第7話

「《夢幻》を、か。」


「ええ、連中の保有する《愚者》と守護結界は厄介だ。スティールヤードと手を組まれても困る。ちょうど強力な大アルカナも手に入り防衛に回す戦力も生まれたのです。襲撃を仕掛けるなら今かと思いまして。」


正直なところ俺はその《愚者》の危険性もイマイチ理解できていないし、ぶっちゃけまだ潜伏で良くないか?とも思ってしまう。だがこのランバンにはやるといったらやると言う凄みがある。止まらないだろう。


「ランバン、具体的な方針としてはどうだ?」


「連中の本拠地は割れています。私と正義様、エレジーで今夜強襲します。具体的には奴らの保有する拠点、とある地区を私の手で火の海にします。その後は臨機応変に対応しつつ、愚者が出現し次第私とエレジーが時間を稼ぎ拘束、正義様の銃弾を叩き込む算段です。」


今夜、今夜かあ…見たいテレビあったんだけどなぁ…。まあいいか…。そして出てくるのか噂でしか効いたことのなかった人物、エレジー。《塔》のアルカナを持ってるって聞いていたが詳しいことは何ら教えられていなかったから実際に目にするのが少し楽しみではある──いかんな、大分この業界に毒されてきた。

それにしてもランバンも出るのか。いつぞやの戦闘演習を思い出す。対国家想定の圧倒的な能力。もうコイツ一人で終わらせられる気がしなくもないんだが。二人増えたところで何か起きるのだろうか。いや起きへんやろ。プラン上では俺にも役割があるようだけれど、実際のところはコイツ一人で片付けれると思うんだけどなぁ。


「取り敢えず正義様は自室で待機していただければ。実行前には私が呼びに行きます。そうですね、大体3時間後を想定していただければ。移動には《戦車》の能力の一つ、追加兵装の大型ブースターで高高度へと移動し、そのまま私が輸送します。愉快な空の旅を楽しみにしててくださいね。」


そんなことを微笑みながら言うランバン。くっそイケメンだなコイツ。腹立ってきた。イケメンなら無理言っても許されるってか。カーッ!!今回の作戦バックレてやろうかなー!あーあ!急にやになってきたなー!!

嘘嘘流石にジョーク。俺もこういう重要そうなところで好感度やらなんやら稼がないほど馬鹿じゃない。


「…分かった。任せておけ、ランバン。」


「あなたにそう言って貰えるのなら安心だ。任せましたよ。」


ランバンと別れて自室へと歩みを進める。そうだ、忘れない内にテレビの録画を済ませて置かなければ。少し急ぐとしよう。


◆◆◆◆


「正義様、いらっしゃいますか?」


「ランバンか。今出よう。少し待っていてくれ。」


三時間後、ランバンが俺のもとを訪ねてきた。

私服から上下を動きやすいジャージに着替え部屋を出る。時刻は現在10時を回った程度だろうか。ランバンに連れられ外に出ると夏の暗い空が辺り一面に広がっている。薄いジャージ上下ではなかなか肌寒いな。まあここから嫌でも温かくなるからよしとしよう。

ふと横を見ると金色の髪を肩まで伸ばした女性が立っていた。身長は150センチ程だろうか。大分小柄な彼女がエレジーなのだろう。


「では、始めるとしましょう。浄化の第一歩です。張り切っていきましょう。」


「ん、そうね。この不浄なる世界に救済を。じゃあ私の能力で時を止める。手を繋いで。時の世界に入るには私に触れてないとダメ。」


は?時を止める?マジか。ブッ飛び能力出てきたなぁおい!!早くもパワーインフレを感じてきたな。もう不安になってきたぞ《正義》さん?お前はいつになったら全力を出してくれるんだ。もう拳銃一丁じゃあインフレについていけてないぞ。お前の特性もうリロードなしと防御貫通しかないぞ。

現実に目を背けたくなったところで手を繋ぐ。もちもちしててかわいいなあ(脳死)。ハッ、いかん。生まれてこの方女の子と手を繋ぐことなんてなかったから初めての感触に気持ち悪い感想を溢してしまった。


「天を裂き、地を照らす。これこそ人の身に注がれる神の威光と知れ。《タワー》、起動。」


カチ、と時計の針が止まるような音が鳴り響き、世界がモノクロに見えるようになった。


「これで数十秒私たち以外が動くことはない。ランバン、早く。」


「分かっていますとも。『メインシステム起動。巡航モードへと移行。接続確認。神経回路構築完了。システムオールグリーン。《戦車》、完全起動。』離陸しますよ、良く捕まっていてくださいね…ッ!」


ランバンに抱えられ急上昇。遠く離れていく地表。大空を飛ぶ感触。アカン。意識が飛ぶ。


「ラン…バン…。すまない、意識が…」


「眠っていただいても構いませんよ。到着すれば起こしますので。…っと、特殊迷彩起動。保護防壁展開。速度、マッハ3…突入します!!」


そんなランバンの声を聞いたあと、ブツリと意識が途切れた。

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