第50話
馬車の中ではハリィメルもロージスも無言だった。ハリィメルはできるだけしゃんとしていようと思うのだが、馬車が揺れるたびに痛む頭が気力を長続きさせてくれない。気がつけば背もたれにぐったりもたれてしまっていた。
「おい、着いたぞ」
ロージスに声をかけられるまで、馬車が停まっていたことにも気づかない有様だ。
馬車から降りると、ハリィメルはロージスに礼を言って教室ではなく職員室に向かった。
昨日まで熱があった。クラスメイトにうつすわけにはいかないので、念のため別室でテストを受けさせてほしい。
担任にそう頼み込むと、ハリィメルの顔を見て眉をひそめられた。
「テストを受けず帰った方がいいんじゃないか? お前の普段の成績なら、追試を受ければなんの問題もないぞ」
「……それでは、駄目なんです」
追試では成績評価はされても順位には反映されない。ハリィメルはどうしても今日テストを受ける必要がある。
この体調では一位は無理かもしれないが、十位以内に入らなくては学校を辞めさせられる。いや、一位をとってもあっさり「辞めろ」と言われるくらいなのだ。成績なんていくら頑張っても無意味なのかもしれない。でも、ハリィメルには他に戦える武器がない。
ふと気づくと、そんな感じの内容が口から漏れていた。どこまで喋ったのかわからないが、担任は怪訝そうな表情を浮かべた後で「わかった」と頷いた。
「では、レミントンのテストは二階のC教室で行なう。コリッド、連れていってやれ」
横から「はい」と返事が聞こえて、ハリィメルはロージスが隣に立っていたことに初めて気がついた。
「ひ、ひとりで行けま……」
「いいから来い。途中で倒れないように付き添うだけだ」
ロージスの言い方はそっけなかったが、肩に手を回してさりげなく背を支えながら二階まで連れていってくれた。
「あの、ありがとうございます……」
「……」
C教室の前で礼を言うと、ロージスはじっとハリィメルをみつめてから口を開いた。
「お前、どこまでひとりで頑張るんだ?」
「……は?」
意味のわからないことを言われて、ハリィメルはぼやけた視界でロージスを睨みつけた。
(どこまでって……そんなの、私は頑張らないと、ずっと、ひとりで……)
考えがまとまらなくて、ハリィメルはなにも言うことができなかった。
ロージスはもの言いたげにハリィメルをみつめていたが、チャイムが鳴ったのでなにも言わずに歩み去っていった。
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