第13話



 その頃、とある公爵家では三人の男女が真剣な顔つきで話し合っていた。議題は『ハリィメル・レミントンに贈り物を受けとらせるにはどうすべきか』。


「お詫びは拒絶されたし、装飾品も受け取る気がないんじゃあ、贈り物作戦はもうやめた方がいいかもなあ」


 ダイアンがそう言うと、ロージスは悔しげに頭を掻きむしった。


「諦めたら負けな気がする! なんでもいいから受け取らせたい!」

「あまり拗らせるなよ……」


 そもそも、当初の目的はハリィメルを翻弄して勉強が手につかないようにさせることだったのに、現状はロージスの方が翻弄されて勉強が手につかないようにされている。

 手を出した相手が悪かったということか。


「なにかいい方法はないか……あの女の弱みを握ればいいのか?」

「弱みを握られた相手から贈り物を寄越されるレミントン嬢が気の毒だからやめろ」


 向こうは困惑するに違いないし、こっちだって困惑する。


「私としたことが……肝心なことを忘れていたわ」

「なに?」


 ティオーナは眉間にしわを寄せてふるふると首を横に振る。ロージスは勢い込んで尋ねた。


「どういう意味だ!?」

「ごめんね、ロージス。あなたは女性から好かれるものとばかり思い込んでいたから、根本的な間違いに気づくことができなかった……」

「間違い、とは?」


 男ふたりの視線を浴びたティオーナは、かっと目を見開いて言い放った。


「女の子にとって、好きでもない野郎から贈られた物は、ゴミか恐怖でしかないのよ!!」


 あまりに力強い台詞に、野郎達の目が点になった。


「いい? よく聞きなさい。馬鹿な男はとりあえず宝石やドレスを与えておけば女は喜ぶ、と勘違いしているけれど」

「ち、違うのか?」

「家族や好きな人からもらった物ならもちろんうれしいけれど、興味のない相手から「君のために選んだんだ」とか言われて渡されたら、悲鳴をあげるレベルで怖いわよ!」


 ティオーナは拳を握って力説した。


「そりゃ、不特定多数の男性から金品をせしめる女性も世の中にはいるわよ? でもそんなのは男なんて札束にしか見えないプロのおねーさんか、腹に黒い石詰め込んだ悪女のどちらかよ!」


 伯爵令嬢が何故か夜の商売に詳しそうなことを言い出すので、ロージスとダイアンは少し心配になった。


「さては、またおばさんの書庫から官能小説をくすねて読んだな?」

「前に読んだのばれた時、肝が冷えるほどに怒られたって言っていたのに……」

「とにかく! 相手はプロでも腹黒でもなく、純情な女の子なのよ!」


 ティオーナがロージスの鼻先にびしぃっと人差し指を突きつけた。


「レミントンさんはまだロージスを警戒しているのよ。贈り物を受け取れるほど心を許していないのよ!」


 ティオーナの言葉を聞いて、ロージスはハリィメルのかたくなな態度を思い出した。


 頬を染めることもなく、話しかけてもそっけなく、時には無視。

勉強中に邪魔をすればうんざりしたような表情を見せる、


ここまでされれば、ロージスにもわかる。ハリィメルはロージスのことが少しも好きじゃない。


しかし、ではなんで交際を申し込んだ時に「わかりました」と答えたのだろう。

嘘告だとばれていたのなら、それを指摘してロージスを罵ればよかったのに。


 ばれていないのなら、何故わざわざ秘密の交際をする気になったのか。誓約書まで用意して。


「と、いうことで、贈り物をするのはレミントンさんがロージスに好意を抱いてからにした方がいいわ」

「好意……」


 ロージスはハリィメルが頬を染めて自分をみつめるのを想像しようとしたが、浮かび上がってきたのは図書室のテーブルで熱心にノートに向かっている小さな背中だった。


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