が直接召喚した怪物です。不可能とは言いませんが、よくて一頭がいいところでしょう」
数十頭のうちの一頭。
文字通りの焼石に水だ。
「一頭倒すたびに力を消費してたんじゃ、効率が悪いわね。だったら、兵器を作るのはどう?」
「兵器、ですか?」
「そう! 繰り返しワイバーンを殺せる道具を作るの。弓とか、大砲とか……」
「射出する武器は、攻撃のたびに矢や砲弾を生成するコストを必要とします」
「えーと、じゃあそのまま殴るとか切るとか……でも、ただ剣を作っただけじゃダメだよね。ワイバーンは大きいし、飛ぶし」
「あのサイズ感が問題ですよねえ」
ううん、と女神も戦場を見ながら腕を組む。
「同じサイズで攻撃できたら楽なんだけど」
「巨大化はお勧めしませんよ?」
「だったら巨大な何かを使うとか……そうだ!」
私は丘の頂上を振り返った。
そこには岩を削って作られた創造神の像がある。
「ディー、アレって改造できない?」
「は?」
「創造神を祀った像ってことは、同じ派閥の女神の力を受けやすいのよね? 石像に力を付与して、ワイバーンと戦わせられないかな?」
「あれを、ですか……?」
ディーはアイスブルーの瞳で巨大な石像を見つめた。
そのままのポーズでぶつぶつと何かをつぶやき始める。
「AIを搭載して自律行動させる? いや、コストが足りない。遠隔操作も距離に比例して消費量が増加する……中に乗り込んで操縦……しかし、私ひとりでは係数が……」
「ディー?」
「ぎりぎり、いけなくは、ありませんが」
「問題は何?」
「遠隔操作ができません。私とコレット様が直接乗り込む必要があります」
「いいわ、連れていって」
「コレット!」
即決した私を見て、オスカーが声をあげた。
「ここにいたって、お兄様も私も死ぬだけだわ。それに、ディーは勝算のない提案はしない」
「理解が早くて助かります。こちらへ」
ディーが私の手を引く。
石像の足元まで来ると、その手を石像にあてさせた。
「これから石像を作り替えます。コレット様は、触れたまま完成イメージを心の中で思い描いてください」
「え、改造するのに私のイメージいるの?」
「聖女の祈りは強力な触媒なのです。何でもいい、強くて頼もしい存在を強く願ってください。イメージを頼りに私が微調整を加えて完成させます」
「ええー……いきなりそんなファンタジックなことできるかな」
箱入りお姫様のコレットにそんな知識ないんだけど。
「でしたら、紫苑の知識は? アニメでもゲームでも、強い存在はいくつも見てきたでしょう」
「ええと……いや、うん。やってみる」
大丈夫かな。
紫苑の知識もだいぶ偏ってるんだけど。
でも、これ以上迷ってる暇はない。
私は石像に手をあてて、目を閉じる。
強い存在……強い存在……ワイバーンを倒せる存在。
それも、ただ強いだけじゃダメだ。丈夫で、何度でも使えて、低コスト。
私とディーが乗り込んで操縦しやすくて。
あれ? これってロボットもののアニメとかに出てきそうだな?
「できましたよ」
ディーの声に、はっと目をあけた。
何をどうやったのか、ごつごつした石像がすっかり姿を変えている。
そこにあったのは、白銀に輝く鎧型の巨大ロボットだった。
しまった、ロボットものアニメとか考えるんじゃなかった!!!!
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