第5話
翌朝、ハリィメルが登校すると、机の中にまたしても手紙が入っていた。
昨日の態度で思い通りにいかないと悟って遠ざかってくれることを期待していたが、そう上手くはいかないようだ。
どこそこに来い、という「ちょっと面貸せや」系の内容だろうと思って手紙を開いたが、予想外に長い文章が綴られていてハリィメルは内心で「うげっ」と呻いた。
「昨日は怒鳴ってしまって悪かった。
だが、せっかく付き合うことができたというのに、少しも話せないのでは俺も切ない。
人目があると話せないだなんて、お前は恥ずかしがりやなんだな。
それなら今日の放課後に中庭で、ふたりだけで会おう。
待っている。」
実に迷惑だ。
ハリィメルの足を引っ張る努力をするより、その時間を勉強に費やせばいいではないか。まあ、一位を譲るつもりはないが。
「はあ……めんどうくさい」
要約すると「放課後に面貸せや」ということだ。
行きたくはないが、すっぽかして埋め合わせを要求されたらさらに面倒だ。
仕方がなく、ハリィメルは授業が終わると手紙に従って中庭に向かった。
「レミントン!」
ハリィメルが姿を見せると、ロージスは勝ち誇った顔で手を振った。ハリィメルはできるだけ無の境地でいられるように薄い微笑みを浮かべて近寄った。
「これで遠慮せずに話せるな。ここには俺達しかいない」
「……」
「レミントン……いや、ふたりきりの時はハリィメルと呼ばせてもらってもいいか?」
「……おい、聞いているのか?」
無反応なハリィメルに、ロージスがむっと眉間にしわを寄せた。
ここには誰もいないのだから、「人前だから話せない」という言い訳は使えない。そう主張するロージスの視線を無視して、ハリィメルは校舎の方をすっと指さした。
「なんだ?」
「二階の窓を見てください」
言われて見上げれば、二階の窓の向こうには二、三人の女生徒が立ち話をしているのが見えた。
「あそこに人がいるので、誠に残念ながら会話できません」
「はあ!? 校舎の中と外だぞ!」
「でも、人がいることに変わりはありませんから。彼女達が窓の外を見て、私とコリッド公爵令息が一緒にいるところを目撃されたら秘密がばれてしまいます。とっても悲しいですが、秘密がばれないように私はこの場を去らなくてはなりません。では、失礼」
それだけ言うと、ハリィメルはさっさとその場から退散した。背後から名前を呼ばれたが、振り返ることなく校舎に戻り、いつも通り図書室に向かう。
「かなり怒らせただろうな」
嘘の告白を断るのは簡単だったが、それでこちらが真摯に断ればあの連中は「告白を本気にして謝ってきた」と笑うのだろう。
告白を真に受けたと思われたくないので、受け入れたふりをしつつまともに相手をせず、向こうが怒ってやめるまでをやり過ごすことにしたのだ。
公爵令息相手にひどい態度だとは思うが、誓約書があるということと、向こうの「周りにばれたくない」という弱みがあるので平気だろう。
安易に人をからかおうとする連中を、こちらがからかい返してやってなにが悪い。
明日は声をかけられなければいいと祈りながら、ハリィメルはテーブルに勉強道具を広げた。
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