【完結】闇夜の茶会

湊 マチ

第1話 茶会の招待状

「皆さん、こんばんは。今日は、若き茶人の村上一郎が体験した不思議で恐ろしい出来事をお話ししましょう。場所は、江戸時代から続く古い屋敷『桜庭館』。その美しい庭園と静寂の中に佇む茶室、そして一通の招待状から始まります。では、さっそくその物語の始まりへとご案内しましょう。」


薄明かりが差し込む和室で、村上一郎は座卓の上に広げた茶道具の手入れをしていました。部屋の奥には祖父の代から伝わる掛け軸が飾られており、その落ち着いた雰囲気が彼の心を和ませていました。


その時、「トントン」と扉を叩く音がしました。静まり返った部屋に、その音は不気味なまでに響き渡ります。一郎のもとに届けられたのは一通の手紙でした。和紙に包まれたその手紙には、美しい筆跡で「村上一郎殿」と書かれており、封を開けると中には正式な招待状が入っていました。送り主は桜庭館の主人、桜庭仁一。桜庭館は、その見事な庭園と伝統的な茶室で名を馳せており、一度訪れることが茶人にとっての夢でした。


「一郎さん、その招待状をご覧になった時、どのように感じましたか?」


「正直言って、驚きと興奮が入り混じった気持ちでしたね。桜庭館からの招待なんて、一生に一度あるかないかの機会ですから。」


しかし、一郎の心の片隅には、どこか不安がよぎりました。桜庭館には、かつて一族に起こった悲劇の噂が囁かれていたからです。その噂を思い出すたびに、背筋がゾワゾワと寒くなりました。それでも、一郎はその不安を振り払い、招待に応じる決意をしました。


招待状に記された日に、一郎は着物を整え、茶道具を持って桜庭館へと向かいました。夏の終わり、涼しい風が吹き抜ける中、彼は古い石畳の道を「コツコツ」と歩いていきました。周囲には、竹林が風に揺れ、「サワサワ」と葉擦れの音が響いていました。その道のりは、まるで時間が止まったかのような感覚を覚えさせました。


やがて、桜庭館の立派な門が見えてきました。門の両脇には立派な石灯籠が並び、静かな威厳を放っていました。門をくぐると、見事な庭園が広がり、その中心には歴史を感じさせる茶室が建っていました。


「桜庭館の庭園は、本当に美しいものでした。古い松の木々、手入れの行き届いた石畳、そして静かに流れる小川。すべてが完璧な調和を保っていました。」


しかし、庭園の奥へ進むにつれ、一郎はどこか異様な気配を感じ始めました。木々の間から、ふと影が揺れるのを見たのです。その瞬間、心臓が「ドクン」と大きく鳴り、一郎は立ち止まりました。その影は、一瞬で消え去りましたが、何かが自分を見ているような感覚に襲われました。彼はその影に一瞬目を奪われましたが、すぐに気を取り直して茶室へと向かいました。


茶室に到着し、「ギシギシ」と古びた戸を開けると、招待状を見せると、桜庭仁一が出迎えてくれました。仁一は厳格そうな顔立ちの老人で、彼の眼差しには何か重いものが宿っているように見えました。二人は茶室に入り、落ち着いた雰囲気の中で話を始めました。


茶室の中は、古い掛け軸や茶道具が整然と並べられており、一郎はその美しさに見とれていました。しかし、ふと掛け軸に目をやると、そこに血のようなシミが浮かび上がっているのを発見しました。


「掛け軸のシミを見た時、何か不吉な予感がしました。まるで、その場から逃げ出したくなるような感覚です。」


それでも、一郎はそのシミについて仁一に尋ねることはできませんでした。不気味な予感を抱えながらも、茶会の準備を進めるしかなかったのです。心の中では、何かが起こる予感に背筋がゾクゾクと寒くなりました。


こうして、村上一郎の桜庭館での一夜が始まりました。皆さん、次回はこの茶会で起こる恐怖の出来事をご紹介しましょう。それでは、またお会いしましょう。

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