第17話




 ハリィメルが決意を固めていたその頃、ロージスは自身の作戦が順調に進んでいることを確信して不敵な笑みを浮かべていた。


 軽い接触を繰り返したことで、ハリィメルは大分ロージスを意識してどきどきしているはず。

 ときめきを抑えられないように胸に手を当てている姿をよく見る。

 最近はよく目も合う。顔を赤くして目を潤ませて、涙目でロージスをみつめている。


(いい感じだな。さすがは俺!)


 得意になるロージスだが、実際はときめいているのではなく触れられてぞわっとして怒りを抑えようとしているだけだし、目を潤ませてみつめているのは睨んでいるだけだ。

 よく見れば気づくだろうが、自分に自信のあるモテ男は女子を見る目が曇っていた。


「ダイアン、ティオーナ、見てろ。明日、俺はハリィメル・レミントンを虜にしてやるぜ」


 ふたりからは呆れた顔で「ほどほどにしておけよ」と言われたが、ロージスは聞く耳を持たなかった。

 人間、物事が上手くいっていると思い込むと周りが見えなくなるものだ。


 ダイアン達の心配を余所に、ロージスは勝ち誇った気分で明日のプランを考えた。


(図書室で勉強しているところを、後ろから抱きしめるってどうだろう? びっくりして、どきどきが止まらなくなるに違いない)


 そっと背後に立って抱きしめると、驚いた彼女は慌てて振り向き、至近距離でロージスと目が合って真っ赤になるはずだ。


(しかし、もっとなにかインパクトというか、確実にとどめを刺せるようなシーンにできないだろうか)


 ハリィメルの心を確実に射止めるやり方を模索するロージスの脳裏に、受け取ってもらえなかった包みがよみがえった。


 そうだ。贈り物。今なら、ロージスに心引かれているであろうこの状況でなら、受け取らずにはいられないのでは。


 前に用意したブローチは年頃の娘がいる侍従にやってしまったので、別のものを用意しなければならない。


 この時、ダイアンかティオーナに相談していたら「やめておけ」と止めてくれたはずだが、「上手くいっている」と思い上がったロージスはすべて思うままに決めてしまったのであった。


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