天気予報
「あ……」
深い堀の向こうにあるのは、燃え上がるイースタン城の姿だった。
あちこちから炎の赤い舌がのぞき、夜だというのに、城全体が明るく輝いている。
あれって結構まずくない?
火の手があがるイースタン城を見て、思わず私はディーを振り返った。
アクセルたちの目をくらますために陽動が必要なのは、私もわかってた。だから騒ぎが起きて、城の人たちがパニックになるのも納得してた。
でもここまでやれとは言ってない。
あそこには、イーリスだって、洗脳されたテレサだって残ってるのに。
城が全焼してしまったら、イーリスが兄をいさめるも何もないだろう。
「ディー、やりすぎだよ! あんなに燃えて……どれだけ被害が出るか!」
「大丈夫ですよ」
子ユキヒョウは、平然と城を見る。その表情には何の不安も見えなかった。
どこが大丈夫だというのか。
「ディー!」
声をかける私の頬に、ぽつ、と何かが落ちてきた。
「え……? 水?」
困惑しているうちに、ぽつ、ぽつ、と大粒の水滴がどんどん空から落ちてくる。
「な、なに、雨?」
「今夜から明日の朝にかけて、周辺一帯に大雨が降る予定です。城は派手に火が出ているように見えますが、すぐに消えますよ」
「え……、火事を消し止めるために、雨を降らせたの?」
雨は、すなわち大量の水だ。
広範囲にわたって自然現象を起こすのは、かなりの奇跡ではないだろうか。
しかし、私が首から下げているペンダントは、明るい青のままだ。
「奇跡じゃありませんよ」
ふい、とディーはアイスブルーの瞳をこちらに向けた。
「コレット様、お忘れですか? 私はゲームデータとしてここ数日の世界の歴史を把握しています。各国の情勢、人の動き、そして……日々の天候も」
「あ……」
言われてみれば、そんな要素があった気がする。
監禁部屋に閉じ込められているのに、外で雨が降ってるとかそんな情報提供されても、意味がなかったから、あんまり気を配ってなかった。
「あなたが行動すれば、人の運命が変わります。しかし、その影響範囲はあくまで人の世まで。大きな自然現象には影響しません。事前に観測さえしていれば、いつどこで雨が降るか、簡単にわかるのですよ」
「全部織り込みずみ……だったってこと?」
私が目を丸くしていると、ディーは猫の姿のまま、器用に肩をすくめてみせた。
「私の使命は、あなたをお守りすること。ですが、さすがに主の友人や侍女の身に危険が及ぶような火のつけかたはしません」
手段を選ばないように見えて、しっかり配慮してるとか。
私の従者、有能がすぎないだろうか。
「そちらの小屋に入りましょう。私たちも、雨をしのがなくては」
「うん……」
ディーにうながされた私たちは、小屋の中に足を踏み入れた。
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