第8話
しばし睨み合った後で、ハリィメルははっと我に返った。
(いけない。こんなことしている暇はないのに)
ハリィメルは力を込めて包みをロージスに押しつけると、視線を落として視界からロージスを追い出した。
「おい」
「……」
呼ばれても顔は上げず、心の中でひたすら「早く立ち去れ」と念じる。
「お前……どこまで可愛げがないんだよ」
苛立って呟かれた台詞にぴくりとペンを持つ手が震えた。が、ノートにちょっと歪んだ文字を残しただけで、何事もなく続きを書き込んでいく。
しばらくの間、じっとり睨まれている視線を感じたが、やがて諦めたのかロージスは席を立って図書室から出ていった。包みも持っていってくれたので、ハリィメルはほっと息を吐いて体の力を抜いた。
(あんな公爵令息のお遊びなんかに邪魔されてたまるもんか)
入学した日、麗しい公爵令息が同じクラスになって、女子達が色めき立っていた。
『素敵ね』
『話しかけてみたら?』
『会話のきっかけがないかしら?』
初めて顔を合わせた女の子同士でも、かっこいい男の子の話題でなかよく盛り上がっていた。
ハリィメルも二、三度話しかけられたが、その時のハリィメルはそれどころじゃなくて、まともな返事ができなかった。周りを見る余裕なんかなかったから。
だから、ハリィメルが初めてロージスを認識したのは、入学してすぐのテスト結果が張り出された時だった。
『お前がレミントンか』
自分の上に他の人間の名前があるのが信じられないという表情の後で、彼はハリィメルを睨んだのだ。
誰からも好かれて、愛されて、地味なガリ勉女をからかう余裕もあって、なんでも持っている人間だ。
一つくらい、テストの順位くらい、ハリィメルが勝ったっていいじゃないか。
ハリィメルには、一位をとり続けるしか道はないのだから。
(まあ、相当腹を立てているだろうし、そろそろ近寄ってこなくなるよね。きっと)
ハリィメルは勉強に集中するために頭を振ってロージスの存在を追い払った。
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