第16話
放課後に図書室に向かうと、やはりロージスもついてきて向かいに腰を下ろす。ハリィメルは絶対にそちらを見ないようにノートにかじりついた。
話しかけられても無視しようと決めていたが、今日のロージスは黙ったままだった。ハリィメルが勉強を始めるとふらりと席を立ち、数冊の本を持って戻ってくる。
向かいの席で読書を始めたロージスに、ハリィメルは「なにを考えているのかしら」といぶかしんだ。
(もしかして、押して駄目なら引いてみろって作戦でもやっているのかしら)
自分からは話しかけずに、ハリィメルの気を引くつもりかもしれない。
もちろん、ハリィメルはそんな作戦に惑わされたりしない。静かにしていてくれるならそのまま放置でいいだろう。
ロージスの存在を意識の外に追いやって、ハリィメルは勉強に集中しようとした。
ロージスはしばらくの間、ぱらぱらと頁をめくっていたが、興味を引かれなかったのかぱたんと本を閉じて立ち上がった。
席を立ったロージスは、ハリィメルの頭にぽんっと手を置いてから、書架の方へ歩いていった。
一瞬だけ、何気なく頭に置かれた手に、ハリィメルは思わずペンを握る手を止めてロージスの背中を見送ってしまった。
(――なに、いまの?)
一瞬の接触に、ハリィメルは戸惑った。
別の本を持って戻ってきたロージスと目が合う。
にっこりと微笑まれて、ハリィメルはぞわっとした。
再び目の前で本をぱらぱらやられて、悔しいことに気が散って仕方がない。
「……あの」
不本意ではあるが、ハリィメルは意を決して話しかけた。ロージスは無視することなく「ん?」と首を傾げる。
「……借りていって、家で読んだらどうですか?」
目障りだという気持ちを隠さずに声ににじませて言うと、ロージスはちょっとの間をあけてふっと短い息を吐いた。
「そうだな」
そう応えると、ロージスは机の上のハリィメルの右手をきゅっと軽く握ってから立ち上がった。
「じゃあ、また明日な」
右手に残る違和感に呆然とするハリィメルを残して、ロージスは去っていった。
その日から、ロージスはやたらとハリィメルに触れるようになった。それも、周りにばれない程度の軽い接触だ。
すれちがいざまに手や肩に触れたり、図書室で勉強するハリィメルの頭をそっと撫でて「また明日な」と帰りの挨拶をしたりする。
おおっぴらに触られたのなら抗議もできるが、偶然を装っていたり帰り際の一瞬だったりするので文句を言う隙がない。たちが悪い。
(なんのつもり?)
ハリィメルは苛立った。触れられるたびに背中がぞわぞわするので本当にやめてほしい。
「……誓約書に接触禁止も書いておけばよかった」
そう後悔しながら、ハリィメルは「明日こそは『触らないでください』とはっきり言ってやる」と決意を固めたのだった。
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