服従の呪い
ルカは拘束されたままのふたりの獣人を覗き込んだ。ディーたちに手ひどくやられた彼らは、まだ気絶したままだ。
「ディーが『殺すな』って言ってたから連れてきちまったけど、正直お荷物だろ」
「簡単に開放するわけにもいかないしね」
エメルは私たちの追跡に灰色の獣人を利用したと言っていた。
鼻が利くとも言っていたから、きっとにおいで私たちの行方を追っていたんだろう。
彼をエメルのもとに戻したらまたすぐに見つかってしまう。
「あの場で殺したほうが、あと腐れはなかったんだがな」
オスカーが冷静に意見を口にする。
現役騎士の思考は物騒だ。
妥当な判断だと思うけど!
「彼らはゲーム内ではネームドキャラだったんですよ」
ディーがぽつりと言った。
「ルート全部を検証したわけではありませんが、聖女の配下に降る可能性がありました」
「だから殺すなって言ったのね」
「ゲーム? コレット、お前たちは何を言ってるんだ」
「女神の天啓よ。ふたりを救える可能性があるみたい」
ゲームとかシミュレーションとかの話を、ファンタジー世界生まれのオスカーに言っても通じない。私はそれっぽい言葉で軽く説明してから、女神を見た。
「邪神に直接操られている人は干渉しにくいって言ってたけど?」
「ちょっと待ってくださいね。詳しく調べてみます」
女神は彼らのそばにしゃがみこむと、その顔をじいっと見つめた。
彼女にしかわからない何かがそこにあるんだろう。
「コレット?」
「ほっとけよ。ああいう顔して何もないところと話してる時は、マジで女神と会話してるから」
「……本当に?」
いろいろ見たあとでも、まだ信じられないらしい。
幼馴染は、初めて会った少女を見るような目で私を見る。
ちょっと居心地悪いけど、事実だからなあ。
「……そうですね、なんとかなるかも」
しばらくして女神が顔をあげた。
「コレットさん、こちらを見てください」
女神は獣人の服の胸元を広げた。ちょうど心臓の上あたりに黒々とした不気味な模様が刻まれている。
「これは服従の呪いを刻んだ焼き印です。彼らは邪神に直接支配されているわけではありません。呪いの力で支配されているんです」
「直接支配と呪いの支配って、違うんだ?」
どっちも支配には変わらないと思うんだけど。
「つながりの強さが全然違うんですよ。アギトの姫エメルはその中でも特に強い支配を受けています。獣人たちも同程度の支配を受けているように見えたのは、彼女がそばにいたからでしょうね」
「獣人はエメルに比べてつながりが弱い、ということは呪いを解ける?」
「さきほど、まんまとエメル姫の追跡をかわしましたからね。ディーの治療を差し引いても、この程度は消費して良いと思います。ですよね、ディー」
運命の女神に意見を求められたディーは、静かにうなずく。
「はい、私も彼らの解呪を推奨します」
「わかった。じゃあ呪いを解いてあげて」
「は~い」
女神の手が獣人たちの体に触れる。
そのとたん、一瞬女神の輪郭がほどけて、光り輝く神々しい姿へと変わる。久しぶりに見た、女神としての姿だ。
「いたいのいたいの、とんでいけ~」
しかし、唱えた呪文ですべてが台無しになった。
膝小僧をすりむいた子供じゃないんだから。
彼女が見えるのが私とディーだけでよかった。こんなもの、オスカーやルカに見せたら信仰心が失せてしまう。
「はい、これでオッケーですよ」
女神が体を起こして、元の姿に戻る。
獣人たちの胸元からは、呪いの印がキレイさっぱり消えていた。
呪文は雑だけど、効果はしっかりあったらしい。
「ええと……呪いが消えたから、このふたりがエメルに操られることはなくなったみたい」
私が振り返ると、オスカーもサイラスも真っ青になって固まっていた。
一度ならず二度までも奇跡が起きてるからなあ。
驚いて絶句するのも無理はない。
ルカはというと、いい加減慣れたのかのんびりモードでくつろいでいた。
「じゃあこのまま連れていって大丈夫だな」
どころか平然と獣人を受け入れている。
逆境を乗り越えた少年王子、強い。
サイラスが大きくため息をついた。彼も何かをあきらめたっぽい。
「ともかく、コレット姫をお救いするという、当初の目的は果たせたのです。このまま国境を目指しましょう」
騎士三人に加え、馬車まで手に入ったのだ。
旅路はさらに楽になるだろう。
しかしというかやはりというか。
そう簡単に国境を通過することはできなかった。
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