第49話
月曜の朝、寝台から身を起こしたハリィメルはだるい体にむち打って立ち上がった。
昨日より、熱は大分下がったようだ。
(大丈夫。行ける。私は、やれる)
頭が重く、ともすればふらつきそうになるが、ハリィメルはのろのろと登校する準備を始めた。
「ハリィメル!? なにをしているの?」
制服を着て降りてきた娘を見て、母が慌てて駆け寄ってくる。
「そんなに真っ赤な顔をして、まだ熱があるじゃない! 寝ていないと」
「学校に行くの。テストだもの」
「馬鹿言わないで! こんな状態でテストなんて無理よ」
玄関から出ようとするのを母に止められて、ハリィメルはその手を乱暴に振り払った。
「そうやって、テストを受けさせないで退学させるつもりね!? 思いどおりにはならないから!」
「ハリィメル……」
とにかくテストのことで頭がいっぱいのハリィメルには、母の表情を見る余裕もなかった。どんなに邪魔をされても絶対にテストを受けてやると決意し、肩に力を入れて背筋を伸ばした。
普段より重たい扉を開けて外に出て、太陽のまぶしさにくらくらしながら辻馬車の停留所へ足を向けようとした。
だが、門から出ようとしたところで、何故か立派な馬車が門の前に停まった。
「ハリィメル?」
馬車から降りてきたロージスが、ハリィメルの姿を見て目を見開いた。
彼の姿を一目見て、ハリィメルは思いがけずほっと安堵した。
(具合は悪くなさそう……よかった)
自分を助けたせいで、ロージスまでテスト当日に熱を出していたらどうしよう、と熱に浮かされながらずっと気になっていたのだ。
「お前……ずいぶん具合が悪そうじゃないか! なんで学校に行こうとしているんだ?」
ロージスの元気な姿に胸を撫で下ろしたハリィメルだが、そう言われてむっと口を引き結んだ。
「あなたには、関係ないでしょう」
そっけなく言って、彼の横をすり抜けて道を歩き出す。
「待てハリィメル! まさか辻馬車に乗って行く気か? その体調で!」
まさかもなにも、それしか登校手段がないのだ。ハリィメルはうるさく騒ぐ男を無視して歩みを進めた。
「待てって! 無理するなよ。そんな状態でテストを受けても……」
「いいからっ、もう邪魔しないでください!」
母も家から出てきてロージスとハリィメルのやりとりをはらはらと見守っている。
なにがなんでもテストを受けると言い張るハリィメルに、ロージスはひとつ溜め息を吐いてからこう提案してきた。
「わかった。だが、辻馬車には乗せられない。この馬車に乗るんだ」
公爵家の馬車に乗れと迫られて、ハリィメルは露骨に嫌そうな表情で首を横に振った。
「駄目だ。この馬車に乗るか、寝台に戻るかだ。どちらかを選べ」
(なんで、あなたにそんなことを言われないといけないのよ)
ハリィメルは内心でそう憤ったが、ここでの言い合いに体力を費やすのは避けたかった。
長い時間逡巡した末に、ハリィメルはしぶしぶ公爵家の馬車に乗り込んだ。
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