第44話
「学校に通いたければ十番以内に入れって言われて、私はずっと一番をとっている! それなのに、どうして辞めさせられなきゃならないのよ!!」
ハリィメルの本気の怒声に、母は一瞬言葉を失ったようだった。おっとりして従順なマリーエルとは違い、ハリィメルは気が強くて親の言うことに逆らうこともある。だが、声を荒らげて感情のままに怒鳴り散らすようなことは滅多になかった。娘が何故これほど怒っているのか、母にはまったく理解できなかったのだ。
「学校は休まないし、見合いのための準備なんかしないわよ! 見合いにも行かないわ!」
「なにを言っているの! もう日取りも決めてしまったのよ!」
「私が決めたんじゃない! そっちが勝手に決めたんじゃない! 自分で決めたんだから自分が見合いに行けばいいじゃない!」
「まあ……ハリィメル、我が儘を言わないでちょうだい」
「私が我が儘!?」
ハリィメルは一度言葉を切って大きく肩を揺らして深呼吸をした。
「どいつもこいつも……私の努力を全部踏みにじろうとするからっ、私は自分を守りたいだけよ!! 母さんの自己満足のために、私の人生を犠牲にされるなんて冗談じゃないわ!!」
母が顔色を変えた。
「ひどいわ。そんな言い方……私はハリィメルのためを思って」
「結婚だけが幸せじゃない!! 自分がそれ以外になにもできなかったからって、私の可能性まで潰さないで!!」
ハリィメルの怒声は隣近所に響いているだろう。使用人達も遠巻きにおろおろと見守っている。井戸端会議の話題にされたって知ったことか。
これまでの、溜まりに溜まった鬱憤がハリィメルを突き動かした。
「姉さんがおとなしく従ったからって、私にまで母さんが望む結婚を押しつけないで!!」
「なっ……」
絶句した母がよろめいた。ハリィメルはそんな母にかまわず泣き叫んだ。
「母さんなんか嫌い!! 私の夢も努力も全部取り上げて、無理やり結婚させて私を不幸にしようとする母さんなんか大嫌い!!」
これまで抑えてきた本音をぶちまけて、ハリィメルは家を飛び出した。
怒りと悲しみと悔しさで、泣きながら走り続けた。
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